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醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
おまけ

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ギリューブス・ヴォルサムという男

「父上!!」


 響き渡った声は、レゾルートゥ国王陛下が予想していた通りの人物のものだった。

 彼は知っていた。ギリューブス・ヴォルサムという男の行方を、この三番目の息子が気にしていたことを。

 そして、最終的に己が下した決断を聞けば、不満を漏らすであろうことも。


「朝から騒がしいぞ、ホーエスト」

「そこに関しては謝ります! 大変失礼いたしました!」


 生い立ちのせいか、妙に素直なところがあるホーエストの元気すぎる謝罪に、食堂の中の人物たちは思わず微笑む者や苦笑する者様々だが。明らかにこの場の空気は、柔らかいものに変化していた。

 誰よりも美しい見た目に変化したところで、中身は今まで通りの第三王子なのだ。それが妙に微笑ましく、そして嬉しい。そんなところだろう。


「ですが! 納得がいきません!」

「何がだ?」

「ギリューブス・ヴォルサムについてです!」


 予想通りの言葉にため息をつきたくなるのをグッとこらえて、フゥバ王国で最も高い地位に就く人物は唯一空いている席を手で示した。


「まずは座りなさい。そして朝食を終えてから話を聞こう」

「約束ですからね?」

「私がお前に嘘をついたことがあったか?」

「ありません」


 すっぱりと言い切るあたりに、親子関係における信頼の深さを見て取ることができるからだろう。側に控える使用人たちも顔には一切出さないが、纏う空気は明らかに微笑ましく見守る者たちのそれだった。


「そうだろう? だがここで話すべき事柄ではない。食後に呼びに行かせるから、部屋で待っていなさい」

「分かりました」


 あれだけ勢いよく飛び込んできておきながら、納得さえすれば席について一言も不満すら漏らさない。

 今この瞬間、誰もが思ったことだろう。素直だ、と。

 そうして騒がしい朝が、一気に静寂を帯びる。だがそれは決して重苦しいものではなく、食事が始まる前の普段通りの食堂の空気だった。

 時折談笑を挟みながら、つつがなく進む王家の朝食は食べきれる量しか提供させないその方針から、全員がほぼ同時に食べ終われるように調整されている。


「あぁ、ホーエスト。ラースを少し借りても平気か?」

「はい、問題ありません」


 だからこそ、こうして食後の紅茶も楽しみ、全員が一斉に席を立つことも可能なのだ。そして各々が部屋へと戻る際に、各親衛隊が護衛につく。

 そんな中ホーエストへと声をかけたレゾルートゥ国王陛下は、彼の親衛隊隊長であるラース・クローグを借り受けたまま部屋へと戻っていった。

 ホーエストの護衛には現在ラース以外にも、ピーター・ヘンリクセンやミケル・スキビューが基本的にはついているので、一人くらいならば問題ない。



 だが、わざわざラース・クローグを選んだ理由は他でもない――。



「……さて。我が国でのギリューブス・ヴォルサムの最後の姿を確認したのは、ホーエストの親衛隊だったと聞いているが?」

「その通りでございます」


 つまり、そこからホーエストへと情報が漏れたのだろう。

 そしてそれを確認したかったと、そういうことだ。


「あの元魔術師には伝えたのか? 魔力を封じての追放を拒めば、いずれはホーエストに命を奪われる、と」

「出国前にそれを伝えたところ、青ざめて走り去ったと報告を受けております」

「そうか」


 個人的な理由でリィス・フラッザ宮中伯令嬢を誘拐した張本人が、今も生きていられるのは。国王陛下の温情あってこそなのだ。

 そもそもホーエストだけでなく、今回は魔術師団の監視役である宮中伯を本気で怒らせたのだから、一切の魔力を封じて国外追放が最も軽い刑になるという異常事態。三番目の息子と、実は国内最強の臣下が手を組む前に、一刻も早く刑を実行してしまいたいというのが本音だったのだ。

 いくら完全に相手に非があるとはいえ、息子に直接手を下すような真似はさせたくなかった、というところだろう。


「ブロムスツ家の時は、間に合わなかったからな」


 本来ならば男性しかいないはずの場所へと送られた彼らは、きっと今頃死罪になったほうがマシだったと思うような状況だろう。特に、若い娘であればなおさら。

 叶わない相手に恋慕の情を募らせ、まんまとそれを利用されたヴォルサム子爵家の次男とは、きっと比べ物にならない。おそらくすでに、乙女ではなくなっているだろう。


「殿下があちらに目を向けてくださっていたからこそ、今回は間に合ったとも言えます」

「そうだな」


 どこか遠い目をしているフゥバ王国の国王陛下、レゾルートゥ・フゥバ・ベスキュードゥルゼは思う。息子が婚約者のことを愛しすぎていて困る、と。


 心置きなくため息をついた彼は、この日の夜。妻であるエルスカ王妃に「ホーエストの育て方を間違えた気がしないか?」と尋ねることになるのだが。

 今はまだ、部屋にホーエストを呼び出して話をしていない彼は。そのことを、知らない。



 どちらかというと、このお話のタイトル「国王陛下の受難」では?(´・ω・`)



~他作品情報~


 明日8/22(火)より、Renta!様にて『王弟殿下のお茶くみ係』のコミカライズが配信されます!

 詳しくは活動報告にありますので、気になる方はぜひ!!(*>ω<)b



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