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醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
本編

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56/75

あり得ない

 あまりにも恥ずかしすぎる醜態をさらした後、さらには用意された二人分のパン粥を手ずから食べさせてくださったホーエスト様。

 一口分をすくったスプーンの上のパン粥を、フーフーと息を吹きかけて冷ますホーエスト様は、大変ご機嫌なようでしたが。


(わたくし)は恥ずかしすぎましたっ……!!)


 微笑ましそうに、私付きになる予定だという侍女に見られていたので、なおさらですっ……!!

 こんな時に思い出すべきことではないと、頭では理解しているのですが。僅かにでも時間ができて、気を抜くとすぐに思い出してしまうのは、あれからまだ日が経っていないからなのでしょう。

 まさか、三日間も目を覚まさなかったなんて。後から聞いて驚愕したのです。


(同時に、ホーエスト様の不摂生にも驚愕しましたが)


 心配のあまり食事も喉を通らず、恐ろしくて眠ることもできなかったのだとホーエスト様の口から直接聞いてしまった身としては、強く責めることもできず。

 なので謝罪の代わりになるかは分かりませんが、一つの可能性を示して今回の計画を提案したのです。


(謝罪は、私が悪いわけではないと受け取っていただけませんでしたから)


 何より、ホーエスト様の親衛隊からの報告も聞いた上での判断ですから。彼らからもたらされた最大の疑問も、今夜解消できるのではないかと思っております。

 煌びやかな会場の様子を、小さく開いた扉の外から確認しておりますが、今のところ皆様楽しそうにしていらっしゃいますね。


(まさか仕掛ける側にまわる日が来るとは、思ってもみませんでしたが)


 今現在、私が回復していることを知っているのは、ごく一部の人物のみ。

 馬車を襲われたあの日、私はセルシィーガ公爵令嬢のお茶会に招待されておりましたから。瞬く間に噂が広がってしまったのは、仕方がないことだったのです。

 ただ、噂の内容は「宮中伯令嬢の乗る馬車が何者かに襲われ、その際頭を強く打ってしまい現在は療養中」というものですけれど。


(嘘ではありませんが、随分と詳細が抜けているのは意図的ですね)


 襲った人物が魔術師であること、男性であること、私を連れ去ったことなどは、一切公表しておりませんから。

 つまり目的が何であったのか以前に、私へとかけられる疑いが完全に伏せられている、と。そういうことなのです。


(私としては、ありがたい限りではありますが)


 おそらくこの後にいらっしゃる人物からすれば、面白くない展開でしょう。

 折角噂は広がったのに、満足に目的も達することができないまま、状況も今一つ掴めない状態で。


 けれどだからこそ、必ず現れるはずです。


 なぜならばその噂にもう一つ、こちらから意図的に流布した新しい情報を付け加えたのですから。

 フラッザ宮中伯令嬢は、次回の夜会に出席できないかもしれない、という噂を。


(皆様、面白おかしく広げてくださる方たちばかりですからね)


 大変ありがたいことに、瞬く間に広がったその噂は様々な憶測をない交ぜにしながら、今日を迎えておりますので。もはや嘘も真実も、見分けがつかないのです。

 ちなみに私たちの言い分としては、あくまでも仮定の話に過ぎませんでしたので、で落ち着いております。

 「かもしれない」ですもの。出席する可能性だって、なくなってはいないのですよ。


 ずるい考え方に、少しだけ物語の悪者になった気分になった、その瞬間。

 会場内に小さなざわめきが広がって、少しだけ雰囲気が変わったようでした。


(来ましたね)


 ホーエスト様へと視線を移せば、その正面には見覚えのない色合いの令嬢が。


(……いえ、違いますね。髪や瞳の色合いは別かもしれませんが、お顔自体には見覚えがありますもの)


 きっと彼女は何一つ疑うことなく、ホーエスト様に自己紹介をしていることでしょう。ロイナ・ブロムスツ伯爵令嬢です、と。


 そう。彼女こそが、今回の本当の首謀者。

 もっと言えば、ブロムスツ伯爵家の野望、といったところでしょうか。


(まさかそこまでとは、私も考えてはおりませんでしたけれど)


 あの明らかに違う色合いを見てしまえば、そうとしか思えなくなってしまうのも致し方ないことなのです。

 そうでなければ、この状況はあり得ないのですから。


 そしてきっと、嫌というほど思い知ることでしょう。

 過ぎたる野心は、身を滅ぼすのだと。



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