第31話
その後、僕たちはナナちゃんの救出作戦を練った。研究所はこの山を越えたところの地下にあり、表向きは国の施設として立ち入りが制限されているとのことだ。
エルさんが言うには明朝の六時前に潜入したほうが良いと言う。研究所の職員の起床時間が七時であることから、その前に入った方が見つかりにくいとの事だ。
先にエルさんとワンちゃんが、僕が内部に入る前に所内に潜入して、メインコンピューター室を占拠し、所内全域の機能を掌握するという。
そして、所内の一地域を爆破して混乱させると共に、研究所で飼育されている動物を放つという。朝食前の空腹な動物たちに、研究員を襲わせるという凶悪な作戦をエルさんは提案した。
僕は「自分たちもその巻き添えになるのでは?」と尋ねたら、所内は鳥類と昆虫類、陸上動物、水中動物の三つのカテゴリーに分断されており、僕が向かう水中動物の部類以外の場所で注意を引きつけるので、大丈夫だということだ。
ただ、「間違えて陸上動物のところへ迷い込んだら、食べられちゃうから気を付けてね」とのことだ。
どうやら研究所には獰猛な動物も飼育されているようで、その話を聞いた時点で僕の士気は下がった。
それで、僕の仕事はというと、まず研究所内に海水を取り入れ、排出する地下水路が岸壁の洞窟内にあるそうだ。そこから内部に侵入していく。それはナナちゃんが脱出してきた場所で、抜け道が研究員に発見されていなければ簡単に内部に入れるとのことだ。その地下水路を奥に進んでいくと、突き当たった場所にハシゴがあり、それを上っていき分厚い扉を持ち上げると、水槽を管理する機械室に出るらしい。
そこを道なりに進んで部屋を出て、階段を上がって、水槽の上に出て、どこか下に降りる所があって、そこを降りて、水族館みたいな水槽に囲まれた道を奥へと進んで行く、とのことだ。僕はエルさんの説明だけではさっぱり分からないので、地図を書いてもらったが、やっぱりエルさんの説明通りアバウトな図だった。ちょっと心配になった。
そして、その道を真っ直ぐ行く。間違えて左に進むと陸上動物の部類に入ってしまうので注意するようにとのこと。で、真っ直ぐ行った先の正面に、大きな扉が見えるからその中に入る。ここでも左へと続いている道に行ってはいけない。その扉の向こう側は、ホテルみたいになってるから、すぐ分かるとのこと。
そこはお得意様のオーダーメイドの動物たち、要するにナナちゃんやエルさんみたいな子が、普段生活している住居区となっていて、ナナちゃんは部屋番号1027番の部屋の中にいつもは居るらしい。
それはあくまでも推測で、エルさんは「もしかしたら別の場所に移動させられているかもしれないから、そしたら頑張って探して」と無責任なことを言い放った。
僕がそれを聞いて嫌な顔をすると、所内の扉は全て電子ロックになっているが、エルさんがコンピューター室で全部閉めちゃって、他の人が出入りできないようにするから心配要らない、とエルさんが笑って言ってきた。で、僕が通る時には、扉の横についてある電子ロックの番号四桁をナナちゃんの部屋番号と同じ1027と入力すれば、どのドアでも開くようにしておくとのことだ。
そして最後に、エルさんは言い忘れたように一つのことを付け足した。
「明日、テレビ局の人たちが来るからね」
僕は自分の耳を疑った。そして何でそんなことをするのかエルさんに尋ねた。エルさんはこう答えた。
「もう逃げる必要はないからね。それに逃げてばかりじゃダメだからね」
そしてこう続けた。
「研究所の前でマスコミの人たちを呼んで、私たちのことや研究所のことを全部話してやるの。そうすれば所内の連中も慌てるだろうし、騒ぎに乗じて内部にも侵入しやすくなるしね」
と、笑って答えた。
僕はその時、改めてエルさんの決意の強さを感じた。
一通り作戦を立てた後は、それをもう一度確認して僕たちは寝ることにした。明日は朝早く起きなくてはならない。今の内にゆっくりと傷つけられた体を休ませ、体力を回復させて置かなくてはならない。そんな僕は、焚き火の近くの木の枝に干した僕の服がまだ乾いておらず、今夜はタオルを羽織ったまま寝ることに。夜の山は底から冷える感覚で、僕は小刻みに震えていた。
エルさんは横になったワンちゃんに、足を出しながら体を持たれ掛けている。僕は二人から少し離れた木に寄りかかって休むことにした。
「ねえ、何でそんなところに行くのよ」
僕がまさに腰を下ろした時に、エルさんは話しかけてきた。
「いや、二人の邪魔にならないようにと……」
そう言って僕は体の体重を背中に掛ける。エルさんに近くで寝ようとすれば、また変な難癖つけられて怒鳴られることは分かっていた。
「こっちおいでよ、こっちに」
エルさんは前に投げ出された自分の足の太股を叩きながら僕に言った。
………何それ? エルさんの膝の上に乗れっていうの? 何か妖しいなぁ……
「ほらぁ早く、寒いんだから、みんなでくっ付いて寝れば暖かいでしょ。もう、早くこっち来い!」
勝手に怒り出したので、しかたなく重い腰を上げてエルさんの所へと向かう。
僕はエルさんが示す膝の上に乗るのは、さすがに恥ずかしいので、横に来てエルさんと同じようにワンちゃんに寄りかかって寝ようとする。
「こっちって、言ってるでしょ!」
僕はエルさんに腕を引っ張られて、エルさんの前に背を向けて座らされた。
「ほら、もっとくっつかないと寒いぞ」
そう言うとエルさんは僕の脇の下から腕を通して、エルさん自身の体へと抱き込むように引き寄せてきた。
「あ、あの~これはどういう事でしょうか?」
エルさんの体の感触と温もりが、僕の背中から伝わってくる。背中越しとはいえ異常なまでにエルさんと接近した僕は、ちょっと恥ずかしくて困るので、そう尋ねた。
「こうすれば暖かいでしょ」
そんな囁き声と共にエルさんの吐息が僕の耳に当たった。僕のすぐ後ろにはエルさんがいるんだ。何だか緊張してきた。緊張のあまり鼓動が高まっていき、そのことをエルさんに悟られるんじゃないかと思って恥ずかしくなって、さらにドキドキしてくる。
なんか、その………いつもみたいに冗談とか言ってこないのかな………エルさん。「変なこと考えてるんじゃないでしょうね」とか………
そんなことを期待していると、エルさんの翼が僕たちの体を優しく包み込んだ。僕はその時初めてエルさんの羽に触った。初めて触ったエルさんの翼は、とってもフカフカして暖かくて、サラサラして肌触りが気持ち良かった。まるで羽毛布団みたい……って、こんな事、口に出して言ったら、またエルさんに怒鳴られるだろうな……
「明日は、絶対にナナっちを助け出そうね……」
エルさんは僕の耳元でささやくと、それっきり静かになった。
僕は僕で、明日のこととは別に、今の状況やなんかで胸が高鳴ってしまって、なかなか寝付くことが出来なかった………




