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調合の美学

調合で大切なのは、

素材をキチンと理解すること。


例えば、この[ガガリア草]は凄く繊細だ。

すり潰す時は強過ぎず、弱過ぎず、

繊維を残すイメージで優しく押し潰すのがベスト。


逆に[シルシフの実]はとても頑固。

堅い身がきちんと崩れる様に全身全霊の力ですり潰さなければいけない。


素材それぞれを丁寧に理解する事で、

作品は必ず答えてくれる。


「ふぅ…」


試作品第一号が完成した。


研究の結果、

少年が残した草にはどれも薬効があった。

でも卓上で判るのは大まかな効能まで。

未知の素材を真に理解するには、やはり実践しかない。


ボクの手の中で、

試験管に入った緑色の液体が輝いている。

成功か失敗かは、“実践”するまで解らない。


きっと大丈夫だ。

ボクの理論が正しければ、これはただの滋養強壮薬。


さあ、行くぞ…


“コンコンコン”


お客なら仕方無い。

ボクは実験を中断し、玄関に行く。

決してビビってる訳では無い。決して。


「はーい。」


ボクはお客を出迎える。


年若い男。

20かそこら。

麻布の服。

短い茶髪。

ザ、村人って感じ。


村人Aはボクの顔を見るなりしばらく惚ける。


この世界の美的感覚でもボクが美少女な事がわかって、安心した。


「何か御用?」


「え?あ、すみません!貴女があまりに美しくて、つい…」


「ふふ、嬉しいわ。どうぞお入りになって。」


村人Aを家に連れ込む。

これで猛獣の心配は無い。


「申し遅れました。私の名前はカッパリンと申します。メニコー村の村長として、お礼を伝えに参りました。」


カッパリンは懐から小さな袋を取り出す。


「こちら、村人全員で集めました。

家畜と小動物の目玉です。どうぞお受け取り下さい。」


職場内いじめでも、

もう少しまともな物を送ると思う。


「ありがとう。大切にするわ。」


怖すぎるから後で埋めておこう。


「よくここまで来れたわね。迷わなかった?」


「小屋自体はずっと昔に見つけておりましたので。

…それにしても凄いですね。一月前まで廃墟だったとは到底思えません。」


「貴方、誉め上手ね。」


小屋自体はあった?

元からあったものがボクの転生で置き換わったのだろうか。

それとも、最初から用意されていた?


他にも情報を聞き出そう。


「貴方の村は魔女に優しいのね。」


「例え何者であろうとも、貴女は村の恩人です。その事実だけは決して揺らぎません。」


やはり、魔女はかなりまずい身分の様だ。

転職を考えなきゃ。


「ですが、できればお早めにここを離れてください。

もうすぐ村に王国兵が徴税しにやってきます。魔女は見つかったらすぐに処刑されてしまうでしょう。」


「そう。分かったわ。教えてくれてありがとう。」


その後しばらく談笑して、カッパリンは帰った。


兵士がいるならでかい都もあるはず。

そのうち移住するか。


来客への対応を終えたボクは、再び実験に戻る。


余計な事を考える前に、

一気に行く!


「チュプ…」


(にが)すぎ。



〜〜〜



村に戻ったカッパリンを出迎えたのは、

最初に魔女と邂逅した少年エリクセン。


「なあなあ、どうだった?」


「喜んでくれていたよ。君の言う通り、本当に綺麗な人だね。」


魔女の年は見た目じゃ解らない。

子供でも知ってる常識だ。


「良かったぁ。受け取ってくれないんじゃないかってハラハラしたぜ。

魔女ってのは、どうしてあんな気持ち悪いもんを欲しがるんだ?」


贈り物はエリクセンの発案だった。


「こらこら。人の趣味趣向を悪く言っては…」


カッパリンは馬の蹄の音を聞く。


「…家に入って、エリクセン。今すぐに。」


「え?」


「良いから。」


エリクセンを引っ込め、

カッパリンは村の入り口に行き、来客を確認する。


20人。

銀のフルプレート。

跨るは軍馬。


聖タルチスタン王国の兵隊だ。


「出迎えとはよい心がけた。新村長よ。」


「遠路はるばる、よくぞいらしました。ようこそメニコー村へ。

…失礼を承知でお聞きしますが、今回はどう言ったご用件で?」


徴税にしては時期が早過ぎるし、人も多過ぎる。


「最近この辺りで不審な魔力を検知したので、今回はその調査だ。手間は取らせない。」


隊長はそれだけ伝えると、

軍勢引き連れ村の中へ入る。


カッパリンは、名も知らぬ魔女がここを後にしているのを、祈る事しかできなかった。



〜〜〜



イルドリウス・メルゲンバイクは、聖タルチスタン王国の正規兵だ。

従軍歴は20年。

最近は隊長を任される事も多い。


イルドリウスは村に入って早々、異変に気が付いた。

村から流行病が消えていたのだ。


「前方の森から、わずかに魔力を検知しました。

どうしましょう。イルドリウス隊長。」


「魔力反応に従い前進する。

魔女を見つけ次第捕縛、抵抗する場合は略式処刑を行う。」


「了解。」


イルドリウス達が森に入る様子を、村人達は固唾を飲んで見つめていた。


「なるほど。村の病を治したのか。」


「隊長?」


「何でもない。少し納得しただけだ。」


魔女は魔女。

教理に従い排除するのみ。


「隊長、不審な痕跡を見つけました。魔女の物と思われます。」


兵士の一人が、完璧な円形の穴が空いた岩を見つける。


「隊長!この先に膨大な魔力を検知しました!」


別の兵士が、緑に呑まれかけた小屋を見つける。


「ここか…総員、武器を構えろ。」


イルドリウスは、ゆっくり小屋に近付いていく。

ドアノブに手を掛けようとしたその時。

ドアが、向こう側から開かれた。


「あら?またお客様?」


銀の髪。

銀の目。

褐色の肌。

大きな帽子。

向き合っているだけでわかる、膨大な魔力。


魔女だ。

そう認識した瞬間にはもう、イルドリウスは既に剣を振り上げていた。


「違うみたいね。」


イルドリウスの剣は、魔女の数ミリ上で半透明なシールドに止められ、

磁力の様な反発で弾き返された。


「ちぃ!」


イルドリウスはバックステップで軍隊に戻る。


「測量係。あれはどの程度だ。」


「魔力計が振り切れています。灼炎の魔女ガリカリウスと同格か、それ以上かと。」


「ッチ…とんだバケモンって事か。属性は。」


「それが、一切検知されません。」


「…何?」


「魔力に一切の属性が付与されていない。言うなれば奴は、無属性の魔女です!」


「はぁ!?」


デタラメもいいところだ。

ガソリンを燃料ではなく、凍らせて鈍器として使う様なもの。

明らかに普通では無い。


「今回だけは見逃してあげるわ。もう来ないでね。【ザルワミノクの息吹】」


魔女が杖を振るう。

兵隊の見る世界が一瞬だけ白色がかり、

次の瞬間には、彼らは前方からの衝撃波によって吹き飛ばされた。

草は潰れ、木は折れ、

まるでその場所にだけ、でたらめな威力の突風が吹いたかの様だった。


「…まずい…本気で具合悪い…」


魔女は脇腹を抱えながら、家の中へと入って行った。

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