3000里って結局遠いの?近いの?
ニルキキキキは、城の一室で目を覚ました。
赤いカーペットが敷き詰められた床にはカラスの羽が散乱している。
一体の化け物が、彼女に寄り添っている。
墨色の肌。
金色の目。
銀色の髪。
ニルキキキキと瓜二つの姿。
腕の代わりにカラスの翼。
足も鳥のもの。
それは、ハーピィの化け物とでも呼ぶべき異形。
(私の奔流が起こったのか?)
恐る恐る、
ニルキキキキは異形の胴体に触れてみる。
異形はこうべを垂れて服従を示す。
「嬉しいね。使い魔を持つのが夢だったんだ。」
(それにしてもまさか、ホルマリン漬けの私の体が魔獣化するなんて。)
ニルキキキキは、窓の外を見ている。
青空。
橙色に燃える焼土。
たくさんの魔女達。
「私の奔流じゃない。」
“ガタンッ”
部屋の扉が開く。
魔獣は一瞬だけ身構えたが、すぐに警戒を解いた。
「おや?
やあ、褐色ちゃん。」
〜〜〜
適当に歩いてたらニルキキキキさんを見つけた。
奔流で召喚される化け物ってのも一緒だ。
「会いに来たわよ。ニルキキキキさん。」
「キが合ってる。
この奔流は君の仕業かい。」
「うん。
触発したのはボク。
魔女の脳って爆弾みたいだとおもってさ。
火薬みたいに誘爆するかなと思って、試してみたんだ。」
「はは。
全く、君と言う魔女は実に愉快だ。」
騒がしい足音が近付いてくる。
「ちょっとおおおおお!」
やって来たのは激昂したルイカーちゃんと、
小走りでそれに着いてくラクトムラクトムさん。
「一時間待ってから来いって言ったから待ったのに、
全部終わってるじゃない!せっかくひと暴れしようと思ったのに!」
「さっきまでそこらじゅう抗魔と魔封じだらけだったから、
来てもする事は無かったと思うわ。」
「はぁ…
ま、何でも良いんだけど。
でもあんたがこんなド派手に奔流を起こすものだから、
魔法陣の前で待ってたあんたのカノジョ?まで奔流しちゃったのよ。」
「もしかして、奔流って悪い事なの?」
「燃料の暴発と同じよ。
物は壊れるし、天候は変わるし、現実とか空間が置き換わったりするし、
おまけに、暫くは魔力がほとんど使えなくなっちゃうの。
いい事とは呼べないわね。」
ルイカーちゃんは、異形の方を見る。
「まあ使い魔が来てくれるのは、ちょっと羨ましいんだけど。
この魔女は?これもおねーさんの彼女?」
ニルキキキキさんはクスリと笑う。
「初めまして。私の名前はニルキキキキ。
研究の合間、この人の愛人をしている。宜しく。」
「ふ〜ん。おねーさん、相変わらずオンナタラシだね。」
おいメスガキあんま調子乗ってるとマジで抱くぞ。
ボクは大人なので、そんな怒りはぐっとこらえる。
「そう言えば、君の言ってた“助けたい魔女”は見つかった?」
「まだ見つけられてない。
ガリカリウスって言う、無駄に年だけ食ってるちゃらんぽらんなんだけどね。」
「その人だったら、まだ屋上にいるんじゃないかしら。」
「おねーさん、魔女の位置の特定までできるの?」
「いいえ。たまたま会っただけよ。」
「ふ〜ん。まあ、あいつに手を出すときは気をつけなさい。
年食い過ぎて倫理観破壊されてるから。」
ルイカーちゃんはそう言い残すと、部屋を後にした。
「君は?ラクトムラクトムさん。」
「ワタシもママを探しに来たんだけど、ここには居ないみたい。
この島の転移魔法は全部ママのものだから、もしかしてと思って来てみたんだけど。」
「ラクトムラクトムさんのママかぁ。
さぞ美しくて聡明な方なんだろうなぁ。
ボクも探してみようかな。」
「ふふふ。ワタシのママにまで手をつける気?」
「じゃあ競争しよう。ボクが先に君のママを見つけれたら、遠慮なく頂くって事で。」
「良いわ。ワタシが勝ったら…そうね。
一年間ワタシのメイドになるって言うのはどう?」
「良いね。乗った。」
「亜空の魔女を舐めないで頂戴?
海の底だろうと星の底だろうと、宇宙だろうと異星だろうと、必ず見つけ出して見せるわ。
それじゃ、よーいどん。」
そう言って、ラクトムラクトムさんはテレポートしていった。
勝っても負けても、ボクにはご褒美なんだけどね。
ラクトムラクトムさん、ちゃんとママに会えるといいな。
「いい友達が居るんだね。」
「君だってそうだよ。ニルキキキキさん。
キミもボクの、大切な人さ。」
「///…」
「そうだ、今ボクホームレスでさ。大至急家が要るの。」
〜〜〜
博物館の階段を上った先。
ルイカーは、円形舞台の様な場所に辿り着く。
そこでは、ガリカリウスが仰向けで寝ていた。
「久しぶりね。ししょー。」
「ルイカーか。随分と大きくなったな。」
「それ嫌味?」
「ふ…ふふ。そうさ。
だからお前さんも、言い返してきておくれよ。
また"あれ"をおくれ。」
「はぁ…あんたも欲しがりね。
今日はどうしたの?」
「とある魔女に挑み、敗北してしまったのだ。
凄く美しくて、恐ろしく強い、褐色の肌の若い魔女さ。」
ルイカーは、ここで何があったかを察する。
右足のブーツを脱いで裸足になり、自らの師匠の顔を踏みつける。
「ざ~こ♡ざ~こ♡ざこうぃっち♡
新人に負けちゃうとかなっさけな~い♡
かっこわる~♡」
煽りに合わせて、ルイカーは師匠の顔を踏んずける。
パチパチッ
ガリカリウスの寝ている地面が微かに焼け始める。
「それで上古の魔女とかだっさ~♡
同期がかわいそ~♡
無様すぎ♡
魔女やめちゃえ♡」
ガリカリウスの周囲が発火し始める。
「くっさ♡焦げくっさ♡
あれあれ~?もしかして怒っちゃった~?
よわよわの分際で?身の程知らず♡」
ガリカリウスはルイカーの足首を掴み、
思い切り投げ飛ばす。
「なら貴様が戦ってみろメスガキがああああああああ!」
「ひゃう♡」
炎の精霊が再生する。
うずみ火が立ち上がり、そこは火の海となる。
「ふ…ふふふ…お前は相変わらず強烈だな。ルイカー。」
「ふん♡世話の焼けるババアね♡
気分がノってないのにこれやるの、凄く大変なんだから♡」
ルイカーが囚われたのは、ガリカリウスが敗北してすぐ後のこと。
二人の間には、あまり時の隔たりはなかった。
「ところでルイカー。余の不在の間、何をしていたのだ?」
「へ?えーっと、まあ、色々?」
「色々?」
「そ…そうよ。色々よ。」
「へ〜♡ふ〜ん♡」
「なんでアンタのセリフにまでハートマークが付くのよ!」
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木星。
ガスの地表の底、
岩の地面に建てられた宮殿。
天蓋付きのベッドの上に、魔女が一人。
最古の魔女が一柱、メリエダ。
ウェーブがかかった紺色の髪はベッドを覆い、なおも余って床に垂れさがっている。
深い藍色の瞳は、虚ろに天井を見つめている。
身体は枯れ枝の様に乾き萎え細っている。
一見するとそれは、丁重に保管されたミイラに見える。
「ワタシを探す…か…」
メリエダの寝室に、魔女がもう一人やってくる。
「お声を発せられるとは珍しいですね。お母さま。
何か御用でしょうか。」
「いいや…少し…面白い話が聞けてね…」
「それはそれは。」
「わざわざ来てくれてありがとう…ラクトム…下がっていいよ…」
「では、失礼します。」
使用人の様な彼女の名前は、ラクトム。
メリエダの長女である。
「ラクトムラクトム…可愛い娘よ…いつでも会いにおいで…歓迎するよ…
果たして見つけられるかな…?ふひひひひ…」




