既視感
なんと!気づけばPV数が70,000を突破しておりました!(((( ;゜д゜)))アワワワワ
しかもブクマ登録してくださった方も評価してくださった方も増えている…!!
ブクマ登録してくださった224名の方、評価してくださった35名の方。そして何よりも読んでくださった全ての方に感謝を。
ありがとうございます!!m(>ω<*mペコペコッ
そんなこの作品ですが、ついに次回本編最終回です!!
とはいえまだまだ「おまけ」もありますので、もう少しお付き合いのほどよろしくお願いします!!m(>_<)m
「ホーエスト様」
「ごめんって。だからそんなに拗ねないで」
呼びかければ、苦笑交じりの声でそう答えてくださいましたけれど。
「拗ねてはおりません。私は怒っているのです」
それと、少々の呆れも混じっておりますが。
中庭は季節が移ろうとしているからか、植えられているお花の種類も変化しているようですけれど。相変わらず美しいこの場所を眺めるのに、ここのベンチは最高の位置に置かれていると思うのです。
ただ今の私には、それを眺める余裕などないのですけれど。
「ごめんってば。手紙で詳細を伝えるわけにもいかなかったし、僕もずーっとリィスに会えなくてイライラしてたんだ」
「本音は後者ですね?」
「ごめんってばー!」
存じておりますよ。私がお側にいれば、ホーエスト様は感情を必要以上に隠される必要がなくなりますから。
逆に言えば、私がいない間は窮屈な生活を送られていたということ。
「どんな理由があるにせよ、セルシィーガ公爵令嬢を利用なさったのはいただけません。あの方はついこの間も利用されたばかりなのですよ」
「それは分かってるんだけど、向こうがその気で近付いてきている分には仕方ないと思わない?」
「それは……そうですけれど」
確かにあちらから行動を起こされていたのであって、ホーエスト様がセルシィーガ公爵令嬢をお選びになったわけではありませんものね。
そう考えると、この件に関してホーエスト様だけを一方的に責めるのも、おかしいのかもしれません。
「あ、そうそう。その利用してた元伯爵令嬢だけど、一家そろって犯罪労働者として炭鉱送りになったよ」
「炭鉱? そこは男性しかいない場所では?」
「通常はね。でも今回は王家と国を欺いていた上に、利用した人物の意思とは関係なく、王族の婚約者を襲撃させた。本来なら王家に盾突いたという理由で、死罪になってもおかしくなかったんだよ」
それをしなかった理由は、必要以上に騒ぎ立てて憶測を呼びたくなかったから、ですね。
もっと言えば、私が連れ去られたという事実を隠し通すため。
「ま、今頃は一生懸命働いてくれてるんじゃないかなー? どうせ死んでたはずの命なら、何かの役に立ってもらったほうがいいでしょ?」
とてもいい笑顔でおっしゃっていますけれど、なかなかに厳しい現実だと思います。
何より本来男性のみの場所に、女性が行くということは……。
(もしかしたら、まさに今……)
一つの可能性を想像してしまい、思わず両腕で自分の体を抱きしめてしまいます。
恐ろしい想像だと割り切ってしまえないのは、私自身があの日それに近い体験をしてしまっているからなのでしょうか。
「リィス? 大丈夫?」
そっと抱きしめてくださいますけれど、きっとホーエスト様は彼女がそうなることを承知の上だったのでしょうね。
女性にとっては、死ぬよりもつらい現実かもしれません。けれど同時に、彼女が私にしようとしていたのも同じこと。
巡り巡って、すべてが返ってきている状況なのかもしれません。悪いことはできないというのは、きっとこういうことを指しているのでしょう。
「ねぇリィス、覚えておいて。僕の婚約者はリィス一人だけだし、リィスに手を出そうとするなら相手にどんな事情があろうとも、僕は許さない」
「っ!!」
その宣言は、今回の一連のことを如実に表しているようで。
「だからリィスは、安心して僕の側にいて? もう二度と、あんな怖い思いさせないから」
「……はい、ホーエスト様」
けれど実際にはきっと私を気遣ってくださっているからこそ、包み隠さず本当のことをお話ししていただけたのだと思います。
そうでなければ、いつか私が疑問に思った時に「どうしてその時に事の顛末をお伝えいただけなかったのか」と不安と不満を抱く可能性があると、ホーエスト様は見抜いていらっしゃったのでしょう。
事実きっと、知らないままであればその通りになっていたでしょうから。
(けれど、もう)
私は自らの意思でホーエスト様の手を取ったあの時、すでに決意は固めておりました。
覚悟も、今回のことで示せたと思っております。
だからこそ、私からもお伝えしておかなければと。
そう考えたのは、ある種当然のことだったのです。
「大丈夫です。私の能力は王家の皆様の、ホーエスト様のためにあるのですから」
それがたとえ、誤った選択なのだったとしても。
「……は? 能力? 何の話?」
「え……? 私がホーエスト様の婚約者にと望まれた元々の理由は、フラッザ家の特殊な体質を見込まれて、ですよね?」
私の勘違いが生み出した、的外れな言葉だったのだと。
「まぁ、うん。最初はそうだったんじゃないかな?」
「最初は? 今も、ではないのですか?」
最後まで、気付かぬまま。
「ん?」
「あら?」
二人して見つめ合うことしばし。
しばらく無言のまま、数回の瞬きの後。
「あー……。なるほど、そっかぁ。そういう勘違いが生まれてたんだー」
道理でおかしいと思ったよ。と手で顔を覆いながら呟かれたのは、当然ホーエスト様のほう。
私はこの時になってもまだ、どういうことなのかを理解しておりませんでした。
「え、っと……ホーエスト様?」
何にお気付きになられたのかは分かりませんが、まずはお聞きしてみないことには分かりませんから。
そう思ってお声がけして伸ばそうとした手は。
「リィス!」
「はいっ!」
勢いよく名前を呼ばれて、思わずお返事するのと同時に膝の上に揃えて置いてしまいました。
「まさかとは思うけど、僕がその体質だけを望んでリィスを手放したくないって思ってるって、そう考えてた?」
「え? 違うのですか?」
だからこそ、私を手元に置こうとされていたのでは?
前に一度、都合よく嫉妬だと私が解釈したホーエスト様の瞳の中にあった感情の正体は、冷静に考えてみればこの体質を手放したくないという執着だったのではないかと思ったのです。
私としては、それでも一向に構わないのですが。
「そ、っかぁ……。へぇ、そっかぁ。そうだったんだぁ」
「あ、あの……ホーエスト様……?」
何でしょう、この既視感は。
いやな予感がヒシヒシとするのは、私の勘違いではないような気がするのです。
(そういえば、前も確かこの場所で……)
同じように、会場から抜け出して二人きりだったことを思い出します。
「ねぇ、リィス」
「んっ……」
あの時と同じように、ホーエスト様は私のオリーブブラウンの髪をそっと耳にかけて。
けれどあの時とは違って、真っ直ぐに私の目を見ながら。
「大好きだよ、リィス」
溢れんばかりの愛おしさを込めるように、そうおっしゃったのです。




