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第13話


 僕はテーブルに頬杖をつきながら、時折、朝食であるトーストをかじりつつ、目の前にいるナナちゃんと母さんのやり取りをぼんやりと眺めていた。

椅子に座ったナナちゃんの後ろで、母さんがナナちゃんの髪の毛を解かしている。ナナちゃんの長く黒々とした髪は、ブラシによって川のように流れていった。


「ナナちゃんの髪の毛はサラサラしていて綺麗ね。お手入れとか大変なんじゃない?」

「よく寝ているときに絡まっちゃったりします」


 二人はなんだか女性同士の会話をしているようで、僕は声をかけづらい。

 ああいうの好きなんだな、母さんは。いまどき珍しく長く伸ばした女の子の髪の毛を、いろんな髪型にして楽しいんだ。僕が朝起きてここに来てからというもの、自分はそんなに長い髪ではない母さんは、面白そうにナナちゃんの髪の毛をいじっていた。しかも、ナナちゃん自身も次々と変わってゆく髪型で、今まで見たことのない自分の姿に驚いたり、楽しんだり、嬉しがったりしていた。

 僕は朝食を食べ終えても、楽しそうに笑って話している二人を眺める。ナナちゃんとは、ついこの前初めて知り合ったというのに、すっかりこの環境に馴染んでしまって、家族の一員として溶け込んでしまっている。なんだかここに居るのが自然に見えてくる。


「はい、出来たわよ」

「わぁ~ ありがとうございます」


 ナナちゃんの髪型は両耳の辺りに丸っこいお団子ができた状態になった。手鏡でそれを確認して手で触ってみているナナちゃんは、どうやら気に入ったみたいだ。個人的に僕は普段のストレートのほうが好きなんだけど……


「それじゃあ、私は洗濯があるから、ナナちゃんはゆっくりしていてね」


 そういうと母さんは僕を残して出て行った。もしかしたら、こんな僕に気を使ってくれた? ナナちゃんと二人っきりにしてくれたの? それはそれでありがたかったが、二人で何をしろと?

 僕はとりあえずナナちゃんと一緒に、テレビの前のソファーに寄りかかってテレビでも見ることにした。チャンネルを回して面白そうな番組を探すが、午前中ということもあって、奥様向けのワイドショーみたいな番組しかやっていなかった。出来ればナナちゃんにはこういったものを見せたくない。だってドロドロした人間関係が浮き彫りにされ、僕たちの住む世界がこんなにも醜いものなのだと、思われたくないから。今日だって日本のどこかで殺人事件が起こっているだろうし、ご近所のトラブルが起きていたり、嫁姑問題や芸能人のスキャンダル、政治家の疑惑等々、上げるとキリがない。

 そういうわけで僕はなるべく、ほのぼのとした話題の番組を探した。

 …と、そこで、とあるチャンネルで僕のリモコンを持つ手が止まった。

《発見? 翼を持つ人間 ホームビデオに写った謎の影》

 なんだこりゃ。……くだらないなぁ~ と思いつつ、僕はテレビ画面に注目する。

 どうせこんなのもテレビ局のヤラセなんだろうな。そういえば昔、河童を発見したとか言って局の自作自演だったし、生きた恐竜ネッシーとかもインチキだったみたいだし…… でも面白そうだから見ちゃう。

 画面には女性アナウンサーがどこかの広場で、なにやらしゃべっていた。ここどこかで見たことあるよな~ アナウンサーは自然公園とか言っている。

 よく見るとこの公園、ここからちょっと行った場所にあるところだ。へぇ~ そんな身近なところに鳥人間がねぇ~ 見てみたいもんだ。ちなみに今ここには人魚が居るんだよ。僕の隣に。本物だよ、しかも可愛いんだよ、すごいだろ~

僕は横にいるナナちゃんのほうを見る。ナナちゃんはテレビを食い入るように見つめていた。視線をテレビに戻すと、画面は公園で遊んでいる子ども連れの家族が撮ったビデオが流されていた。夕暮れ時に撮影したのだろうか、あたりは薄暗くなっている。林をバックに若い母親と幼稚園ぐらいの子どもとがボール遊びをしている。きっと父親が撮影しているのだろう、実にほほえましい光景だ。

 あっ、今誰か林の中を通り過ぎた人がいた。白い服を着ているようだったけど……遠くのほうで写っていたし、一瞬だったので分からなかった。

 映像は再び繰り返され、今度はスローで…… う~ん、確かに人だと分かる。で、背中に白い翼みたいのが見えるような、見えないような……… 着ている服も白っぽいので、それが白い翼に見えたのかもしれない。今度その部分の画像をアップにして流す……人だというのは確認できる。それで、背中には白い翼が、漫画とかでよく出てくるような天使みたいに生えている。そう見える… でもこれだけじゃあ、作り物の羽を背負っているだけかもしれない。誰かの悪戯だよ、きっと。


「エルさんだ」

「はい?」


 僕はテレビを凝視していたナナちゃんが何かを言ったので振り向いた。


「あの、テレビに映っているの、エルさんです」

「え、える…さん? あの~ナナちゃんは、今テレビに映っていた人と知り合いなの?」

「はい、私のお友達のエルさんです。そうです、絶対に……」


 えるさん? ナナちゃんの友達? この人知ってるの? え、なに? 何なの?

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