表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/75

間違った選択

 鎖の先を追ってそっとスカートをめくってみれば、右足首に繋がれている金属の輪。少しでも動かせば鎖が音を立ててしまいそうで、迂闊に行動できません。


(気配はありませんが、明かりがある以上戻ってくるつもりがあるということでしょうから)


 このままこの場所に(わたくし)を繋いだまま、命尽きるまで待つなどという気長な予定ではないはずですし。何よりその場合、光源を残す意味がありませんからね。

 辺りを見渡しても、やはり何一つ物はなく。ただ広い石造りの空間が広がっているだけなのです。

 その冷たさを直に手で感じながら、これからどうすべきかを必死に考えます。


(自力で逃げ出すことは、鎖に繋がれている時点で不可能ですね)


 たとえ私がこの鎖をどうにかできたとしても、相手は魔術師。そのままではすぐに捕まってしまうことでしょう。

 そもそも相手の目的も正体も分からない状態では、交渉すらできませんからね。対処のしようがありません。


(いっそ、呼び寄せたほうが早いのでしょうか?)


 下手に暴れては危ないので、大声を出すようなことはしませんが。

 右足を動かせば繋がれている鎖が少しだけ動いて、ジャラリと金属がこすれ合う音が響きました。

 決して軽くはないその音は、やはりそう簡単には引きちぎったりできないのだと証明していて。


(さて、どうしましょう)


 両腕も自由にならない中、私にできることはほとんどないと言っても過言ではないのでしょう。

 唯一の救いは、相手が魔術師である以上お父様がすぐに動いてくださっていると確信できることでしょうか。

 おそらくこの場所が割り出されるのも、時間の問題かと思いますので。大人しく助けを待つのが、最も賢い手段かもしれません。


(ただ、その場合)


 結局犯人も目的も分からずじまいになってしまいそうなのが、少し恐ろしいところですけれど。

 できれば今回限りでこのようなことは終わりにしてしまいたいので、しっかりと目的を聞きだした上で犯人を特定したいところなのですが……。

 こういった場合は、実行犯と依頼主が違う可能性が高いそうですからね。少々難しいかもしれません。


「っ!!」


 どう行動すべきかと思案していた私の耳に、かすかに届いたその音は。明らかに、誰かの足音。

 一歩一歩、ゆっくりと近づいてくるその足音は、階段の上から聞こえてきています。同時に少しずつ上のほうから明るくなっていくのは、その人物が光源を持っているからなのでしょう。


(降りてくる……)


 実行犯か、依頼主か。それともその両方なのか。

 けれどよく聞けば音は一人分のようですから、様子を見に来たただの見張りの可能性もありますね。


(さて、どうしましょう)


 このまま相対するか、もしくは横になってまだ気を失っているフリをするか。

 迷ったのは、ほんの一瞬でした。


「あぁ、起きてたのか」


 何も情報を得られないというのはつらいですし、何より相手は魔術師。無理やり人を起こす方法など、いくらでもお持ちでしょうから。


「初めまして、でよろしいでしょうか?」

「話すのはね。一方的に知ってはいたけど、別に興味なんてなかったし」


 でしょうね。

 魔術師のローブは羽織っているものの、顔を隠す気がないのか露わになっているその髪色は、やはり明るいブロンド。瞳もブルーで、典型的な魔術師の色合いですもの。

 となれば、魔力量を重視しているはず。つまり私に興味など、欠片も抱くはずがないのですから。


(むしろそうでなければ、フラッザ宮中伯家の意味がありませんもの)


 魔術師に、警戒心を抱かれない。

 そういった意味合いでは、最初の難関は突破しているとみて間違いないでしょう。現に彼は今、私に顔を晒しているわけですし。


「でしたら解放していただきたいのですけれど?」

「それは無理だな。君にはまだやってもらわなきゃいけないことがある」


 油断している隙に、引き出せるだけ情報を得ておかなければ。

 ただ一つだけ、疑問は残りますが。


(どうして魔術師である彼が、私の誘拐などに関わっているのか)


 彼本人の意思なのか、あるいは依頼を受けているのか。どちらなのかは、これから聞き出すとして。

 魔術師は基本的に自身の魔力に誇りを持っているのです。それをこんな犯罪行為に利用するなんて、本来プライドが許さないはず。


「わざわざ犯罪を犯してまで、ですか?」


 でしたらそれを刺激し利用すべきでしょう。そうすればきっと、私の求める行動を取るはずですから。


「黙れ!!」


 案の定、彼は感情をむき出しにして私の肩を掴み、覆いかぶさるようにして力いっぱい押し倒してきたのです。

 それが、間違った選択だとも知らずに。


「っ……」

「君にボクの何が分かる!!」


 硬い石の床に叩き付けられた背中が痛みますが、今はそれよりも。


(かかりましたね)


 魔術師がフラッザ宮中伯家の人間に触れる。

 この状況を作り出せたのは、大きな前進です。むしろこの時点で、彼は能力のほぼ全てを失ったと言っても過言ではないでしょう。


「ダンス中に倒れないからというふざけた理由で第三王子の婚約者におさまってる君にっ!! 何が分かるっていうんだ!!」


 分かりませんわ。何も。

 だって私、目の前の人物が魔術師であり犯罪者であるということ以外、何も知らないのですもの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ