博物館って冷静に考えてグロくね?
「ピコ!?」
妹に駆け寄るナノお姉ちゃん。
妹思いなのは良い事だけど、今はPVP中。
よそ見はだめだよ。
【グヌマトゥスの槍】
あ、かわされた。
ブラフか。
「ピコのかたき!【ネガティブレイン】!」
周囲一帯に魔弾を降り注がせるネガティブレインは、
敵の行動を制限できるので一見強そうに見える。
だがネガティブ魔法がアシスト前提な癖に、
この技ではフレンドリーファイアが頻発する。
つまり、
「ひきょうもの!ピコから離れて!」
ピコちゃんの近くにいるだけで当たらない。
本当に妹思いなお姉ちゃんだ。
「ねえ、ナノちゃん。」
「あなたとおしゃべりする事なんてない!【ネガティブブロークン】!」
ボクはピコちゃんを抱き上げ、
弾の前に立つ。
「あ!」
青ざめるナノちゃん。
戦闘経験の不足からくる、仲間への過剰な気遣い。
それが君たちの敗因さ。
【セレスティアの盾】
"ガキンッ!"
どんな高威力魔法でも、ジャストガードしてしまえば完全に無効化できる。
「え?」
「君達と敵対するつもりは無い。」
【ニニファヌの抱擁】
ピコチャンのお腹に開いた丸い穴が、
みるみるうちに塞がって行く。
「…お…姉…ちゃん…?」
「ピコ!」
ピコちゃんを地面に降ろす。
「お姉ちゃん!」
「ピコ!」
2人は駆けだし、抱き合う。
「ごめんね!ナノがもっとうまく当てていれば…」
「ううん、油断してたピコのせいだよ。
大丈夫だった?褐色お姉さんに酷い事されなかった?」
凄まじく尊い光景。
だけどここは心を鬼にしないと。
ボクが死んでしまう。
ごめんね、美ロリ達。
少し我慢してね。
【グヌマトゥスの槍】
~~~
大理石の床と柱。
煌々と輝く魔力照明。
ニルキキキキは、
壁の中に収容された展示物を、
観察用の小さな窓越しに見つめていた。
「姉さん…」
血の気の無いクリーム色の脳が、
銀の部屋に置かれている。
小窓の下には、
闇の魔女ニルネファの能力や成したとされる悪行、
討伐から収容に至るまでが刻まれている。
すぐ近くには大きなガラス容器がある。
中にはニルネファの体があり、
彼女を未来永劫晒し物にすべくホルマリンが満たしてある。
魔女の急所は脳、
厳密に言えば、脳の中に存在する魔力の力場。
力場に姿かたちは無いので破壊する事ができない。
力場は脳の中に存在する間のみ、安定して持ち運んだり制御する事ができる。
「もう少しご覧になられますか?」
彼女の背後に居たスーツの男が、ニルキキキキに問う。
「いや、もう良いよ。」
「そうですか。ではこちらへ。」
男に案内され、ニルキキキキは博物館を進む。
脳だけにされた魔女達や、
ホルマリン漬けの身体、
造物や召喚物の標本、
その全てが、ニルキキキキを憐れんでいる様だ。
ニルキキキキは別館に案内された。
巨大なコンテナの中に、怪物が拘束されている。
二本の角。
ティラノサウルスの様な骨格。
紫色の分厚い鱗は鎧のよう。
怪物の生命活動は既に停止しているが、
その身には傷一つ付いていない。
魔獣ニルゴーヴァ。
とある事故により発生した、ニルネファの眷属だ。
魔女の脳を破壊すると、
"奔流"と言う現象が発生する。
魔女の復活は勿論、
その魔女の属性に起因した大規模魔力災害が巻き起こり、
魔獣ニルゴーヴァの様な化け物が召喚される事もある。
「2000年前、魔女の急所が頭らしいと言う事しかわかっていなかった頃。
切り落としたニルネファの頭を、兵士が大槌で叩き潰してしまったそうです。
…かつての災害跡は、今でも史跡として残されています。魔女の恐ろしさを後世に伝える為のね。」
「そんな危険な魔女を、どうして館長自らが案内を?」
「魔女は危険ですが、災害とは違います。
あなたはお姉さんに似てとても利口だ。
せっかく和解できたのに、私だけが逃げ隠れしているのは道理に反する。」
「じゃあどうして、魔女を酷い目に逢わせ続けるんだい?」
「神の理に逆らっているから、と、誤魔化すつもりはありません。
デメラム教、ガズズ教、ソーシャー教、慶教、
四大宗教とされているその全てで、男尊女卑を是としています。
永遠の命と特別な力を持った女性は、この社会では邪魔で仕方無いんですよ。」
「だから迫害するの?」
「ええ。そうです。
仮にあなたたちを野放しにすればどうなると思います?
そのうち魔女の君主が生まれ、永遠に変化しない政権が生まれ、
それに抵抗できるのは魔女だけ、と言う状態が生まれてしまうかもしれません。
一般人は家畜の様に扱われ、搾取されてしまうかもしれません。
どうせ100年ちょっとの命、と言う具合にね。」
「随分とヒステリックだね。」
「かもしれません。
実際、四大宗教の経典にはどこにも男尊女卑の考えは存在しません。
ただ、それを読み解いたのがいつだって男性だったと言うだけです。
もしかすればそもそも、魔女の迫害に意味なんて無いのかもしれません。
ただ特別な存在を羨んでいるだけなのかも知れませんね。」
ニルキキキキは館長に連れられ、
博物館の倉庫まで連れてこられた。
設備や道具、箱詰めの脳に交じり、
ぽつんと手術台がある。
その横には卑猥な格好のマネキンと、
ニルキキキキを紹介する為の碑文が置いてある。
ニルキキキキは手術台に身を委ね、
碑文に目を通す。
「あは、こりゃ酷い。」
魔鴉の魔女ニルキキキキキ。
鳥頭の例に漏れず、読み書きすらも満足にできない愚かで淫乱な魔女だった。
八咫烏に変身する能力を持ち、
卑劣な奇襲をかけるも、勇猛果敢なる聖ガドレッドの英雄達には通用せず、
英雄騎士バルジャンの卓越無比の剣技の前に敗北、失意のまま収容される事となった。
「真実が能力の部分しか無いじゃないか。ガドレッド軍って何?」
「歴史とはいつだって、誰かの為に捻じ曲げられるものです。容易くね。
とは言え、聡明と名高かったあなたにこのような歴史を押し付けてしまった事は謝罪します。」
「分かっているよ。学術協会の連中だろ?」
「ご明察。
まだ魔女ですらなかった貴女に、学術で負かされたのが大層気に食わなかったそうで。
こればかりは、私の力ではどうしようも…」
「良いよ良いよ。君はただ自分の仕事をしているだけだ。
世界は恨んでも君の事は恨むなって、魔女の間でも標語になっているくらいだし。
でも…」
ニルキキキキは、マネキンに目をやる。
「いやはや少々、あの格好だけは勘弁して貰いたいのだが…」
「すみません。これも協会のお達しでして。」
「はは、そうか。無理言って済まないね。
でも。約束は守ってくれるよね。」
「ええ。今年一年も、サバトは黙認するよう通達を出しておきます。」
「ありとあらゆる方面の要望を汲み取りまくる、君だからこそできる芸当だね。」
「はは、"神童"ニルキキキキさんに評価して頂けるとは、私も鼻が高いですよ。」
ニルキキキキは目を閉じる。
きっと二度と目を覚ます事も無いだろう。
「キ、一つ多いね。」
「おや?本当ですね。
失敬、これはニルキキキキキと言う別な魔女の紹介文を書いてしまったのかもしれません。
しかし石碑の替えは丁度切らしているので、この別人の紹介文をニルキキキキさんの所に掲載するしかないみたいだ。
いやはや。閲覧者はきっと、これがあなたの紹介だと誤解してしまうかもしれませんね。」
「はは。この施設を運営しているのが君で、本当に良かったよ。」




