第23話
母さんは昼の準備のために買い物に出かけた。急に家族みたいのが増えたもんだから、食材が足りなくなってしまったようだ。
あれからエルさんといえば、庭で父さんと一緒に楽しそうに戯れていた。父さんはいい体してるもんだから、エルさんは広い背中におぶさったり、太い腕につかまってブラブラしたり、はしゃいでいる。……まるで子どものようだ。
ナナちゃんも二人の近くに座って、父さんとエルさんの掛け合いを楽しそうに見ている。そんな父さんはまんざらでもない様子だ。まぁ、二人の美少女に囲まれれば嫌な気はしないだろう。………そして僕は縁側から一人ぽつんとみんなの様子を眺めていた。
……ホント、楽しそうにしてるよなぁ~ 普通、友達の親と仲良くできるなんて簡単に出来そうもないのだが…… でも、なんか見ていてほのぼのする光景だ。
しばらくして買い物から母さんも帰ってきた。すぐにお昼ご飯が出来るから、家の中で待っているように言うと、みんなを中へと入れた。………ところが、母さんとエルさんは庭に残って何やら話し込んでいた。
「これでいいのかしら?」
母さんはスーパーの袋から、キャベツとニンジンを取り出してエルさんに渡した。
「はい、これでいいんです。ありがとうママさん」
エルさんはそれらを手に持って僕のところまでやって来た。
「はい、これ」
………キャベツとニンジンを僕に渡されても……もしかして、これが僕の昼ご飯?
「ワンちゃんに上げといてね。そんじゃ」
「え、ワンちゃんに? って、なんで僕が?」
エルさんは僕に勝手に渡しておいて、そのまま母さんと寄り添いながら玄関へと向かってしまった。
……そういえば、ワンちゃんのことをすっかり忘れていた。昨夜から何も食べていないのだろう。可哀想に………でも、何で僕がやらなくてはいけないんだろうか?
僕は重い腰を上げると、物置小屋に向かう。誰も見ていないか周囲を見回してから、鍵を外して扉を開ける。
僕のすぐ目の前にはワンちゃんの顔があった。もしかしてずうっと待っていたのだろうか? 悪いことをしてしまった。僕は手にした野菜を上げようとするが、ワンちゃんは外に出ようとする。
「ちょっと待って。慌てないで。外でないで。あ~角、角、危ないからこっち向けないで、刺さるからぁ~」
僕はワンちゃんを中へと押し込めると、持っていたニンジンを取り出した。それをワンちゃんの顔の前に出すと……一瞬のうちに無くなった。
ワンちゃんは残りの四本もアッという間に平らげた。よほどお腹を空かせていたのだろう。今度はキャベツを下に置いてみた。ワンちゃんは首を下げ、キャベツのところまで口を持ってくると、バリバリ音を立てながらかじった。
馬ってキャベツ食べるんだ~ もしかしたら本来は食べないのかもしれないが、あまりの空腹で仕方なく食べているのかもしれない。
僕はワンちゃんの首をさすりながら言った。
「もう少ししたら広いところにいけるから、もうちょっと我慢してもらえるかな」
………相変わらずワンちゃんは、キャベツをむしっている。僕はそんなワンちゃんを後目に小屋から出た。
居間では食事の準備が進められていた。以外にもエルさんは母さんの手伝いをしていた。父さんとナナちゃんは既にテーブルに隣同士で座っていた。じゃあ、僕はナナちゃんの前に座ろう。………あれ、もう誰かのお茶碗が用意されてる……それで僕のは、テーブルの脇に置いてある。しかも椅子がない……… よく考えればここには三人分の椅子しか置いてない。だって三人家族だから…… 他にもあることはあるが、別の部屋からここまで持ってこなくてはならない。
「あの~ 僕は……僕の席はどこなんでしょうか?」
準備をしていたエルさんが僕の声に反応した。
「真一は、ここ」
ここって、エルさんが指さしているところは床だ。
「椅子無いからしょうがないね。もしくは向こう」
向こうって、向こうのテレビの前にあるソファーのこと? 一人で寂しく食えってゆうの? 酷っ! 何でそうなるの?
結局どうしようもなく、僕は一人でソファーに座って昼食を取ることに…… 向こうではみんなが仲良く笑い声を交えながら食事している。まるで僕の方がお客様で、仲の良い家族の団欒にお邪魔しているようだ。
……本当に楽しそうにしている……あの二人…… エルさんなんかは、僕といるとき以上に楽しそうだ。そして、ナナちゃんも…… 僕以外の人と仲良く楽しそうに話している姿を見ると、何だか悲しくなってくる…… あぁ~ 惨めだなぁ~
食事も終わると、母さんとエルさんは台所で洗い物をし始めた。父さんは自室へ戻って休憩。僕とナナちゃんはソファーに座っていた。
僕は意味もなく台所にいる二人を見ながら、ボーっとしていた。
「大勢でお食事すると楽しいですね」
ナナちゃんはさっきの食事での感想を口にした。そうゆうもんかねぇ~ 僕はどちらかというとナナちゃんと二人っきりで食事をした方が楽しいのだが。
「エルさんもあんなに楽しそうだしね」
僕はナナちゃんの言葉に合わせるように、感情のこもっていない言葉を口にする。
「真一さんは、家族の方と、お父さんお母さんと一緒にお食事するのは嫌いなんですか?」
僕の言葉を聞いてナナちゃんが問いかけてきた。別に嫌いというわけではない。まぁ、確かに、両親を少し疎ましく思ったりする時もある。
……両親……家族…… そう言えばナナちゃんには家族の人はいなかったんだっけ。もしかすると……エルさんにも家族はいないのだろうか…… それでこんなに楽しそうにしているのだろうか………
僕はその事をナナちゃんに聞いてみようとして、やっぱり止めた。そしてそのまま母さんの横で洗い物をしているエルさんの方へと視線を戻した。
「ねぇ、ママさん。何してるの?」
「これ? おにぎりを作っているのよ」
向こうではエルさんと母さんが、そんなやり取りをしている。
「おにぎり? お弁当作ってるの? じゃあこれからみんなで、どこかに出かけるの?」
「…………真一から何も聞いていないの? これからエルちゃんと、ナナちゃんと真一の三人で山の中の別荘に行くのよ」
それを聞いたエルさんの動きが止まった。
そう言えば、みんなにはまだ話していなかったような………… ナナちゃんの方を見ると、やっぱり驚いたような顔をして僕のことを見ていた。
「……えっ? 三人で……別荘? ママさんとパパさんは?」
「私とお父さんは留守番だけど………」
エルさんは今にも泣き出しそうな顔をしている。それは何かに裏切られたような、または絶望したときのような、そんな酷く崩れた表情だった。




