気品とは去り際にこそ現れる
魔女の急所は二つ。
一つは脳。
壊すと大変な事が起こる。
もう一つは心臓。
壊すと魔女は生物学的に死ぬ。
「お…ねえ…ちゃん…いたい…いたいよ…」
「ひきょう…もの…」
グヌマトゥスの槍は、
双子の心臓を一度に貫いた。
喉や感覚器官は無事なので、
見聞きしたり話したりはできる。
でも、魔法を使ったり自力で動いたりはできない。
「少し待ってて。」
ボクは双子ちゃんを背に、
復活のディメンション男と相対する。
「彼を何とかするから。」
「お前ら、
敵対してるんじゃ無かったのか。」
さっきよりは理性的だけど、
突き刺す殺意は相変わらず。
「ボクはただ話したいだけ。
でも、無抵抗だと殺されちゃいそうだったから。」
「話し合いだと?
俺の恋人は魔女に殺された。お前が放った魔女だ!
お前と話す事なんか無い!」
「…そう。」
【テヘロの礫】
「残念ね。」
沢山の小さな無属性が、
弾丸みたいに放たれる。
礫と言うよりマシンガン。
「出し惜しみは無しだ!俺も本気で良くぜ!」
男はロックディメンションで礫を防ぎ、
横にもう一つ次元を開ける。
「【モンスターディメンション】!
異界より現れよ!アルヴァヴァン!」
「まじ?」
次元が内側から引き裂かれ、怪物が姿を現す。
黒いティラノサウルス。
常闇の古竜アルヴァヴァン
この世界にもいるんだ。
「魔力上限も高いのね。
意外だわ。」
「はぁ…はぁ…古竜の大顎の中で、
永遠に噛み砕かれ続けるが良い!」
そんなガムみたいな末路は嫌だな。
"グギャオオオオオオオオオ!!!"
アルヴァヴァンが突進してきたので、
【ザルワミノクの息吹】で吹き飛ばす。
"ガギャアアアアアアアアアア!?"
その隙にディメンション男がボクの横に来る。
「そこだ!」
男はパイションを開ける。
裂け目ちっさ。
これなら【セレスティアの盾】で足りる。
モンスターディメンションは魔力消費がでかいから、
普通はこうなる。
「はあ…がはっごほっ…」
「ディメンション魔法は戦闘向きじゃないの。」
ボクは杖を振り上げる。
「今の君に必要なのは、盾役とメイン火力とサポーター、
要するに仲間ね。」
杖で男を殴る。
無属性魔女は攻撃力がめちゃくちゃ高い。
そのステータスを活かせるのが、
通常攻撃だけなんだけど。
「がっはぁ!?」
男は吹っ飛ぶ。
その隙に、黒ティラノに【アンティタイロイの投石】をぶっ放す。
闇ブレスをチャージしてたところに見事命中、
恐竜は消し飛んだ。
「もし運よく生き延びれたら、、
パーティメンバーを探してみると良いわ。」
【グヌマトゥスの槍】
「クソッ!覚えてやがれ!」
男はダークディメンションを開くと、槍が来る前に飛び込んた。
戦闘中にディメンショントラベルとは。
ソロプレイだからこその芸当だね。
【ニニファヌの抱擁】
「う…ケホッケホ…もう痛いの嫌ぁ!」
「ひきょうもの!ひきょうもの!ひきょうもの!」
「先に敵対してきたのは君達でしょ?
でも騙したのは悪かったわね。ごめんなさい。」
「グス…だったら…降参します…だからせめて、
お姉ちゃんには痛い事しないで…」
「ピコ?」
「だって…正義の不審者さんを一瞬で倒しちゃったんだよ?
ピコたちじゃ無理だって…」
「そう。
ピコがそう言うなら、ナノも降参する。
だからお願い、ピコだけは逃がして。」
この子たちに損害賠償を請求するのも酷かな。
「分かったわ。
お姉さんは優しいから許してあげる。」
双子に背を向け、右手をひらひら。
「今度からは、勝てる相手にしか喧嘩を売ったらだめだからね。」
これにて一件落着。
さて、住む場所どうしよう。
帰ったら家が無かったと言ったら、
信じてくれるだろうか。
とりあえずニルキキキキさんに相談してみよう。
~~~
オーン・ディノクは博物館の経営者だ。
収蔵しているのは、魔女。
もともとは魔女の脳を収容するだけの施設だった。
脳は放っておくと心臓を再生し、
心臓は魔女を復活させてしまう。
それを防ぐためには、心臓を回収し続ける必要があり、
収容数が増えれば管理コストは増大する。
そこで考案されたのが、
収容物を博物として展示し、
利益を得る案だ。
結果は大当たりだった。
魔女や魔法は一般の人々にとって好奇の対象であり、
学者や富裕層、好奇心旺盛な市民を中心に客入りは上々。
展示物を通して様々な国のプロパガンダにも協力できるので、他国のカントリーマネーも手に入れられるようになった。
施設や管理に金をかけられるようになり、収容の安全性は飛躍的に向上した。
最近では魔女の美しい身体そのものを展示する事で、
新たな客層を取り入れる事にも成功している。
「………」
だが、これをオーンは良く思っていなかった。
魔女とは言え、元は人間。
ここまで徹底的に尊厳を破壊される必要はあるのか、と。
「本当に申し訳ない。ニルキキキキさん。」
ホルマリンの中で眠るニルキキキキは、
あられもない姿を晒している。
「良いザマだ。」
「全くだ。我々の論文をコケにしおって。」
「女の分際で、神聖な学術協会に喧嘩を売るからこうなるのだ!」
「…全く、横暴で悪趣味な連中だ。」
オーンは、ニルキキキキのエリアを後にした。
これ以上いると、人間の方が醜く見えてしまうから。




