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僕の憧れのマーメイドは、オーダーメイド、マンメイド  作者: 夜狩仁志
第5章 五日目、神は魚と鳥を創造した
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第29話 

 

 ………僕は誰かに腕を強く引っ張られた痛みで目を覚ました………


 隣にはナナちゃんが横になって眠っていた。きっと男達によって眠らされたのだろう。僕はナナちゃんのことを気遣う暇もなく、男によって乱暴に車から降ろされた。


 ……ここはいったい何処なのだろう? 


 車は人気のない道路の脇に止められている。僕は男達に引きずられていった。車内にいるナナちゃんの姿が遠のいていく。僕だけ降ろされたという意味は何となく理解できる。


 ……もうダメなのかもしれない………


 その思いは連れて行かれた場所を見て確信に変わった。目の前は崖になっており、下には青い海が広がっていた。僕は手際よく男達によって手を後ろに縛られ、足もヒモで縛られた後、その先にコンクリートのブロック塀を二つ括り付けられた。


 ナナちゃんはどうなるのだろうか? このまま何も分からないまま終わってしまうのだろうか? 

 このまま死んでしまうのだろうか………死んで……しまう………

 その言葉を頭の中でイメージした途端、僕は恐怖におののいた。


 ………そんな………こんな事って…………


 そして僕の体は男達に担がれた。まだ、今の状態も理解していないのに、何でこんなことになったのか理由も……まだ、僕は……

 考える猶予のないまま、自分が死んでしまうことへの恐怖を感じる間もなく、様々な疑問だけを抱えたまま……………僕は、男達によって海へと投げ込まれた…………


 視界が青い空から一回転して、青い海に。僕は叫ぶ暇もなく海の中へ突っ込んだ………強い衝撃が体を伝わる……

 今の一撃で気を失いそうになったが………まだ…意識はある……まだ生きているみたいだ。海面に叩きつけられたため体中が痛いが、体が痛むのはさっきから変わらない。ただ、さっきと違って息が出来なくて苦しい。水が容赦なく口から入ってきて僕を咳き込ます。無情にも体は海の底へ、底へと進んでゆく。


 ただ苦しくて…………苦しくて……痛くて……悔しくて…………


 僕は縛られた体でもがくが、容赦なく僕の体は下へと吸い込まれていった。……と、その時だった。海底への進行が止まって、まるで体が上から糸で吊り上げられているかのように、急に体が軽くなったのを感じた。僕は無我夢中で空気のあるところへと向かおうとする。僕の意識よりももっと早く、軽く海面へと向かっていった。


「……ガッ、グホ、ゴホッゴホ…………」


 海面から出ると、とっさに水を吐き出し、その代わり空気を吸い込んだ。まだ上手く呼吸が出来ない。海水を飲んで喉や鼻の中が痛む。耳にも水が入り、もう何が何だか分からない。

 ようやくまともに呼吸できるようになると、自分が助かったのだという感覚を憶えた。

 しかし、どうやって僕は助かったのだろうか? しかも今僕は浮いていると言うよりは、何かに乗っている気がする……てゆうか、今何かの上に座っているし……


 僕は体をひねって周囲を確認する


 と………右に見慣れた首が海面から出ていた……


「ワンちゃん! 何でここに………というか、助けてくれたのは君なの?」


 ワンちゃんは何も答えず、そのまま岸の方へ僕を乗せたまま泳いでいった。


「ありがとう、ワンちゃん………」


 僕はワンちゃんから振り落とされないよう、しっかりと縛られた手足でしがみついていた。そのまましばらくすると砂浜が見えてきた。浜に近づくに連れて、そこに誰かが立っているのが見て取れた。

 エルさんだ。エルさんが僕たちの来るのを、手を振りながら待っていた。僕は嬉しさに似た安堵感で、体中の緊張が解けていった。

 ワンちゃんはそのまま浜に上がって、僕を乗せたままエルさんの待つ場所へ。


「大丈夫かぁ? 真一」


 僕のことを本当に心配そうに言ったエルさんは、ワンちゃんの背中に垂れ下がっている僕のことを、足をつかんでそのまま引きずり降ろした。

 ドサッ 僕は背中から落ちる。心配しているんだったら、もっと優しく降ろしてもらいたい。ただでさえ体のあちこちが痛むというのに……


「ねぇ、大丈夫? どこか痛いところはない?」

「……今…背中が痛い………」

「良かった~ もし気を失ってたら、人工呼吸しなきゃいけなかったから……」


 ………そうですか……そっちの心配ですか……


 エルさんは僕の体を起こし、紐で縛られた手足を解いてくれた。


「…ありがとう………ホント危なかったよ……死ぬかと思った…」


 僕は浜辺に腰を下ろし、安全なことを確認すると同時に力が抜けた。そして再び僕にはあの恐怖が蘇ってきた。もう本当にだめかと思った。二度とみんなと会えないのかと思った。それをこうやってエルさんに合えて……良かった。僕は確かに生きているんだ。

 改めてそう思うと、涙がこみ上げてきた。


 あっ、そうだ、ナナちゃんは? あいつらはいったい何者? ナナちゃんはどこへ連れて行かれたんだ?


 僕は振り返ってエルさんにそのことを尋ねようとした。


「いろいろ聞きたいこと、あるかもしれないけど、取りあえず落ち着いたら移動するよ。ここじゃあ目立つからね」


 エルさんは僕の顔を見て、僕が尋ねるよりも早くそのように言った。


 ……確かに目立つ。昼間に角の生えた白馬と、白い翼丸出しの少女……


「真一は今回、特別にワンちゃんの上に乗っていいよ。んじゃ、行こうか」

「ちょ、ちょっと待ってよ。まだ、僕は………」


 僕は今までの一連の出来事への気持ちの整理がついていない状態なのに、エルさんは有無を言わさず僕をびしょ濡れのワンちゃんの背中の上に乗せた。


 どれくらい歩いたであろうか? 浜から道路を渡ってすぐの山の中に入ってから、ずいぶんと経つ。エルさんはあれからずうっと黙ったまま先頭を歩いている。何処へ向かっているのかも分からない。

 いろいろと僕は聞きたいことがあったのだが、なかなか話す機会がなかった。それに、いくらワンちゃんに乗っていて楽だとは言っても、まだ僕の体は自由にいうことを聞いてくれなかった。

 幸い骨とかに異常はないようだが、腕とか足を動かすと痛みを伴う。それとさっき海に入ったせいで寒くてしょうがない。今は濡れた服を脱いで、その代わりにエルさんが持ってきたリュックの中のバスタオルを体に巻いていた。


 エルさんが何も語ってくれない間、僕は今までのことを考えていた。本来なら、あの男達に殺されそうになった僕は、まずは警察に向かうのが普通だと思った。

 でもそんな事したら、ナナちゃんのことはどう説明すればよいか分からない。エルさんだっているんだし。それと母さんや父さんにも連絡しておかないと心配するだろう。でもこれらのことをエルさんに相談しても何にも答えてくれない。

 エルさんには何か良い考えがあるのだろうか。もしかしたらあの連中やナナちゃんの居場所を知っているのかもしれない。だから僕は黙ってエルさんに従ってついて行った。


 あと、エルさんたちは僕達が拉致されたときには、山の中にいて男達の手から逃れられたようだ。それで山の上から僕達のことに気付いて、急いでワンちゃんに乗って男達に見つからないように後を付いてきたようだ。そのおかげで僕は溺死せずに済んだというわけだ。ということは、エルさんは僕の命の恩人となるのだろうか? これからずっとエルさんには頭が上がらないのだろうか………


 僕は目の前を相変わらず黙々と歩き続けているエルさんを見つめる。エルさんが歩くたびに白い翼が上下に揺れている。

 エルさん、ナナちゃんに一体どんな事が起きているというのだろうか? 僕はエルさんの後姿を見ながら、そのことを考えてみた。

 あたりは段々薄暗くなってくる。浜にいた時はまだ日が出ていたが、今は山の中ということもあってか、周囲は暗闇に包まれようとしていた。森の中ということもあって周囲は木が立ち並ぶ同じような景色が続いていて、何だか薄気味悪い。

 それにここは何処なんだろう。エルさんは何処へ向かおうとしているのだろうか。現在地も目的地も分からない僕は、何だか心細くなっていく。


「この辺でいいかな?」


 エルさんは立ち止まって周囲を念入りに見渡すと、そう言って背負っていた荷物を降ろして座った。


「真一、悪いけどその辺から、焚き火に使えそうな枝集めてきてくれる? 私はちょっと準備しておくから」


 僕はワンちゃんから降りると、痛む体を押しながら言われたとおりにした。

 もしかして、今日はここで野宿でもするつもりなのだろうか?

 僕は周囲から枯れ枝を、かき集められるだけかき集め、それ元に火をおこした。みんなは火を中心に座り込み、エルさんが持ってきたリュックの中から、食べ物と飲み物を口にした。

 会話もせずにただ黙々と食事を取る。あんまり楽しくない。でも、一度死に掛けた僕にとって、この食事は今までで一番ありがたみを感じた食事となった。

 焚き火を挟んで僕の向こう側にエルさんが、闇の中で火に赤く照らされながら座っていた。その表情は暗かった。何かに愁い沈んだような…そんな表情。僕は今一体どんな表情をしているのだろう。突然何の理由も分からないまま男達にナナちゃんと離れ離れにされて、そして殺されかけて………

 ナナちゃん、今どうしてるんだろう。酷い事されてないかな。ちゃんとご飯食べてるのかな。本当は僕が守って上げなきゃいけないのに……僕がもっとしっかりしなきゃいけなかったのに……

 ナナちゃんのことを思うと、僕は悲しさと自分への情けなさで胸が張り裂けそうになった。

 エルさんは……エルさんはきっと全てのことを知っているのだろう。きっと僕の方から尋ねない限り黙っているに違いない。僕は知りたい。もっとナナちゃんやエルさんのことを。

 それと、あの男達のこと、ナナちゃんをさらった理由、そしてナナちゃんが連れ去られた場所………きっとエルさんはナナちゃんの居場所についても知っているんだ。それでこんな場所まで来たんだ。

 僕はナナちゃんを今度こそ守ってあげたかった。今までの弱い自分から変わって、ナナちゃんをあの男達から救い出したい。そしてまたみんなで一緒に仲良く暮らしたいんだ。

 僕はそう決心すると、エルさんに思い切って、みんなのこと、あの男達のことを尋ねてみた。


「あの、エルさん? 僕にナナちゃんやエルさんのことを聞かせてくれないかな? それとあの男達のこと。僕はあの人達に殺され掛けたんだから、それを知りたいのは当然のことだと思うけど……」


 しばらくエルさんはうつむいたまま答えることはなかった。赤く燈された火のパキパキ音を立てて燃える音だけが辺りに響いている。

 ……そして、しばらくするとエルさんはゆっくりと口を開いた。



「………真一は……知りたいの?」



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