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第7話


 食卓の上には色とりどりのお刺身…………ではなく、お寿司が並べられた。

 確か僕は刺身がいいと言ったはずなのだが……別に全く間違いというわけではないだろうが。そりゃ、刺身が食べられて寿司が食べられないって人は聞いたことがないけど、問題はナナちゃんがご飯を、お米を食べることが出来るかである。食べれないことはないだろうが、口に合うのかどうか………

 母さんは食器やら何やらを並べて準備している。父さんは終始、ナナちゃんの様子をうかがいながら、待ちきれない様子でいる。ナナちゃんはというと、食卓に並べられた色鮮やかなお寿司を見ながら楽しそうにしている。


「あのさぁ、父さんさぁ、何でお寿司なの?」

「何でって、こんな時は寿司に決まってるだろ。しかも今回は奮発して特上を取ったんだぞ、特上を」


 まぁ、僕もお寿司は好きだし、お客様に対して出す代物としても間違ってはいないし。


「さあ、準備が出来たから頂きましょうか」


 母さんが席に座りながら言う。各々にお皿と箸と飲み物とかが行き渡ったようだ。


「ナナちゃんも遠慮しないでいっぱい食べてね」

「はい、それではいただきます」


 母さんに勧められて、ナナちゃんは元気良く返事した。

 僕はナナちゃんがうっかり変なことしちゃうんじゃないかと、心配でおちおち箸を取ることができない。お寿司なんて初めて見たナナちゃんは、ネタだけ取って食べちゃうかもしれない。でも、お寿司なら箸を使わずに食べられるからいいかも。あっ、もしかしたら手すら使わないで、口だけでかぶりついちゃうかも………


 僕はそんな心配をしながらナナちゃんの方へ顔を向ける。

 ………………そんな僕の心配をよそに、ナナちゃんは上手に箸を使いながらお寿司に醤油を付け、そのまま口へと運んでいた。


「……………………」

「何やってんだ、真一。そんなにナナちゃんが食べるのを卑しそうに見なくたって、自分のはそこにあるじゃないか」

「い、いや、そうじゃなくて………」


 父さんがナナちゃんの事を見ていた僕に対して怒鳴ってきた。なんだかんだ言って、ナナちゃんはしっかりと僕たちの生活、というよりも、人間の生活に馴染んでいた。

 箸の使い方なんて、どこでそんな高等技術を学んだのだろうか。もしかしたら僕よりも扱い方が上手いかもしれない。


「ナナちゃん、どうかしら? お口に合う?」

「はい、とっても美味しいです」


 ナナちゃんは母さんの問いに、素直に笑顔で答えた。その嬉しそうに頬張っているナナちゃんの顔を見ていると、なんだかこっちまで幸せな気持ちになってくる。


「それにしても、本当にナナちゃんは可愛いわよねぇ」


 母さんは食べるのも忘れて、ナナちゃんをマジマジと見つめながら、そう呟いた。


「こんな可愛い女の子、私たちにも欲しかったのですけれどもねぇ。それが、あなたがあんまりにも甲斐性がなかったから」

「……い、いや、それはだな……」


 なんか、よく分からないが、僕の目の前で二人が言い合っている。


「でも、ナナちゃんみたいな子だったら、私はいつでも歓迎するわよ。ナナちゃんも、こんな息子でよかったら、これからもよろしくね」

「え、…あ、はい」


 ………今の会話を僕はどう捉えればいいのだろう…どう反応すればいいんだろう……


「早くナナちゃんにお義母さんって、呼ばれるようになりたいわ。後は孫よねぇ」


 な、何言ってるんだ、この人は! ナナちゃんの前だっていうのに。


「ち、ちょっと、母さん何言ってるんだよ! ナナちゃんだって困ってるじゃないか」


 ナナちゃんの方をちらっと見たが、全然気にする様子もなく箸を動かしていた……


「今度は女の子よね。ナナちゃんみたいな可愛い女の子。フフフ」


 勝手に母さんは妄想し始め、一人でそっちの世界へと行ってしまった。

 ………もういいです。勝手にしてください。好きにしてください。あぁ、なんちゅう両親なんだ。自分の親なのが悲しくなってきた。


「あっ、ん、あぅぅ~」


 と、突然ナナちゃんが口を押さえて苦しみだした。目には溢れんばかりの涙を浮かべている。

 な、なんだ、どうしたんだ? あっ、そうかワサビだ。ワサビがききすぎたんだ。


「ナナちゃん大丈夫? あっ、何か飲み物、飲み物」


 僕は慌ててそこにあったお茶の入った湯飲みをナナちゃんに手渡す。

 ナナちゃんは片手を口に当てながら湯飲みを受け取ると、涙目のままお茶を口に流し込んだ。 ………だが、


「あ、あっ、熱いです~」


 今度はお茶が熱かったようだ。ついにナナちゃんは涙を流してしまった。


「ごめん、ナナちゃん。気が付かなくって」

「おい、こら! 真一! お前ナナちゃんに対して何してるんだ!」


 父さんは立ち上がって僕に対して怒鳴りつけた。

 ……そんなこと言われたって、湯飲みを触った時はそんなに熱く感じなかったし。

 母さんは素早くコップに水をくんできて、ナナちゃんに差し出していた。


「大丈夫? 火傷しなかった?」

「うぅ~ だいじょうぶでず~ じょっど、ビックリじだだげでず……」


 ナナちゃんはまだ口に手を当てながら苦しそうに言った。

 ……悪い事したな……もしかしてナナちゃんって、猫舌なのかな…… よく考えればいつも海にいる子が、熱いものなんて口にしないよな。

なんかこの数時間の内に、ナナちゃんについて色んな事が分かったような気がする。妙に僕たち日本人ぽい行動も見られるが、変なところでやっぱり人魚なんだよな~


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