序話 猫の目探偵事務所
初めまして、鷹鴉と申します。
小説の投稿をするのは初めてですで、
温かい目で見てくれると幸いです。
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序話 猫の目探偵事務所
少し暖かくなってきた春の初め、一人の男が目の前にある〝探偵事務所〟
と思われる建物の入り口に立っていた。
「ここ…、だよな。」
男がそう思うのも無理はなかった。
探偵事務所という文字はあるものの、この場所は大通りから外れており、
寂れているという印象を感じられた。
男は疑問をぬぐいきれないまま、探偵事務所と思われる扉を開けるとカランと音が鳴った。
「ようこそ猫の目探偵事務所へ、そのまま奥にどうぞ。」
扉を開くと元気のいい声と共に、従業員と思われる一人の少女が目の前に立っていた。
言われるがまま奥に進むと、探偵と思われる蒼い瞳を持ったスーツ姿の女性が、
煙草をふかしながらソファーに座っていた。
「反対側のソファーに座ってくれ。」
探偵と思われる女性がけだるげな声でそう言われ、男は言われるがままに反対側のソファーに座る。
「心来何か飲み物を。」
女性がそう言うと、「分かりました。」という声と共に
心来と呼ばれた少女が別の部屋に消えていった。
「さて、初めまして私はこの事務所で探偵をしている妖霊猫というものだ。
周りからは猫探偵と呼ばれている。」
妖霊猫と名乗った女性は、
名前の通り猫の様な印象を受けた。
妖霊猫及び猫探偵は、一度手元に視線を移すと
手に持っていた煙草を目の前にある灰皿に押し付け煙草の火を消した。
猫探偵が大きな欠伸をしたと同時に、お盆を持った少女、心来が戻ってきた。
「麦茶をどうぞ。」
男と猫探偵の前に麦茶が置かれ、猫探偵はそれを一気に飲み干し。
「それで、なぜここに?」と、なぜこの場所に来たのかを聞いてきた。
そう言われ、男は何故この探偵事務所に来のかを思い出したかのように話し出した。
「私は鈴木健司と申します。友人に、ここでなら解決
出来るんじゃないかと言われまして、ここに来ました。」
男、鈴木健司がなぜこの場所に来たのかを話し、探偵に依頼しようとしたことを話し始める。
「私には今年で19になる娘がいまして、妻には先立たれてしまいましたが
私なりに娘のためを思い一生懸命に育てて来ました。
ですが、最近彼氏を作ったそうなのですがその彼氏が怪しいいんです。
自分のことをほとんど何にも語らないので私はその男の名前すら知りません。
それだけでも怪しいのに娘が帰ってくるたびに外からは見ずらいところに痣がついているんです。
そのことについて聞いてもはぐらかされるし彼氏のほうを問い詰めても
娘があの男の味方をするんですよ、私にはなぜあの男の肩を持つのかわからないんです。」
鈴木健司は少し興奮気味に早口で言い切ると、麦茶を一口飲み落ち着くように深呼吸をした。
猫探偵は、心来からおかわりでもう一度もらった麦茶をすすりながら、
静かに目の前の男を見ていた。
「要はその彼氏について調べてほしいと?」
「その通りです。」
鈴木健司は力強く肯定する。
「ちなみに娘さんの名前は何と?」
「鈴木陽香という名前です。」
猫探偵がここまでのことを聞き、少し考え込んでいると。
「この依頼を受けましょうよ猫さん!困っている人がいるなら見捨てられませんよ!」
心来の元気のいい声が事務所内に響き渡った。
猫探偵は心来の発言に少し渋い顔をしたが、そのまま押し切られこの依頼を受けることにした。
ショッピングモールのがやがやとした音が響いている中。
入り口から少し離れたところに、猫探偵達が陽香とその彼氏が来るのを待っていた。
「今日のデートはここであっているよな?」
猫探偵が依頼主に確認する。
「はい、ここのショッピングモールでデートをすると言っていました。ですが、
何故陽香に直接会わずに待ち合わせ場所で、陽香とあの男が来るのを待っているんですか?」
「私も気になります。」
依頼主と心来の言葉に、猫探偵は呆れながら二人に説明する。
「彼氏との交際について反対している父親が、
いきなり知らない人を連れて来たら警戒するだろ。」
猫探偵の言葉に、二人は納得した様に頷いた。
そうこうしているうちに陽香とその彼氏が合流し、ショッピングモールの中に入っていった。
そして、その男を軽く見た限りでは髪を黄色に染めたチャラ男という印象だった。
その後ろを猫探偵達はバレない程度に尾行していると、
猫探偵が二人に近づき、すれ違いざまに何かを飛ばた。
そして何事も無かったように依頼主と心来のところに戻ってきた。
「猫さん、何を飛ばしたんですか?」
「GPS。あの男について調べても何も出てこなかったからな。」
そう言いながら猫探偵は自分のスマホを取り出した。
「取りあえず、あの男に関して私たちは何も知らない。
位置情報だけでもあれば調べようもある。」
その後、二人を尾行していたが特に何も収穫は無く、時間だけが過ぎて入った。
「現状何も無しか。」
猫探偵は吐き捨てるようにそう言った。
「ぜぇ、ぜぇ……流石に、、疲れた。」
依頼主である鈴木健司は、昼間の移動と尾行している時の
バレないかという精神的な緊迫感で虫の息になっており、
心来に買ってきてもらった水を飲んでいた。
「尾行に同行すると言ったのはお前自身だぞ。で、いつもは何時に家に戻ってくる?」
「遅くても……七時には帰ってきます。」
現在時間は六時を過ぎており、辺りは暗くなっていた。
尾行相手の二人はデートをしていたショッピングモールを離れ、
街頭に照らされながら歩いていた。
「このまま進むと少々まずいことになるかもしれないから、気を引き締めろ。」
猫探偵が陽香の彼氏を見ながら、二人に向けてそう言った。
その言葉に心来は納得した様だったが、
依頼主の方はその言葉の意味が理解できなかった。
そのまま尾行していると、近くの河にあるコンクリート製の大きな橋の
下に降りて行った。
猫探偵たちはそのまま急ぎ足で橋の下に降りていくと、
橋に力なくもたれかかっている陽香の姿と、異形とも言える男の姿があった。
その姿は人間とは程遠く、細長い手足、灰色の肌、大きく裂かれた口と鋭く尖った歯、
赫く輝く牙のような爪、そしてギラギラとした目をしていた。
今、その娘を怪物が喰らおうとした時、その動きを止めた。
「バレたな…」
「陽香!」
駆け寄ろうとした依頼主を心来が止める。
「少し離れてください。」
依頼主は、陽香のもとに行きたいのを堪え、
言われた通りに心来と一緒に、怪物から離れるように後ずさった。
目の前に居た怪物がこちらに振り向き、
心底怒り狂った様に叫びながらこちらに突っ込んできた。
二人の前に立っていた猫探偵は静かに両目の瞳を閉じた。
「猫探偵さん!」
「いいから静かに。」
猫探偵に声を掛けた依頼主を、心来が黙らせる。
「ガァァァァァァァ!!!!」
怪物の叫び声と共に、一番近くにいた猫探偵に狙いを定め、
その赫い爪を喉元に突き刺そうとしたその時、怪物の動きが止まった。
怪物の目の前には、右眼の瞼を開けた猫探偵がいた。
猫探偵の右眼は、蒼色の瞳から金色の瞳に変わり、
猫の様な縦長の瞳孔に変化していた。
〈猫の目〉
「ガ………ガ………」
猫の目を受けた怪物は猫探偵の目の前で静止し、
声を漏らすことしかできなかった。
「ふむ、怪異…いや、妖魔の域を出ないか。」
猫探偵は、目の前の怪物を冷静に分析した。
分析を終えると懐から煙草箱を取り出し、
その中から煙草を一つ取り出し口にくわえた。
すると、その煙草から瞬く間に火が点き、膨大な量の煙が噴き出た。
その煙は生物の様に動き、猫探偵の頭上に大量の煙が集まる。
「さて、終わりだ。〈煙曇斬剣〉」
その言葉を放つとともに、頭上にあった煙の塊が
十数本の剣の形となり怪物の体を貫いた。
その攻撃に耐え切れなかったのか、怪物の体は塵となり消えていった。
「陽香!」
怪物が塵になると依頼主は自分の娘に駆け寄り、
起こそうと声を掛けるが反応がなかった。
「陽香!陽香!陽香!」
「落ち着け、催眠で反応がないだけだ。」
「催眠……」
依頼主を落ち着けるように、猫探偵が反応が無い原因を話す。
「恐らくあれが掛けたんだろが、思ったよりも強力だな。
知り合いの神職の紹介状を書くから、そこに行け。」
先程までの量を出さなくなった煙草をくわえながら、
心来から借りたメモ用紙を使い、紹介状を書いていると。
「あの怪物は何なのですか。」
依頼主は、正解を求めるようにあの怪物について聞いてきた。
「ああ、あれか。あれは恐らくだが感情の塊、思念体といったところだ。
この世界には幽霊や妖怪といった存在がいるからな。
あれもそれらの一種だ。だが、恐らくそもそもの力が弱かったんだろう。
催眠術を使って自分好みにすると同時に、
催眠術によって感情や精神を押し込んで、喰らう時の抵抗力を無くす。
そうやって喰らおうとした時に、私たちに見られた。
まあ、あの強さと行方不明の情報とかを見た限り、
先程のが初めてだったんだろうが、運が良かったな。
普通の探偵なら無理だったろうし。」
猫探偵が聞かれたことについて話し、
依頼主に紹介状を渡すと、依頼主鈴木健司はもう一つの疑問を聞いてきた。
「猫探偵さん。あなたは何者なんですか?」
猫探偵は当然だろうと思い、疑問の答えを話す。
「私は霊能探偵、妖霊猫だ。以後、よろしく頼む。」
この長文を読んでいただきありがとうございます。
これからも投稿していくつもりですので、
よろしくお願いします。