第18話
そのワンちゃんは、だんだんこっちに向かってきている。ここから見ても結構な大きさのように見える。大型犬なのかな? 隠れるのが大変だって言っていたし。
ワンちゃんはすごい早さでやって来る。でも、なんかちょっと大きすぎるんじゃないかな? ……何かすごく大きく見える……いや実際でかいよ! ってゆうか犬じゃない。犬じゃないよ。これ馬だよ、馬!
そのワンちゃんと呼ばれる馬は、僕たちの目の前で止まった。
白い毛並みの馬。星明かりのせいか、うっすらと青みがかっているような白い馬だった。そして頭には一本の立派な角が生えていた……
「ワンちゃん、遅いぞ。もう、何やってたんだ」
そう言うとエルさんは、馬の首を撫でる。
馬と言ってもまだ子馬のようだ。僕たちの背よりも少し低い。それでも大型二輪と同じくらいの大きさだ。
そのワンちゃんは、鼻から白い息を出しながらブルブル言っている。
「お久しぶりです、ワンちゃん。元気にしてましたか?」
ナナちゃんはワンちゃんの顔の下までやって来た。するとワンちゃんはナナちゃんの顔にスリスリした。何かこの馬は、人の言葉や思っていることが分かってるみたいだ。
それにしても、その額に輝く白く鋭い一メートルほどの角は立派だ。これってもしかしてユニコーンって奴じゃあないのだろうか?
「あの、ナナちゃん? この馬は……その…なに?」
僕はナナちゃんに聞いてみた。
「あの、この子は、子馬のワンちゃんです」
「……はぁ……」
馬にワンちゃんという名前、普通付けるのかな~ 犬はワンって吠えるからワンちゃんというのは分かるけど………
まぁ、別に名前のことはいいんだけどね、別に……
「それにしても何か立派なものが付いているように見えるんですけど……もしかしてユニコーンって奴でしょうか……」
「あんた、どこに目を付けてんのよ。確かにワンちゃんは男の子だけどさっ」
エルさんがいやらしい笑いを浮かべながら僕の方を見る。
この人、絶対分かってて言ってるんだ。
僕は無視して、ワンちゃんの体に触ろうとした。
「あっ、触っちゃダメ!」
えっ? エルさんの声に、僕はビックリして手を引っ込めた。
「知らないの? ユニコーンって汚れのない乙女にしか触ることが出来ないのよ」
……確かそんなことをどこかで聞いたような気もする。でもナナちゃんはともかく、この人は汚れのない乙女と言えるのだろうか?
「あの、じゃあ、もし僕が触ったらどうなるのでしょうか?」
「………馬に蹴られて死んじゃいます」
えっ、死んじゃうの? 触っただけで死んじゃうの?
「アハハハハ、冗談よ、冗談。大丈夫だよ、触っても。何だったら上に乗ってみる?」
エルさんは僕の顔を見ながら笑うと、そう言った。
「…………いえ、今回は止めときます」
「ねぇ、それよりも私疲れちゃったんだけど、どこかゆっくり出来る場所はないの?」
もしかして僕は、年頃の女の子をもう一人家に泊めなくてはならないのだろうか。ある程度覚悟はしていたが、馬もいるなんて聞いてないよ。
「ねぇねぇ、ナナっちは今までどこにいたの?」
「私は、真一さんのお宅でお世話になっていました」
「よし、じゃあ決まりね。あんた案内してちょうだい」
何が決まりなのだろうか。僕はまだ何も言っていないのに。ちらっとナナちゃんの方を見たら、口には出さないが、なんだか申し訳なさそうに僕にお願いするような目で見ていた。最初からこうするつもりではいたのだが、こう一方的に決められるといい気持ちはしない。
でもここはナナちゃんのお願いと割り切って、渋々家へと案内することにした。