高難度ダンジョン周回させるゲームは何考えてるか分からない
朝が来た。
お兄さんと妹さんはもう起きてる。
どうやらボクがびりっけつらしい。
「…」
「…」
妹さんは、お兄さんの後ろに隠れながらずっとこっちを睨んでる。
まだ警戒されてるのかな。
「ボクは悪い魔女じゃないよ。」
「…」
何だよ。
昨晩はボクを布団代わりにしてたってのに。
「それで異端の魔女さんよ。これからどうするんだ?」
「そうだねぇ…」
ずっと野宿って訳には行かない。
かといって行く当てがある訳でもない。
かくなる上は。
「戻ろう。」
「は?」
「さっきの瓦礫王国に。」
ボクは身を起こし、来た道を戻る。
でも、二人は付いてこない。
「どしたの?」
「あそこはまだ魔女だらけだ。行ける訳が無い。」
「そっか。じゃあ、留守番する?」
「…」
少し考えた後、お兄さんは妹さんを連れて付いてきてくれた。
特に何のトラブルも無く、ボクらは戻ってきた。
騒音が止んている。
もう全部壊され尽くしちゃったのかな。
「見つけたわ~♡」
ボクらの前に、大きな塊が降って来る。
黒光りするゴリマッチョボディ。
アフリカの原住民の司祭みたいな、羽毛と毛皮でできた衣装。
濃い化粧。特に口紅が分厚過ぎる。
男の人、の筈だけど。
「昨日はよくも、アタシの可愛いビーストちゃんに風穴開けてくれたわね~!」
魔力を感じる。
男の背後に魔方陣が展開され、そこから獣が二体。
骨の面をつけた、茶色と紫の熊。
茶色い方は手が長くて小柄で、紫の方はずんぐりむっくりだ。
「ん?もしかしてアナタ、黒淵会が指名手配してる子?」
「そう言う貴方は…その、魔女なの?」
「当たり前じゃない。見てわからないの?」
こんな事もあるんだ。
魔女になるかどうかに、肉体的な構造はあんまり関係無いらしい。
「とにかく、あんたの脳と心臓と子宮を引き抜いて組織に出せば、アタシも晴れて幹部の仲間入りよ~!」
「夢が大きくて結構ね。」
"槍"で一体づつ仕留めても良いけど、今は後ろに護衛対象が居る。
【ザルワミノクの息吹】
紫の熊が立ち上がって、魔女(?)と茶熊をかばう。
紫熊は10秒ももたずに吹っ飛ばされたけど、その頃にはもう、後ろの一人と一匹は消えていた。
「食らいなさい!マジカルハートラブラブプリティーツインスペル!」
両側から魔女と熊の拳。
ボクは【セレスティアの盾】で身を包んだけど、
"パキパキ"
どんな出力なのか、速度を一切落とすことなく破壊してきた。
「おわ!」
右手に持った杖で熊の拳を、左手で魔女の拳を受け止める。
魔法がダメなら、素のステータスで受けてやる。
「へぇ。アタシ達の合体魔法を体術だけで受けるなんて、さすが指名手配犯ね。」
強化魔法の類も一切無し。
これ魔法じゃ無い。
本当にただのパンチだ。
「犯?ボク何か悪い事した?」
「社会を支配している意志に背いた時点で、アナタはもう立派な犯罪者なのヨ♡」
理不尽だけど、的を射ている。
「確かに、君の言うとおり。だけどその理屈は、とある前提が無いと成り立たない。」
【ガルサムの鎧】のを両腕に付け、熊と魔女を投げ飛ばす。
「その"支配意志"とやらが、ボクよりも強くなきゃね。」
【グヌマトゥスの槍】
魔女と召喚獣は、胸に綺麗な風穴を開けて動かなくなった。
残った魔女の身体を持ち上げ、国外に放り出す。
きっとそのうち、また再生して襲ってくるだろう。
その時はまた倒せば良い。
…それにしてもこの街、なんか既視感あるなぁ。
まるで第二の我が家みたいな懐かしさがある。
背の高い協会。
槍を持った騎士の錆びたモニュメント。
そう、ここは確か…
「ん?」
視界の隅に美少女の気配。
見ると、黒髪ショートボブにピンクの浴衣を着た、ちっちゃくて可愛い魔女がいた。
「ひ!」
彼女はボクの事を凄く警戒してるみたいだ。
「大丈夫。今のボクに戦う意志は無いよ。」
「…お前も、この街に眠るお宝を狙ってきたのか?」
「宝?」
「地下遺跡に眠るって言う宝さ。手に入れれば、魔女として更に強くなれるらしい。」
思い出した。
「今の僕には、もうその宝は必要無いかな。」
「そんなもの無くても十分強いって言うのか?」
「そうだよ。」
「…じゃあ、ちょっと手伝ってくれないか?」
「え?」
「宝にはそれを護る番人がいるらしい。恐ろしく強いらしくて、戦闘向きじゃない私じゃ、勝てるかどうかわからない。」
「別に良いけど、一つ条件がある。」
「何だ?」
「ボクの仲間になってよ。」
「…分かった。」
交渉成立。
ボクは兄妹二人を安全な建物に押し込めると、槍を持った騎士の像の前に来た。
レバーになっている騎士の腕を下げると、台座が開き小さな祠になる。
祠の中には、地下へと続く階段だけがあった。
「こんな所に…どうりで一晩探しても見つからない訳だ…お前は何で知ってるんだ?」
「昔なじみの場所なの。」
ボクとショートボブちゃん(仮称)は、松明で照らされた階段を下りて行く。
「ねえ君、名前は?」
「拙者の名はハコベ。創築の魔女ハコベだ。見ての通り東の国の出。もう東の国なんて無いらしいけどな。」
「ふーん。ヤマトナデシコって奴だね。」
「やまと…なんじゃと?」
「ボクの名前は…」
「唯我の魔女ヤコエだろ?知っておる。」
「ボクもすっかり有名人か。」
階段の突き当りの二枚扉を開けると、広い場所に出た。
王宮の謁見の間みたいな構造だけど、あまりにも広すぎる。
「ほぉ…ここが宝の間か。」
「そうとも言うけど、違うとも言う。気を付けて。」
ボクは杖を構える。
部屋いっぱいに魔方陣が展開されて、玉座の前に騎士と聖女が召喚される。
「出たな…」
銀槍の英雄グヌマトゥスと、大聖女セレスティア。
槍を持ったフルプレートの騎士と、白黒ドレスで顔に白いヴェールをかけた綺麗なふわふわ髪の女性。
「初めに言っておくよ、ハコベちゃん。君はここで木っ端みじんになる。」
「拙者を舐めるなよ。こう見えても拙者は…」
痛い程冷たい風が、グヌマトゥスに向かって集まって行く。
さあ来るぞ、本家本元の…
【グヌマトゥスの槍】
レーザー、違う。
その太さと規模感は、巨大戦艦の大砲にすら優る。
一撃で、城一つを跡形も無く破壊する超大型キャノン砲。
ボクはハコベちゃんを掴んで駆け出し、間一髪で槍の射線外に出た。
"キイイイイイイイイイィィィィィ!!!"
ジェット機みたいな音をたて、グヌマトゥスの槍はさっきまでボクらがいた方の壁を消し飛ばした。
「な…なんじゃ…なんなんじゃこりゃ…!?」
「君の言ってた、宝とやらそのもの。古代王国の大英雄と大聖女の残影…らしい。」
「く…詳しいんじゃな…」
「ボクも良く分かってはいないんだ。詳細明かされる前にゲームが…いや、何でも無い。」
セオリー通りに行くとしたらまず潰すべきはセレスティア。
だけど、いかんせん人手が足りない。
参ったなー
転生してからの無敵間で忘れてたけど、今の僕からしてみても、あいつら普通に強いんだった。
周回してた時も、五回に一回はミスって死んじゃってたっけ。
せめて受け特化のタンク一人くらいは欲しい所…
「おい!来ておるぞ!」
グヌマトゥスが、気持ち悪いくらいの素早さ急接近してくる。
ボクのステータスは確かに高いけど、あいつに比べたら遥かに劣る、正面衝突は危険だ。
何とかして距離を稼がないと。
「はあああああ!」
突如として地面から付きあがって来た日本城が、グヌマトゥスを突き上げる。
今だ。
「【グヌマトゥスの槍】!」
杖の先から、銀色のレーザーが放たれる。
本家と比べたら遥かに太さで劣るけど、当たれば同じ。
ボクの槍はグヌマトゥスの肩に当たり、奴の右腕を吹き飛ばした。
グヌマトゥスは城の上に着地すると、そのままセレスティアの方に戻る。
セレスティアが手を組み祈りを捧げると、グヌマトゥスの腕が再び生えてきた。
「な!?」
「セレスティアがいる限り奴は死なない。先ずはあいつを潰すよ。」
セレスティアの盾が圧縮され、グヌマトゥスの新たな鎧になる。
ものの数秒で全快だ。
治療を終えたグヌマトゥスが、再びこちらに向かってくる。
「せ…拙者は何をすれば良い!?」
「取り合えずセレスティアに危害を加えて!打ち上げでも、閉じ込めるのでも、とにかく何でも良い!」
「分かった!【創建社】!」
セレスティアの身体にお札がついた荒縄が巻き付けられ、それを中心に大きな神社が立った。
セレスティアは丁度ご神体のあるポジションに居るのかな。
グヌマトゥスの注意が逸れる。
今だ。
【アルガ=ゼペドの破壊】
グヌマトゥスは不意にバックステップをして、固着空間の捕縛をかわした。
まずい!躱された時の隙でかいんだよこの技!
「【創建門】!」
グヌマトゥスとボクの間に大きな門が生えてくる。
直ぐに破壊されたけど、ボクが後隙から抜けるには十分だった。
ボクらはその隙に、セレスティアのいる神社に走る。
「ねえハコベちゃん。事が終わったらさ、ボクの国の建築士になってよ。」
「なんじゃあそれ、拙者に死亡フラグを建てたのか?」
「魔女は死なない、そうでしょ?」
「ふふふ。そうじゃな。」




