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第15話

 

 結局僕が花火を探し当てて家に戻ってきた時には、日が沈み掛けていた頃であった。この時期に店に花火なんて置いているところなんて無く、僕は方々を駆け回ることとなった。僕の友達に聞いてもそんなもの持っている奴は一人もおらず、お店の人から聞いた問屋まで行って、無理を言って倉庫にある在庫を引っ張り出してきてもらったのだ。しかも問屋では単品で売ってくれなかったので、大きな紙箱の花火セットを購入する羽目になってしまった。でも、これもナナちゃんのためだと割り切るとそんなに嫌な思いはしない。むしろナナちゃんのために出来ることがあって僕には嬉しいくらいだ。


 僕たちは日が暮れるまで家にいることにした。作戦実行の時間は午後九時。それより早いと、あの黒服の連中に見つかってしまうかもしれないし、それより遅いとナナちゃんの言うエルさんという友達がどこかで寝てしまう可能性があるからだ。


 そしてその時刻、間もなく午後九時になろうとしていた。

 外はそんなにも寒くはなかった。ここにも、そぐそこまで春がやって来ているようだ。


 春になって夏になったら、僕もナナちゃんと一緒に海で泳ぐことが出来るのになぁ~


 僕たちは海岸までやって来ていた。そこは僕たちが初めて出会った場所、想い出の場所である。幸い、周囲には人影は見られなかった。上着を着て、帽子の中に髪を束ね入れてかぶり、変装しているナナちゃんは終始不安げな表情をしていた。

 もしかしたら、そのエルさんという友達に会えないかもしれない。最悪の場合、あの連中に出くわすことだって考えられる。それを考えると僕も怖いし不安だし心配だし……

 でもここで僕まで怖がっていたら駄目なんだ。ナナちゃんを励ましてあげないと。


「大丈夫だよ、ナナちゃん。きっと会えると思うよ、エルさんに」

「……そうですよね、きっと会えますよね」


 ナナちゃんはそう言うと顔を少しほころばせた。

 僕は先にナナちゃんを向こうの岩場に連れて行き、車椅子から降ろすと岩の裏で待っていてもらうことにした。ナナちゃんは岩の影に身を潜め、顔だけをひょっこり出し様子をうかがっていた。僕は岩場から五十メートルくらい離れた浜に戻ってくると、僕が持ってきた五つの花火を打ち上げる準備に入る。

 五つの花火は時間をおいて発射すればいいのかな? それじゃ火を付けよっか。


 僕はしゃがんで一列に並んだ花火の一番向こう側のから導火線に火を付けようとする。

 ………手が震えて…ライターの火が…なかなかつかない……あっ、ついたついた!

 僕は立ち上がって後ろに下がる。

 ボン、という爆発音、ヒュウー、という空を切る音……そして……バアァーン

 静寂を破る音と共に、僕の心臓も張り裂ける思いだ。暗闇を一瞬の閃光が辺りを照らし、焦げ臭い火薬の匂いが風に漂う。

 大丈夫かな。周囲の人がやってこないだろうか。

 自分自身を落ち着けながら、今度は二発目を発射する。


 ボン………ヒュウ――――バアァーン


 これが夏休みで、ナナちゃんと一緒に楽しんでいる花火だったら良かったのにな~

 僕は花火が筒から上空まで上がる様子を目で追いかけながら、そんなことを想像してみる。でも現在のんびりと花火を観賞している暇は僕たちにはなかった。

 続けて僕は三つ目の花火に点火。この花火も同様に上空に発射され……ると思ったら…

 突然筒から光りが溢れ出し、辺りを明るく照らした。

 な、なんだ、これは。これ打ち上げ花火じゃないぞ!


 筒からは、赤、青、黄、緑の色とりどりの火が噴水のように噴きだしている。


 あ~ どうしよう、どうしよう~ 早く隠れないと。あっ、残りの花火、花火~

 突然のことに動揺する僕は、残り二発の花火に火を付けて一目散に待避した。

 後ろを振り向くことなく、一気にナナちゃんが待つ岩場まで駆け抜ける。残りの花火が果たしてどんな花火であったのか分からない。

 僕はナナちゃんの横で岩の裏に身を隠すと、その影から顔を覗かせる。さっき僕がいた場所は既に本来の暗闇に包まれていた。

 ……これで相手にちゃんと伝わることが出来たのだろうか?


 実際近くで花火を見たが、結構ちっちゃかった。こんなの、数キロ離れた先からで確認することなんか出来るのだろうか。でも、あんまり派手にやれば関係ない人にも見つかっちゃうし。多分この方法は二人が考えた最善の方法であって、きっと相手もその事を理解していて、何らかの手段でこの花火のことを確認しているに違いない。そうだよ、きっと。だからここで待っていれば、必ずやってくるさ、そのエルさんって人は。


 僕はここで待っている間、そのナナちゃんの友達であるエルという人のことを考えていた。テレビで見た感じでは、背中には翼らしきものが生えていた。その事はナナちゃんが言うには本当に生えているようだ。それはいいとして、ナナちゃんとはどういう経緯で友達になったのだろうか? 

 海に住んでいると思われる人魚のナナちゃんと、翼の生えたエルさん。どこでどうやって出会ったのかな? 

 それと二人は何でこんな所にやってきたんだろう? 

 それとあの黒服の男達。

 ナナちゃんやエルさんを探しているようだし……… 

 とにかく、これからエルさんに会えれば、ナナちゃんのことも聞けるわけだし……待とう。まずはエルさんが気づいてここまでやって来てくれるのを待とう。

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