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醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
本編

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ガーデンパーティー

 暑い季節も終わりが見え始めた頃。

 本格的な実りの季節を迎える時期には、領地を持つ皆様はカントリーハウスへとお戻りになられてしまうので、社交のシーズンも終わりを迎えることになるのです。

 つまりあとひと月ほど、といったところでしょうか。長くてもふた月はないでしょうね。

 ですからまだお相手が見つかっていらっしゃらない方々は、必死になって昼に夜にとお出かけになられているのです。


(わたくし)の場合はむしろ、シーズン外のほうが忙しいのですけれどね)


 シーズン中はホーエスト様のパートナーとして出向く必要がありますし、王家の皆様のお茶会にも参加必須となっておりますので、忙しくないわけではないのですが。それでもホーエスト様とご一緒できる機会が多いので、私としてはうれしいことでもあるのです。


 問題は、シーズンが終わった後。秋から冬にかけてなのです。


 宮中伯という名前の通り、フラッザ家のお仕事は王都の外には基本的にございませんので、領地も頂いておりません。

 つまり社交のシーズン以外にやることがない私の場合、その時期こそが学びの機会となるのです。


(第三王子の婚約者ですから、仕方のないことなのですが)


 昨年の振り返りのマナーと知識を試された後、新しいマナーと知識を身につけていくための時間。

 簡単に言ってしまえば、王家の一員となるためのお勉強、ですね。

 それを次の社交のシーズンが始まるまでに完璧に習得しておかなければならないので、正直なところ私にとっては今の時期以上に忙しい日々となるのです。


『例のご令嬢、まだお相手がお決まりにならないそうですわ』

『確か一度お約束したものの、結局魔力量がお相手を上回ってしまったのですよね?』

『持ちすぎる、というのも酷なものですわね。お相手だった男性は、既に次の婚約者がお決まりになったとか』

『まぁ! それはお可哀想に……』


 そして本日は王家主催のガーデンパーティー。当然私も出席しております。

 ホーエスト様は成人王族としてご挨拶を受けるお立場ですので、私は今まで通り会場の隅のほうで皆様のご挨拶が終了して、ホーエスト様がいらっしゃるのをお待ちしている状態なのですが……。


(お可哀想と口にしつつ、本心では嘲笑っておりますね)


 こういった場所では中心部よりも、より下世話な会話が聞こえてくるのが少しばかり難点ですね。

 幸いなことに、背の高い樹木の陰でグラスを傾ける私の姿はどなたの目にも映らないので、こうしてゆっくりとできているのですが。

 あ、もちろん飲み物はアルコールの入っていないジュースですよ。日に透ける黄金色がとても美しい、果実のジュースなのです。


「リィスってば、今日はこんなところにいたの?」


 ほんの少しだけグラスを掲げながら、その美しさに見惚れていた私に声をかけてくださったのは、もちろんホーエスト様。

 ところで毎回不思議なのですけれど、本当にどうしてホーエスト様は私のいる場所がすぐにお分かりになるのでしょうか? 始まった時間から考えると、皆様のご挨拶が終わったのはつい先ほどだと思うのですが……。

 いえ、それよりもまずは。


「お疲れ様でございました」

「あ、うん。……いやいや、そうじゃなくてね?」

「華やかなあの場にいては、ひと時も休まることがないのではと思っておりましたが……。私、間違っておりましたか?」

「まさか! 先に婚約者に会いに行きたいからと、全部の誘いを断れて助かったよ」


 そう言っていただけると、こうして隠れるように一人お待ちしていた時間も報われます。

 最近のホーエスト様は、あちらこちらでお声がけされることが増えておりましたから。婚約者である私が見つからなければ、きっと逃れる口実になるだろうと思っておりました。

 私だけの場合は今もお声がけしてくださる方などいらっしゃらないので、どこにいてもあまり変わりはないのですけれど。


(あぁ、でも。この間の件があってから、違う意味で遠巻きに見られることが増えたかもしれませんね)


 公爵令嬢ですらダンス一曲も踊り切れないほど魔力量の多いお方のパートナーを、平然とこなす唯一の令嬢として。

 怪訝そうな視線が大半ですが、それ以外にも同情と、ほんの少し好奇が混ざったような視線を感じるようになりましたから。少しだけ、気まずい思いをしております。

 とはいえ実害は今のところ一切ないので、結局は今までとあまり変化はありませんが。


「ホーエスト様は何かお飲みになりますか?」

「ん? う~ん……。じゃあ、リィスが持ってるそれ、一口ちょうだい?」

「!?」


 少し首をひねって悩まれた後に、そんなことをおっしゃるなんて……!


「いけません! これはすでに私が口をつけておりますし!」

「うん、だったらなおさらそれがいいな」

「なっ!? そんな、はしたないことっ……!!」

「喉をちょっと潤したいだけだから、一口だけで十分なんだけど」


 だからといって私の飲みかけなどっ……!!


「だめ?」

「いっ、いけませんっ……!!」


 あまりに美しすぎるご尊顔に、危うく頷いてしまいそうになりましたが。

 ここでそれを許してしまうわけにはいきませんもの!


(けれど、どうしましょうっ……)


 何とかしてホーエスト様を説得しなければと、必死で頭を働かせていた私の耳に届いたのは。


「やっ、やめてくださいっ……!」


 明らかに、助けを必要とする女性の声でした。



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