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醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
本編

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犯人の目的

 水の落ちる音が聞こえます。

 下にも水があるのでしょう。独特な音が静かに響いては、消えていって……。


(水……?)


 水滴程度とはいえ、なぜそのような音がするのでしょうか?

 それに先ほどから伝わってくる感触は、硬く冷たく。嗅いだことのない独特な匂いは、この場所が(わたくし)の自室ではないことを示していました。


 どうして、と思った次の瞬間には。

 意識を失う直前のことを、思い出して。


(なるほど。私、どなたかに襲撃されたのですね)


 そうでなければ、説明がつきません。あれが事故なのだったとすれば、今頃は馬車の中か地面の上か、あるいはベッドの上でしょうから。

 こんな時でも冷静でいられるのは、幼い頃から王家の一員となるための教育を受けてきたからこそ。

 とはいえ状況も分からないまま動くことはできませんし、まずは少しずつでも情報を集めるべきでしょうね。

 犯人がすぐそばにいる可能性も考えて、薄く目を開けてあたりの様子をうかがってみます。


(暗いですが、まったく見えないほどではありませんね)


 つまり、どこかに光源があるということ。

 けれど灰色の石造りのこの場所は、明らかに普通の部屋ではありませんし。もちろん、私は見覚えなどあるはずがありません。

 見える範囲には人影など見当たりませんし、そもそも人の気配すらしていないのは、この場所にいないだけなのか放置されたのか。


(いずれにせよ、まずは場所の確認が最優先ですから)


 残りのまぶたをしっかりと持ち上げて、まずはゆっくりと頭だけを動かしながら観察してみます。

 予想通りこの場所には私だけのようですが、そうなると侍女や護衛や御者はどうなったのか。

 気になるところではありますが、今はひとまず答えが出ない問いは後回しにして。


(地下室、でしょうか?)


 ひんやりと冷たいこの場所には、窓一つありませんし。ある程度の広さがあるにもかかわらず、何一つ物が置かれてはおりませんでした。

 扉や柵などの仕切りがないことを考えると、おそらく牢ではないのだと思います。

 そして僅かに見えている、上へと向かう階段。

 下へ向かう階段がないことと、この場所が行き止まりになっていることを考えると、やはり地下室で間違ってはいないようです。


 ただ……。


(やはり、魔術師でしたか)


 光源となっている階段付近にある球体は、どう考えても魔力で作られた光の玉でした。

 何より我が家の護衛は、単純な力ではそう簡単に倒せませんし。あの時の彼らが警戒の声一つ発していなかったことを考えると、魔術師相手だったとしか考えられないのです。

 音も姿もないまま、不意打ちで襲撃されたのでしょう。それも連続で。

 きっと彼らに渡していた魔術道具もその魔力に耐えきれず、気付かぬうちに壊れてしまっていたのではないかと思います。


(犯人の目的は、私の誘拐?)


 あの場で命を奪われなかったということは、おそらくそうなのでしょう。


 けれど、どうして?


 正直ホーエスト様の新たな婚約者になりたい方の仕業ならば、あの場で事故死に見せかけたほうが都合がよかったはずなのです。

 たとえ無意識に私が犯人の魔力を受け止めてしまっていたのだとしても、連れ去るよりはもっと楽な方法があったはずですから。


(一人で考えていても、すぐに答えが出るわけではありませんよね)


 犯人も姿を現さないのであれば、何とかしてこの場から逃げ出す方法を考えるべきですから。

 それでも音を立てないようにゆっくりと起き上がろうとして――――。


「っ!!」


 そこで初めて、私は気付いたのです。

 両手首を、荒い縄でしっかりと縛られているということに。


(これは、つまり……)


 不自由さを感じながらも、ゆっくりと上体を起こした私は、そっと足元へと目を向けて。

 そうして、あぁやはり、と小さくため息をつくのです。


(当然、ですよね)


 手だけを縛り上げても、逃げようと思えば逃げられるはずですから。せっかく誘拐した相手にみすみす逃げられたのでは、意味がありませんもの。

 スカートの中から出ている鎖は、床へと打ち込まれた金属製の(くい)へと繋がっていて。

 簡単には逃げ出せない、と。そういうことなのでしょう。



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