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僕の憧れのマーメイドは、オーダーメイド、マンメイド  作者: 夜狩仁志
第4章 もしも翼があったならば
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第25話

 

 車に揺られること二時間あまり、僕たちは山奥にある別荘へと到着した。ただでさえ座るように作られていないトラックの荷台に座っていたため、ここまでの山の道中揺れまくって腰が痛い。しかも荷台の上ではエルさんが、やたらと僕にナナちゃんのことを聞いてくるので困った。ナナちゃんのことをどう思っているのか、とか、二人で今まで何をしていたのか、など質問攻めに合っていた。僕はその答えをはぐらかすので必死だった。

 僕は荷台から降りると、まずナナちゃんを車椅子に乗せ、家の中へ。


「素敵なところですね」と、ナナちゃん。

「あそこの公園も広かったけど、ここもなかなかね」

 と、エルさんが荷台から降り立ってはしゃいだ。


 木造平屋建ての家屋は、昔ながらのたたずまいを残していた。ただ、所々いたんだ場所が目立つ。人の住んでいない家は傷むのが早い。屋根とかは大丈夫だろうか? 壁は? 最低限、風雨をしのげればよいのだが。

 家の横には、畑と庭があるはずだ。だがそこには草が生い茂った場所しか見えない。まだ春先ということもあって草の背は低く、かろうじてそこがかつて畑であったことの面影を残していた。

 荷物を一通り家の中に持ち込むと、最後にワンちゃんを父さんと二人がかりで降ろした。一連の作業を父さんは不機嫌ながらも文句一つ言わずに行った後、車に乗り込み帰宅の途に。

 僕たちは見送りに庭に出た。そこでもエルさんは父さん抱きついて、顔にキスして別れを惜しんだ。そんな父さんは照れくさそうにして、また三日後にはやって来ると言い残して帰っていった。

 この時点で僕たち三人と一匹の生活が始まった。最初に僕は電気が通っているかを確認する。こんな山奥でも電気は通っていた。きっと母さんが手配して置いてくれたのであろう。水は地下から電気で動くポンプを使ってくみ上げる方式。これも問題なく動いた。この水は地下水のため、生で飲むことは出来ない。一度沸騰させなくてはいけない。ところがここにはガスが通っていない。ボンベもない。家からコンロを持ってきたが、出来るだけ枯れ枝でも拾ってきて燃やした方がいいかも。ちなみにこの家には庵と釜戸と掘り炬燵がある。


 着いて早々僕たちは家の掃除をしなくてはならなかった。しばらく使っていなかったため、ホコリが溜まっていた。僕は雑巾を持って床を拭く。一緒になってナナちゃんも腹這いになってやってくれるのだが、自分の体で床を拭いているようなもので、見るに忍びない。ところでエルさんはといえば、庭とも畑とも言えない広場でワンちゃんに乗って駆け回っている。あんなに来るのを渋ってたのに、文字通り羽を広げて楽しんでいる。


 僕は掃除を一区切りにして、日が暮れる前に山に薪になるもの探しに行くことに。掃除はナナちゃんに任せて、まだ外で遊んでいるエルさんを捕まえて山に行くことにした。


「何で私がそんな事しなくちゃいけないのよ」


 エルさんはワンちゃんの背から降りて、怠そうに言った。


「そんなこと言われても、ここに来たからには働いてもらわないと………」

「あー はいはい。分かりましたよっ。行こうワンちゃん」


 可哀想に、ワンちゃんも巻き添えを食らった。

 僕たちは、ちょっとその辺の裏山まで向かうことに。木は既に緑の葉を多く身にまとっており、中には花を咲かせているものも。きっと春になると、もっと綺麗な光景が見られるのだろうなぁ。でも、春になると僕は学校に行かなくてはならない。そうするとナナちゃん達はどうするのだろうか………


「あー もう疲れた、足が痛い、腰痛い、動けない、後は頑張って真一」


 そう言ってエルさんは木に寄りかかって腰を下ろした。まだここに来て数分も経っていないのに。エルさんの手には数本の枝が握りしめられているだけだ。


「ちょっと、まだ何もして無いじゃないですか。真面目にやって下さいよ」

「ワンちゃん乗っけてって」

「ダメです。ちゃんと働いてください」


 僕はワンちゃんの進路を塞いで、エルさんの所へ行かないようにする。


「あ~あぁ、空が飛べたら、ひとっ飛びなのになぁ~」


 エルさんは空を見上げて、巣へ戻ろうとする鳥の群れを見ながら、しみじみと呟いた。


「……その翼じゃあホントに飛べないの?」 


 僕は前にもした質問をもう一度尋ねてみた。


「だからぁ、飛べないって言てるでしょ……」


 どうやらエルさんは本当に疲れているらしく、元気なくそう呟いた。背中の白い翼は、父さんが帰ってから大っぴらに広げていたが、今はだらしなく垂れ下がっていた。僕はその立派な翼を見て、どうしても飛べないなんて納得いかなかった。


「ねぇ、飛べなくても、滑空することは出来るんじゃない?」

「滑空?」


 エルさんは空を見上げていた顔を降ろしながら言った。


「そう、滑空。空を滑るようにスーッと。ほら、鳥じゃなくてもムササビなんか、ちょっとだけ飛ぶし」

「無理、出来ない」


 諦めるの早っ! でも僕は諦めない。


「でも、高いところから羽を広げれば……」

「ダメだって、これは飾りだから……」 


「でも、頑張れば何とか出来るかも。やってみないで出来ないなんて言うのは…………」

「んーもぉ、うるさいなー! 出来ないもんは出来ないのよ! お前なんかあっち行け! この、このぉ」


 エルさんは立ち上がって、手にしていた枝を投げつけてきた。枝が無くなると、その辺に落ちてる石ころを投げつけてきた。


「ちょっと、痛いって、痛っ、危ないから、やめてって」


 ひとしきり投げ終えると、エルさんは肩で息を切らせながらワンちゃんを引き寄せ、山の奥へ向かおうとする。


「ちょっとエルさん、どこ行くんですか? あんまり遠くに行くと迷っちゃうよ」

「うるさいなぁ、ほっといてよ。ワンちゃんは鼻が利くから大丈夫なの!」


 エルさんは僕の呼び止めも聞かずに山の奥へと向かって行ってしまった。

 やっぱりエルさんに翼のことは禁句なのだろうか?

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