容赦など欠片もない sideホーエスト
「リィスーーーー!!」
無意識にリィスの手を取るために伸ばした腕は、倒れゆく彼女に真っ直ぐ向けたところで全然届かなくて。
それどころか、こちらに攻撃しようとしてくる姿を捉えたのか親衛隊隊長のラースが、僕の体を必死に押しとどめているから。
「リィス!! リィスッ!! どけラース! リィスがッ!!」
「いけません!!」
その瞬間飛んできた風の刃は、力任せにねじ伏せてやった。
そんなことよりも、頭を打ったのか倒れ込んで動かないリィスのほうが気になる――
「全員死ねぇっ!!」
――とか、思ってる場合じゃなかった。
目の前には、リィスを傷つけた張本人。しかもこちらに敵意剥き出し。
となれば、僕がやるべきことは一つ。
「お前がぁっ!!」
「がッ!!」
魔術攻撃を警戒したのか、ラースの意識が敵に向いた一瞬を逃さずにすり抜けて。リィスにやっていたのと同じように、僕は片手でそいつの首を絞めてやる。
両手なんて必要ない。僕はただそのまま、こんな下級魔術師には耐えられないくらいの魔力を流し込んでやればいいんだから。
「ぁッ、がッ……!」
耐えられるわけがない。僕の全力の魔力なんて、未だかつて誰も受けたことがないんだから。
リィスを傷つけた人間に、容赦など欠片もない。そんなものは、必要ない。
白目を剥いて口の端からは泡を吹き、徐々に力を失っていく四肢。
それはやがて、小さく何度も痙攣するようになり――――。
「殿下!! それ以上はフラッザ宮中伯令嬢が悲しまれます!!」
「……リィス、が?」
目の前の男を絶命させるより先に聞こえてきた言葉に、僕は咄嗟に手を離してしまった。
その隙を逃さずに、すぐさま崩れ落ちた男を回収したラースは。
「ピーター! ミケル!」
「はい!」
「は、はいっ……!」
副隊長のピーター・ヘンリクセンと隊員の一人ミケル・スキビューの名前を呼んで、男を二人のほうへと放り投げる。
それを視界の端に捕えながらも、僕は思いっきりラースを睨みつけた。
「……どういうつもりかな、ラース」
「恐れながら申し上げます。このままあの男の命を奪ってしまえば、フラッザ宮中伯令嬢が悲しまれるでしょう。それは殿下も本意ではないはず」
「そうだね。でもそれは誰もリィスに言わなければいいだけの話だよ」
言葉とは裏腹に、まったく僕を恐れる様子もなく見つめてくるこの男は、さすが父上が選んだだけあって胆力が違う。
よく今の状態の僕の前に、普通に立てるよね。僕今、物凄く怒ってるんだけど。
「いいえ殿下。フラッザ宮中伯令嬢は、きっと事の顛末を気にされることでしょう。その際我々は、嘘をお伝えするわけにはまいりません」
「どうして?」
「我らはホーエスト殿下の親衛隊。であれば殿下のお妃となられるお方に対する虚偽の報告は、殿下を侮辱することに他ならないからです」
その瞬間、僕の機嫌がちょっとだけよくなったのは秘密。
でも少なくともラースは、僕の隣に立つのはリィスだけだってちゃんと理解してるってことだからね。そこは今度褒めてあげる。
「何より、この男からはまだ情報を引き出さなければなりません。今後、二度とフラッザ宮中伯令嬢が狙われないようにするためにも」
「……」
うん、ラース。君はあれだね。僕の扱いをよく知ってるね。
それに。
「第一に、殿下が今すぐにすべきはあんな男の処理などではないはずです。それともフラッザ宮中伯令嬢は、私が城までお運びしてよろしいのですか?」
「っ!!」
手で示されながら言われて、目を向けた先。
男しかいない僕の親衛隊の面々の中で、治癒魔法を使える二人がリィスに触れないように気を付けながら、治療にあたってた。




