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醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
おまけ

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第三王子親衛隊副隊長

「ピーター、お前に客がきてる」

「私に、ですか?」


 まだ騎士としては新人に近い私にわざわざ会いにくるような、しかも部隊長直々に呼びにくるような人物がいただろうかと、本気で首をひねった私に。


「いいから。行ってこい」


 そう言って送り出したその人は、平民出身だから口が悪いだけで腕は確かな上、かなり面倒見のいい人物で。

 だから、なおさら不思議だった。

 何の説明もなく、ただ私を向かわせるというその行為が。


 だが。


「ピーター・ヘンリクセン。君を、ホーエスト殿下の親衛隊に誘いにきた」


 ラース・クローグと名乗った目の前の男がそう口にした瞬間、私の体に電撃が走ったような気がした。

 それは、先ほどまでの疑問がどうでもよくなるくらいの衝撃だったのだ。


 ヘンリクセン家は騎士の家系で、私も幼い頃から当然のように剣の技を教えられ磨いてきた。そして同時に、王家への忠誠心も。

 だからこそ、時折聞こえてくる周囲の第三王子殿下への悪意ある言葉に、体が震えそうになるほどの怒りを覚えていた。

 それを抑えるのに、どれほど苦労したことか。

 どのような外見であろうとも、殿下が王族であることに変わりはないのに。


「もちろん君の都合もあるだろうし、断ってくれても構わない。その際特に今後に響くようなことは一切ないから、安心してくれ」


 その言葉が付け足されたのはきっと、本来あり得ないはずの断るという選択肢が実際に存在しているから、だったのだろう。

 根底にあるのは、王族である第三王子殿下への評価を騎士ごときが勝手にしているのだ、という認識。


 これが私個人に対してであれば、この場で怒りも沸いただろうが。残念ながら、そうではない。

 むしろこのおかしな現状に異を唱えたところで、笑われるか軽くあしらわれるだけで流されて終わる。

 それが、私の日常だったからこそ。


「お誘い、ありがとうございます。是非とも、よろしくお願いいたします」


 歓喜に震えそうになる体を抑え付けて、極めて冷静に。

 私一人では変えられないのだとしても、ここから一歩ずつ始めればいい。

 仲間を増やして、現状がおかしいのだと気付かせるため。正しく王家へと忠誠を誓うべきなのが騎士であり貴族なのだと、思い出させるために。


(これからきっと、忙しくなる)


 だがそれでいい。

 騎士の家系に生まれた私にとって、殿下の親衛隊の隊員というのは最高の(ほま)れ。

 そして少なくとも目の前の彼は、第三王子殿下を嘲笑することも侮辱することもない。それだけで、十分。

 今まで以上に恵まれた環境になるのは、まず間違いない。


「そうか! 礼を言う!」

「いいえ。こちらこそ、私に声をかけてくださりありがとうござます」


 差し出された手を握れば、その硬さに私のほうが少し驚く。

 私以上に体格のいい彼はきっと、私と同じかそれ以上に剣を握ってきたのだろう。この硬さは、その証だ。


「ところで、私で何人目なのですか?」


 ふと気になったので聞いてみたそれに、改めて自己紹介をして親衛隊の隊長だと名乗ってくださったラース隊長は。


「一人目だ。ヘンリクセン家は王家への忠誠心が高いと聞いていたからな。最初に声をかける相手として、外せないだろ?」

「!!」


 そう、答えてくださった。

 それがどれだけ、私にとって嬉しい言葉なのかも知らないまま。


(ただ、納得はしました)


 部隊長が直々に私を呼びにきた理由も、親衛隊の隊長自らが足を運んでくださった理由も。


「あぁ、そうだ。副隊長の指名権を持っているんだが、やってみる気は――」

「やらせてください!!」


 若干被せ気味に発した私の言葉を聞いて、ニンマリと笑って頷くラース隊長。

 おそらくこの展開を予想していたのだろうと分かってはいても、せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。


「じゃあ、頼んだぞ」

「はい」


 隊長に肩を叩かれた瞬間、私は第三王子親衛隊副隊長となったのだ。



 その日の夕食時に報告をした瞬間の、家族の喜びようは凄かった。

 そして浮かれる暇もないほどに、しばらくの間は父上と毎日打ち合い稽古をしていたけれど。

 母上に後日、二人とも浮かれすぎよと笑われてしまった。


 けれど。


「これからよろしくね、ピーター」

「はい!」


 もっとも浮かれていたと自覚があるのは、ホーエスト殿下から初めてお声がけいただいた時だった。

 断言できる。あの時の私は明らかに緊張していた。そして同時に、歓喜に胸が震えていた。



 私はピーター・ヘンリクセン。

 この国の第三王子殿下であらせられるホーエスト殿下の親衛隊、副隊長。


「ラース隊長。お姿が変化する以前の殿下への忠誠心なしと判断された者たちへは、入隊試験不合格の通知が送られたそうです」

「そうか」


 ホーエスト殿下のお名前を呼ぶことを許された私の王家への忠誠心は、未来永劫揺らぐことなどない。

 そのお姿に変化があった後でも、私の殿下への忠誠心が変わることは一切なかったのだから。



~他作品情報~


 明日8/26(土)は『幽霊令嬢』コミカライズの更新日です!(>ω<*)

 ボケ担当の幽霊令嬢と、ツッコミ担当の幸薄王子の漫才の続きを、どうぞお楽しみください♪



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