ニルキキキキ
亜空の魔女さんにウチまで送ってもらった。
やっぱり彼女が転移魔法の主だった。
聖タルチスタン王国ではまだ大破壊が行われている。
でもうボクが居る必要は無い。
お祭りに疲れたので、ボクは抜ける事にした。
復讐はやっぱり、
フレイちゃんや被害者が楽しむべき。
それに、ここからでも燃える町の炎が見える。
今はバルコニーの椅子に座りながら、
火災を肴に魔力ポーションを嗜む。
テーブルには本が置いてある。
聖国から盗んできた、魔女に関する資料。
魔女とは何なのか、
彼氏に刺されて死んだ筈のボクが、
どうして魔女として二つ目の命を授かったのか。
勉強したら分かるかもしれない。
人は魔力を使えない。
しかし10歳から20歳までの処女に限り、
稀に魔力に目覚める事がある。
人はそれを魔女と呼び、
ある場所では崇拝し、またある場所では迫害した。
魔女の成長は最も美しい瞬間で止まり、
老化せず、自然死もしない。
母親が魔女の男と、魔女の間にできた子供は、
女児であれば魔女になる。
この現象は、メンデルの優勢、劣性遺伝子の法則に似てる。
この突然変異がなぜ起こるのか、
詳しい事はわかってない。
生物学的な種の進化と言う説もあるが、
多くの国と地域では、邪神アフル=トゥースの仕業とする伝承もある。
どの本にもアフル=トゥースに関する情報はなかった。
啓蒙高めないと認識できなさそうな神様だし、
そもそもボクに関係あるかもわからない。
こいつに関しては良いかな。
“コンコンコン”
お客か。
夜もふけているのに、
誰だろう。
「はーい。」
来客を迎えるべく立ち上がる。
「おっと。わざわざ出向いて頂かなくて結構だよ。」
声がした。
バルコニーの柵に、喋るカラスが止まってる。
「来たのはこちらからだと言うのに、
ホストに手間を取らせるのは失敬と言うもの。」
カラスは柵から降りると、
人の姿になった。
天パぼさぼさの黒髪。
メガネ。
かわいい。
子供。でも今のボクより少し高い年齢で成長が止まったみたい。
黒い白衣?
「お初にお目にかかる。私の名前はニルキキキキ。
特技は魔術と数学、それから早口言葉と、キをゲシュタルト崩壊させる事だ。」
「初めまして。ニルキキキキキさん。
こんな夜更けに、こんなつまらない魔女に何の御用かしら。」
「キが一つ多いよ。
私はとある団体の使者として、君を勧誘しに来た。」
ニルキキキキさんは、机の上の本を見る。
「失礼だが、君は魔女歴何年かな?」
「1週間くらいかしら。」
「なんと!ルーキーだったなんて驚きだよ。」
ニルキキキキさんは、懐から名刺を取り出す。
「聖国に囚われていた全ての魔女を、褐色の肌の美麗な魔女が解放した。
この話が届いた時、我々はとても驚いたよ。
この世界にまだ、これほどの大魔女が居たとは、と。
君を是非とも“サバト”に招待したい。」
「サバト?」
魔女と言えばって感じだね。
「どんな団体?かっこいい悪魔のおじさまと出会えたりするのかしら。」
「はは。悪魔とは行かないけど、結婚相談所まがいな事もしているよ。」
マジか。
適当言ったつもりだったんだけど。
「どんな素敵な殿方も、120年もすれば寿命を迎えてしまう。
私達魔女は伴侶との末長い幸せを望むのも大変なのだよ。
まあそれ以外でも、人間社会に居場所の無い魔女同士、みんなで助け合おうって団体さ。特にやましい物ではない。」
ニルキキキさんは柵の上まで登る。
「気が向いたらでも良い。
一度、見に来てくれると嬉しいよ。」
「素敵なお誘いをありがとう。ニルキキキさん。」
「キが一つ少ないよ。」
ニルキキキキさんはテラスから飛び降り、
カラスが一羽、月に向かって飛んで行った。
名刺に視線を落とす。
一目見て、これが地図だと分かった。
現在地に目的地、ルートも表示されている。
カーナビかな。
充分に発達した化学は、魔法と見分けが付かない。
ボクの前いたところも、
ある意味では魔法の世界だったのかも知れない。
サバトかぁ。
ボクに浮気がバレたからって、
刃渡り30cmの出刃包丁でぶっさしてくるクズじゃない男性と付き合ってみたいな。
出発は明日の朝にして、今日はもう寝よう。
~~~
燃える氷。
放電する植物。
止まぬ流星。
暴れ狂う魑魅魍魎。そして魔女。
瓦礫の前に、一人の男が跪いている。
腕には最愛の女性。
女性の身体中に、瓦礫が突き刺さっている。
「お願い…テレンス…逃げて…」
「ダメだ!君を置いてなんていけない!傷を治す褐色の魔女、あいつさえいれば…」
「…もう良いの…テレンス…貴方は私を選んでくれた…それだけで私…幸せだったよ…」
「何言ってる!俺はまだ、お前に何もしてやれてない!まだ終わらせたりなんてしない!」
「…いいえ…テレンス…」
女性は最期の力を振り絞って身を持ち上げ、
テレンスに口づけする。
「あなたはもう…私に幸せをくれたじゃ無い…
…貴方の恋人にしてくれて…ありがとう…テレンス…」
最愛の人。
それが、少女が最期に見た物だった。
「タシャ?そんな…嘘だ…嫌だぁ!タシャぁ!」
テレンスの叫びに寄せられ、
一体のドラゴンが歩いてくる。
「うわあああああああああああああ!!!」
激情。
地球史上最高濃度の魔力。
足し合わされば、
或いは奇跡も起こるかもしれない。
全身に鋭利な氷が突き刺さって、
ドラゴンは死んだ。
「はぁ…はぁ…」
テレンスは内に熱い物を感じた。
それらは8つあって、混ざり、分離し、また混ざりを絶えず繰り返している。
「ちょっとー!あんたウチの子に何すんのよ!」
魔女が来た。
赤みがかった肌。
白い髪。
蒼い瞳。
容姿なんてどうでもいい!
「…は?男?なんで?」
「死ねえええええええええええ!!!」
【パイロディメンション】
テレンスは爪を突き立て、空間を切り裂く。
破れた向こうは炎の次元。
裂け目は火炎を放射する。
余りの温度に、純白の光に見える。
彼岸の次元の理に従う火炎は、この世界には存在してはならない温度。
この温度が出現した瞬間、通常は太陽系の全てが蒸発する。
「ぎゃああああああああああああああ!?」
久炎の次元の理は、
炎の中のみ適応される。
テレンスの激情の炎を受けるのは、
不運な魔女のみに留まった。
今は。
ディメンションウィザード
テレンス
人類史上唯一の、
男の魔法使いの誕生である。
~~~
屋敷だった物。
双子の姉妹が手を繋いで倒れている。
周囲は燃えていたが、
双子はそれぞれ左右半身を瓦礫と氷に押しつぶされている。
「お姉ちゃん。」
「何?」
「終わっちゃったね。」
「ね。」
魔女化と言う普遍的なリスクのせいで、
この世界では女性の立場が低かった。
二人は貴族家だったが、
家にとってはいてもいなくても変わらない存在。
親は三人の息子達の進路に夢中で、二人は大した関心を持たれなかった。
二人にとって自分たちは、
生きてても死んでても変わらないもの。
他の厳格な家と同じように、二人もそう教育された。
魔女になってしまっても、死の運命を受け入れられるように。
「お姉ちゃん。」
「何?」
「楽しかった?」
「あんまり。」
「私も。」
「そっか。」
二人と友達になろうとした、活発な少女がいた。
二人の塩漬けになった心は一瞬だけほぐれかけたが、
その少女は魔女になったので処刑された。
魔道具として利用価値も無かったので、飢えた猛獣の檻に放り込まれた。
同年代の少女達はみんなその様子を見せられた。
二人の心も氷漬けに戻った。
「お姉ちゃん。」
「」
「…ばいばい。」
「まだいきてるよ。」
「わぁ」
「びっくりした?」
「した。」
「えへへ。よかった。」
崩れた屋根から覗く月が、綺麗だ。
「お姉ちゃん。」
「何?」
「生まれ変わっても、またお姉ちゃんになってくれる?」
「もちろん。」
「えへへ。嬉しい。」
静かな時間が過ぎる。
「お姉ちゃん。」
「」
「またどっきり?」
「」
「…そっか。」
「」
「…ばいばい。」
「ねえ。」
「わぁ」
「変な感じがする。」
「きっとお迎えだよ。」
「そうかな?なんだかからだがぽわぽわして、左側も」
姉が軽くみじろぎすると、瓦礫は簡単に持ち上がった。
「治ってる。」
「お姉ちゃんは魔女さんになったんだね。」
「ピコもなってるよ。」
「え?」
妹のピコも、姉の真似をする。
氷は軽々持ち上がった。
「やったねお姉ちゃん。
ピコたち終わってなかったよ。」
「ね。」
「これから何しよっか。」
「ね。」
「ぬの次は。」
「の。」
「わぁ」
「えへへ。」
史上最強の魔女
双生の魔女ナノとピコの、誕生の瞬間である。




