アイアムホスピタル
屋根に寝そべり、
流れ行く雲を眺める。
城の修理は終わった。
形ある物を再生する無属性魔法が、
今回も活躍した。
うっかり魔封じの呪符まで直してしまったけど、
無属性のボクには関係ないみたいなのでほっといた。
城の前を馬車の一団が通る。
ローブ姿の6人。
荷台には布のかかった大きな荷物。
貿易だろうか。
「今だ!」
貿易団の一人が叫ぶ。
被せ布が焼け、城の屋根も貫通し、熱線がボクに向かってくる。
熱線!?
【セレスティアの盾】
“ガッ…カカカカカカカカカッ!”
シールドが破られる前に、
ボクは屋根から降りる。
行商人っぽかった人達は続々とマントを脱ぎ、
フルプレートの鎧を露わにする。
「観念しろ無属性の魔女め![炎の巨人]起動!」
布の内側にあったものが立ち上がる。
4mくらい。
漆黒の鎧に身を包んだ黒騎士に見える。
大剣と大盾。
背にはマント。
かっちょいい。
“オアアアアアアアアアアア!”
叫び声みたいな駆動音を響かせ、
炎の巨人はボクの前に立つ。
今のレーザーって魔法だよね。
この世界にも魔導核が?
ボクは懐から[ノードレンズ]を出し、
炎の巨人を観察する。
魔導核じゃなかった。
「ねえ、そこの騎士。ゴーレムの中にある、“あれ”は何?」
「流石にお見通しか…
生まれながらに愚かで邪悪な生命体たる魔女を、我らが崇高な教理のために有効活用してやっているのだ!
貴様らにとっても喜ばしい事だろう!」
「………」
だめだ。
こいつら。
救いようがない。
もういい。
潰そう。
「今投降すれば、貴様も魔導兵器として」
杖を横に向け、
先端に魔力球を生成する。
【アンティタイロイの投石】
球体の蜃気楼のような無属性の魔弾を、
杖を振るってぶん投げる。
杖の軌道が投石機みたいだ。
“ズッドオオオオオォォォォォォォ……”
大爆発。
騎士は6人全員木っ端微塵になった。
巨人がいない。
“オオオオオオオオオ!”
大剣を構えた巨人が降ってくる。
【アイオスの剣】
ボクは杖で燃える大剣を受け止める。
厳密に言えば、剣を止めたのは杖の少し前にある、
刃の形をした魔法だけど。
「う…」
相手の力が強い。
ボクは大剣を横にいなし、
その隙に巨人の背後へ。
もう屋根をやられた。
これ以上、新居を傷付けさせやしない。
"オオオオオオオオオオオオオオオオ!"
巨人が剣を振ると、
炎の斬撃が放たれる。
ボクはそれを躱したが、奴の狙いはこれだった。
巨人の盾からレーザーが放たれる。
セレスティアの盾がレーザーを受け止める。
シールドが、少し凹む。
セレスティアの盾の構造はビー玉に近い。
無属性魔法の球体がボクを閉じ込めることで、ボクを護るのだ。
"オオオオオオオオオオオオオアアアアアアアア!"
巨人の頭上に赤い魔方陣。
陣からは四方八方にレーザーが放たれる。
ボクはレーザーを掻い潜りながら、
杖先に魔力を集結させる。
もう一発、【アンティタイロイの投石】だ。
"ズダアアアアアアンッ!"
魔弾は盾に当たる。
盾はへこみ、巨人は一歩後退する。
さらにもう一発叩き込む。
"ズガシャンッ!"
盾が破壊される。
今だ、
【ザルワミノクの息吹】
範囲攻撃魔法。
複数敵に対しては勿論、
面積の大きな巨大ボスにも有効だ。
"ガシャアアアアアアア…"
鎧は砕けた。
魔方陣も消え、
残ったのはスクラップの山。
「あう…うああ…」
鉄屑の中から声がしたので行ってみる。
女の子がいた。
かわいそうな姿。
もう助からない、殺してやるしか無い。
見つけたのがボクじゃなかったらね!
~~~
フレイは目を覚ます。
見知らぬ天井。
天井?
普段は冷たく寒く、
駆動時は凶悪なほど蒸し暑い、
[炎の巨人]の中じゃない。
くりぬかれた目も、
抜かれた歯も、
切り落とされた手足も、全部ある。
「えぁ…」
声が出た。
身体が妙にすかすかする。
忌々しいワイヤーが一本も無い。
フレイは結論を出す。
夢か。
目が覚めたらお城のベッドの上なんて、
そんな都合のいい現実、ある訳が無い。
部屋に誰か入って来る。
「おはよう。お姫様。」
腰まで伸びた、銀色の綺麗な髪。
眉毛もまつ毛も銀色。まるで美しい工芸品の様。
澄み切った銀色の瞳。
なんだかドキドキする褐色の肌。
白い布の胸当てと、
ミニスカート。
小柄で華奢だけど、美麗で美しい体躯が大胆に露になっている。
「ま…じょ…?」
「やっぱり、みんな一目でわかるんだね。
杖も帽子もないんだけどなぁ…」
魔女は、机に熱々のパン粥を置く。
「あの…」
喋ろうとした時、
フレイは胃から何かが込み上げてくる感覚に襲われる。
「うっぷ…ゲホッゴホッゴホッ!ガッハ!?」
ケーブルだ。
「よかった。順調に排出できているね。
全く、あの人達も酷いことするよ。」
「…ぜー…ぜー…」
もしや夢ではなく現実では?
フレイは頰をつねってみる。
痛い。
「え…あ…あえ…あ…ええ!?」
「安心して。ここに君を傷付ける者はいないから。
やってきても、ボクが懲らしめるまでさ。」
治してくれたの?
この魔女が?
肩や太ももを触ってみても、縫い跡一つ無い。
「こう見えて治療はは得意なんだ。
まあ厳密に言えば治癒と言うより、あるべき姿に戻しただけだけど。」
「自由…私…自由…?」
「ええ。あなたはもう自由よ。」
フレイは涙を流す。
死ぬまで続くと思っていた地獄から解放された。
「あり…がとう…本当に…本当に…!」
「ボクはただ、君を本当の姿に戻しただけよ。
今までが酷すぎただけ、大した事はしてないわ。」
「ぐす…それでも…私…うあああん!」
ひとしきり泣いた後、
フレイは自分の足で立つ。
目線が高い。
「…あえ?」
フレイは、化粧台の鏡に自分を写す。
赤い、長い髪。
金色の瞳。
美人?
そこには、すっかり大人になった自分が居た。
フレイは自分の人生が大幅に奪われた事に気が付いた。
自由になっても、
今までの時間が帰ってきた訳ではない。
「う…うう…うっぐ…」
「…ごめんよ。時を戻したりはできないんだ。」
「わ…たし…わたし…い…」
悲しかった。
虚しかった。
そして何より、途轍もなく腹が立った。
「許さない…あいつら…!」
「………」
銀の魔女は考えた。
このままフレイをここに置き、
国一つを敵に回すべきか否か。
「いい…いいぎ…ひっく…ぎいぃ…」
魔女は成長するが老化しない。
一体どれだけ長い間、あの中に閉じ込められていたのか。
上手い発語の仕方すら忘れかけるほどの、長い間だろうか。
「他にも居るの?君みたいな子。」
魔女は聞く。
フレイは頷く。
あの国には、いくつも“魔導兵器”がある。
「わかった。ボクも手伝うよ。」
「え…?」
銀の魔女は決断した。
悪者と、苦しめられている人がいるのに、
見てみぬふりはできない。
「言ったでしょ?君を傷付ける者はボクが懲らしめるって。
君を泣かせるあの国は、ボクの敵だ。」
「あ…」
この魔女はどう見ても美少女だ。
だがフレイは、
ほんの一瞬だけ、
彼女に心惹かれた。
Q.婚活は?
A.もうすぐ始める(´・ω・`)




