脳筋魔法言うな!
失敗の原因を特定した。
[フォムトンの花]
これが加熱によって毒を持つ。
ボクはベッドでうつ伏せになりながら、
実験結果をノートに書いていた。
解毒薬のお陰で吐き気と頭痛は治まった。
でもまだ倦怠感がとれない。
誰かと戦った気がしなくもないけど、細かい事を思い出せない。
意識障害か記憶障害か、とりあえず症状に書き加えよう。
転生早々体調をぶっ壊して、一つ気付いた事もあった。
今すぐ引っ越さなきゃ。
この小屋には魔術に必要な物が全部揃っている。
それだけだ。
部屋数が無い。
台所も無い。
そもそも水が通っていない。
よくこんな家で暮らせたね、
ゲームの中のボク。
昼寝したらやや動けるようになったので、
ボクは荷造りを始める。
クローゼットからバックパックを出し、
棚の小物と実験道具を全部入れて背負う。
意外と軽い。これなら旅ができそうだ。
「短い間だったけど、お世話になりました。」
旧家へ感謝を伝え、ボクは家を出る。
物件探しの旅は長くて険しい。
だが、ボクなら必ずやり遂げられる!
今までも転勤のたびにそうしてきたのだから!!!
〜〜〜
イルドリウスの部隊は20名全員、
全身骨折した状態で森から救助された。
死者こそ出なかったものの、
部隊のうち6名は二度と剣を持てないほどの重傷を負い、
イルドリウスの部隊は解散となった。
イルドリウスは病院のベッドで仰向けに寝ている。
彼は全身に包帯を巻かれている。
病室に、2名入室してくる。
1人は若い学者。
短い黒髪。
法衣。
冴えない顔立ち。
手には本。
もう1人は軍属の女書記官。
鳶色の長い髪。
ベージュのスーツ。
スレンダー。
美人。
「イルドリウスさん。起きていますか?」
最初に口を開いたのは女書記官。
「何だ、降格処分の通知か?」
「いいえ。
貴方の報告書にいくつか不可解な点が存在しましたので、
専門家の意見も踏まえて、改めてお聞きしようかと思いまして。」
“専門家”と称された男が挨拶する。
「は…初めまして。魔導学最高名誉教授?博士?の、アレヒンと申します。」
アレヒンは本を開く。
「早速本題に移らせて頂きますね。
魔法とはそもそも、魔力の持つ属性を変化させ、様々な事象を再現する行為を指します。
その上でお聞きします。イルドリウスさんの見たのは、本当に“無属性”魔法だったんですか?」
「魔力計は振り切れ、しかし属性反応は無し。
目の前で巻き起こるのは、見たことも無い魔法。
呼称する言葉を知らなかったので、部下が勝手にそう呼んだ。」
「にわかには信じられませんね。
まず、現場からも貴方達からも、一片の魔力も検出されませんでした。
魔力計の履歴は貴方の言った通りでしたが、
魔法を使っていない魔女を測定しても同じ結果が出ます。
教えてください、どんな魔法だったんですか?」
「俺が見たのは二つ。
一つ目は防御魔法。魔女全体が硬い殻に覆われているかのように剣が通らなかった。
二つ目は攻撃魔法。奴が杖を振ると、衝撃波が発生した。風とは違う。エネルギーが直接ぶつかってくる感じだ。」
「やはり不可解ですね…火、水、風、土、雷、光、闇、然。
そのどれにも属さない第9の相?
そもそも魔法なのかすら怪しいですね。
何かこう、手品に引っ掛けられたとかならまだ分かるんですが…」
「手品であんな痕跡が残るのか?」
「それが謎なんですよ!」
不意に、女書記官が再び口を開く。
「もし無属性なんて言う物が存在するのなら、少なくとも拘束はできませんよね。
魔女への唯一の対抗手段、魔封じの枷は魔力の属性転換を阻止する物。
魔力をそのまま使われてしまうのなら、枷は無意味です。」
書記官の言葉から、アレヒンはヒントを得る。
「魔力をそのまま?そんな訳が…いや、質量だけの召喚は可能だ。
実際、魔力設備の中にもその原理を応用したものもある。
でも規模がデカすぎる。機械も無しにそれを制御するなんて、
馬がいるのに戦車を引かせず、素手で投げて武器として使うようなものだ。
それじゃあ魔力の意味が……待てよ?もし“それしかできない魔女”が居るとしたら?」
アレヒンは、イルドリウスに向き直る。
「疑ってすみませんでした。イルドリウスさん。
有り得ない話でも無いかもしれません。
あなたの出会った魔女はマイノリティの中のマイノリティ、
ものすごいレア物の可能性があります!」
「へぇ、そりゃ凄い。」
「本当に凄いですよ!もし捕まえて研究できれば、魔導学に全く新しい分野が追加されるかもしれません!
あ、でも拘束はできないんですよね。でしたら死体でも結構です!」
あの日出会った褐色の魔女が何なのかなど、
イルドリウスにはもう、どうでも良かった。
なぜなら彼はもう二度と、
自力で立つ事も、剣を振るう事もできないのだから。
〜〜〜
青い空。
白い雲。
どこまでも広がる草原。
アニメ映画のワンシーンの様な絶景だ。
ボクは今、丘に立っている。
三日間、東に歩き続けたが、
理想の物件はまだ見つからない。
遠巻きに古城が見える。
あーあ。いつかはボクもあんな場所に住んで…
待てよ?
住めるくね?
お城に向かって走る。
もっと早く走りたい。
でも回復はできてもバフは無理なんだよね、ボクの魔法。
炎とか雷とか、魔法はいろんな事象が起こせる。
その中でも、魔力に質量を持たせ、物体として捉えて扱う魔法が無属性に当たる。
でも無属性は正式名称ではないから、プレイヤーからは物理魔法とか脳筋魔法とかとも呼ばれてた。
脳筋魔法言うなっ!
は公式すらネタにする伝統的なミームだ。
無属性魔法に治癒能力があるのは、
無属性は限りなく純粋な魔力なので、生物に親和するかららしい。
体力回復の面だけ見れば、何気に無属性が最強だったりする。
ただ状態異常回復やバフは無理なので、
そこはポーションや光魔法使いに頼る事になるけど。
ごちゃごちゃ考えているうちにお城に着いた。
城下町や柵は無し。本当に何も無い平原から、突然城が生えてるみたい。
外壁は黒い石レンガ。
煤けているが窓は無事。
階段を上った先の城門は半開き。
階段にボクの足跡がはっきり残るので、
ここには長らく誰もいないようだ。
「お邪魔しまーす。」
エントランス。
天井にはシャンデリア。
床にはレッドカーペット。
見えているだけで扉は15枚。
燭台には蝋燭が残っているし、
壁には絵画も飾ってある。
人だけ消えたみたい。
“…もしもし…”
訂正。
人は居た。
20歳くらい。
長い髪。
白いワンピース。
綺麗な顔。
青白く光る半透明の体。
まごう事無き幽霊だ。




