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醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
本編

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53/75

目覚め

 長くなってしまったので、本日は二話に分割して更新しますっ(>ω<;)



 ゆっくりと瞼を持ち上げて光を感じる目覚めの瞬間は、何度体験しても爽やかなもののはず……なのですが。


(体が、重い)


 普段よりも深くベッドに沈み込んでいるような気がして、同時に起き上がる気力が湧かないほどのだるさを感じてしまいます。

 眠りにつく前、(わたくし)は何をしていたのかと記憶を手繰り寄せようとした、まさにその瞬間。


「リィスっ!!」


 聞きなれた、けれどいらっしゃるはずがないお方の声が聞こえたような気がして、ゆっくりと頭をそちらに向けて視線を移動させます。

 それにしても、なぜでしょう。目に映る場所に、見覚えがないような気がしてしまうのは……。


「リィス! よかったっ……! 目が覚めたんだね!」


 ホーエスト様のご尊顔が目に飛び込んできて、一瞬眩しさに目を細めてしまいましたが。なぜ、と思うよりも先に頷いて――。


「……?」


 違和感に、気が付いたのです。


「僕のこと、分かる?」


 問われて再び頷きますが、なぜでしょう。


(先ほどから、声が……)


 はい、とお返事をしたいのに、かすれて声が出てこないのです。

 無理に大きな声を出そうとすると喉に負担がかかりそうですし、困りました。


「リィス起き上がれそう? お腹はすいてない? それよりも先に何か飲む?」


 心配そうな表情で覗き込むホーエスト様にお答えしようと、腕に力を入れて起き上がろうとしますが……。

 なぜかうまく力が出せずに、バランスを崩してしまいます。


「危ないっ! 無理して起きなくていいよ。そのままでいいから」


 急いで抱きとめてくださったホーエスト様のおかげで、大事(だいじ)には至らずにすみましたが。危うく頭から床に落ちてしまうところでした。

 どうやら今の私は、普段できて当然のことができない状態のようです。

 本当に、困ってしまいました……。一体どうすればよいのでしょう……。


「大丈夫? ごめんね。本当に無理はしなくていいからね」


 そう言いながら、私が起き上がろうとしていたことには気付いてくださったのか、いつの間にか枕やクッションをかき集めて支えにしてくださるホーエスト様。

 何というか……。今日のホーエスト様は、いつにも増して過保護な気がするのですが。

 私の気のせいでしょうか?


「他には? 何か欲しい?」


 問われて無意識に目を向けてしまった先は、透明なガラスのピッチャーになみなみと入れられている水。

 そういえば喉が渇いているような気が……と私が思うよりも先に、またしてもホーエスト様が素早く動いてコップに水を入れてくださったのです。

 私が動こうとするよりもずっと早く、お止めする暇すらありませんでした。


「はい、リィス。ゆっくり飲んでね?」


 声がかすれてしまっている以上、頷くしか今の私にはできることはありませんが。言われた通り受け取ったコップの水を、ゆっくりと喉の奥へと流し込んでいきます。

 私が意識している以上に体は水を欲していたのか、気が付けばコップの中は空になっていて。

 そしてようやく一息つけたような気がして、ほぅと小さく息を吐き出すのです。


「まだいる?」


 そっと私の手からコップを抜き取ったホーエスト様が、そう声をかけてくださいましたが。さすがに何度もお願いするのは申し訳なく思い、首を横に振りました。

 同時に声を発してみようとしたのですが……。

 やはり、かすれるばかりで音にはならないのです。


「そっか。欲しくなったら言ってね」


 優しいホーエスト様のお言葉に笑みを返せば、途端驚いたように固まってしまわれて。

 そして次の瞬間、泣き出しそうな表情(かお)をしながら私の頬にそっと触れ。


「リィス……よかった、リィス。君が、本当の天使にならなくて」


 そんな風に、呟かれたのです。


「リィスは、僕だけの天使だから。君を失ったら、僕は生きていけないんだ」


 その意味を、理解しようとした瞬間。

 私は、意識を失う前のことを思い出したのです。


(わたくしっ……! それにっ、つまり、ここはっ……!)


 私の自室でも、ましてやフラッザ宮中伯邸でもないのでしょう。

 きっとあのまま、私は王城に運び込まれて……。


「ごめん。侍医を呼ぶのが先だよね。待ってて」

「っ!!」


 離れてしまったぬくもりと、去っていくホーエスト様の後ろ姿を見た瞬間。私の中では、別の恐怖が膨れ上がってしまって。


『まっ、待ってくださいっ……!』


 かすれた声で必死に呼び止めて、ホーエスト様の服の裾を間一髪で掴むのに成功したのです。


(わっ、わたくしっ……!)


 あの時、どのような格好で運び込まれたのか。忘れられるわけがないのです。

 そして同時に、疑惑が浮かび上がっている可能性も。


「リィス? どうしたの?」


 声が出ないことには先ほどから気付いておられたのか、今更かすれ声で呼ぶ私にそのことを指摘するようなことはありませんでしたが、代わりに今まで座っていらっしゃった椅子に再び腰を下ろしてくださったのです。

 それはきっと、私と目線を合わせるため。


(あぁっ、ホーエスト様っ……!)


 私はずっと、ホーエスト様のお側にいたい。こんなことで、さようならなんてしたくない。

 だからお伝えしなければならないのです。どなたかに、疑問を口にされてしまうよりも先に。


『わっ、わたくしっ……』

「うん、大丈夫。ゆっくりで、大丈夫だから」


 焦る私を落ち着けようと、ホーエスト様がゆっくりとお話ししてくださっているのは分かっているのですが。

 今の私に、そんな余裕はありませんでした。

 ただ、信じていただきたくて。


『わたくしっ、純潔を散らされてなどおりませんっ……!』


 必死になって、ホーエスト様の服を両手で掴みながら、お伝えした私ですが。



 その瞬間に訪れた静寂を、何と表現すればいいのか分かりませんでした。



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