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僕の婚約者① sideホーエスト

 誰かを好きになる理由なんて、ほんの些細(ささい)な出来事だと僕は思ってる。

 実際僕がリィスを好きになった理由が些細なことなのかどうかは、きっと人によって意見は違ってくるんだろうけど。


 ただ、誰かにとっては些細なことでも。

 他の誰かにとっては、それこそがとても大切な "何か" なのかもしれない。


 僕にとって、リィスの存在がそうだったように。




     ◇     ◆     ◇




「ホーエスト。彼がフラッザ宮中伯よ」


 そう言って母上が僕の背中を押す。

 生まれた時からあまり人と触れ合うことのできない体質だった僕は、そのほんの(わず)かなぬくもりが感じられるだけでも嬉しくて。

 けれど同時に、見ず知らずの相手と顔を合わせる瞬間というのは、とてつもなく苦痛だった。


 今よりは幾分かマシだったとはいえ、この頃からすでに髪や肌が荒れ始めていた僕の姿は、王家へ過剰なほどの期待と尊敬を向ける貴族たちからすれば忌避(きひ)すべきものだったんだろう。

裏切られたと、一方的に失望されていたのだということも今なら分かる。

 ただ当時まだ五歳の僕に、それを理解するだけの能力はなかった。何より今度はどんな嫌な顔をされるのかと、恐怖でしかなかったんだから。


 けど、フラッザ宮中伯は今までの貴族たちとは全く違う反応で。


「お初にお目にかかります、第三王子殿下。お会いできる日を楽しみにしておりました」


 嫌な顔一つせず、それどころか慈しむような笑みさえ浮かべて向けられた言葉。

 正直、耳を疑った。こんなことを本気で言う人物がいるのかと。


「我が家のためにこのような場を設けてくださったこと、恐悦至極に存じます」

「いや、私のほうこそ礼を言いたい。誰にも悟られぬよう秘密裏になど、無茶を申した」

「来たるべき日まで公にできないのは、当然のことでございましょう。陛下がそのようにお思いになる必要など、一欠片も存在しておりませんよ」

「相変わらずだな、フラッザ宮中伯」

「フラッザ家は国のため、王家のために存在するのですから。唯一の宮中伯を(たまわ)るその意味、片時も忘れたことなどございません」


 けどフラッザ宮中伯はそのブラウンの瞳を真っ直ぐ父上に向けて、本当に当然のことのようにそう口にするから。

 まだ小さな子供だった僕には、疑う余地なんてあるはずがなかった。


「何よりこのような時こそ、我が家の出番ではございませんか?」

「その通り過ぎて、返す言葉もない」


 もはや苦笑するしかない父上は、その美しいミルキーブロンドの髪を無造作に掻き上げる。王族特有のブルーグレーの瞳は、今日はどこか安心しているようにも見えて。

 その理由は、この時の僕には分からなかったけれど。少なくとも公務ではない時の父上の姿なのだということだけは、僕にも理解できた。公務の時の父上は、もっと鋭い目つきをしているから。


「それで、どうなのですか? フラッザ宮中伯」


 何かに縋るように、けれど大きな期待が込められているようにも聞こえた母上の声は、視線と同じように真っ直ぐにフラッザ宮中伯に向けられていて。

 父上のブルーグレーの瞳と母上の淡いブルーの瞳を一対ずつ向けられたフラッザ宮中伯は、そのブラウンの瞳を優しく緩ませた。


「問題ありませんよ、王妃陛下」

「本当ですか!?」

「はい。今連れてまいりますので、少々お待ちいただけますか?」

「えぇ」


 短い会話の後、少しだけ席を外したフラッザ宮中伯。彼が部屋から出た瞬間、父上も母上もどこか安堵したように肩の力を抜いていたのが印象的だった。

 そして。


「ホーエスト、もう大丈夫ですよ。あなたはもうこの先、苦しまなくて済むのです」


 そう言いながら、母上は僕を抱きしめてくださった。

 この体質が関係して朝と夕にしか家族と触れ合うことができなかった僕は、今日はなんて素晴らしい日なんだろうと単純に喜んでいたけれど。

 どこかで、母上の言葉を真に受けないようにしていたんだ。そんなことはあり得るはずがないと、勝手に決めつけて。



 そう、だから。



「お待たせいたしました。ほらリィス、ご挨拶を」


 しばらくして戻ってきたフラッザ宮中伯の足元に、隠れるように立っていた女の子が、まさか僕の願いを叶えてくれる存在だなんて。

 しかも彼女が僕の婚約者になるなんて、この時は想像すらしていなかったんだ。



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