ずるいお方②
「安心して。僕とリィスの婚約は、王家の総意だから」
覗き込んでくるその表情は、言葉や声と同じくとても優しくて、柔らかくて。
薄暗い中でも透き通って見えるブルーグレーの瞳が、ゆっくりと瞼で隠されると。今度は髪色と同じバターブロンドの長い睫毛が目元を縁取り、光を反射して輝きます。
(そんなところまで、お美しいのですね)
私とは違って、なんて。少し後ろ向きな思考に陥って気が逸れていたせいでしょうか。
いつの間にか、口元を覆ったはずの私の、その手の甲に。
「…………っ!?」
あたたかく柔らかい何かが触れていたのです。
それはちょうど私の手を挟んでこちら側、ホーエスト様のパートナーを務めるために口紅を塗った、私の唇がある位置で。
「これは、誓いだよ」
「!?」
誓い!? 何の誓いですか!?
確かに手の甲への口づけは、誓いの意味もありますが!!
そして私の手は今、口元と耳元にありますが!!
「大丈夫。僕の隣に立っていいのは、リィスだけだから」
嬉しいお言葉ですけれど!!
今はそれどころではないのですよ!!
「あぁ、でも。どうせなら唇にしたかったなぁ」
爽やかな笑顔でなんてことを……!!
「次はそうするね」
次!? 次があるのですか!?
もはや驚きすぎて言葉を発するどころか、動くことすら忘れてしまった私に。
ホーエスト様は耳元を覆っていた私の手をそっとどけて、もう一度耳元で囁くのです。
「リィスの隣も、僕だけの場所だから。特等席なんだから、誰にも渡しちゃダメだよ。いいね?」
もちろんそんな風に言われてしまえば、全力で首を縦に振る以外、私にできることはありませんでした。
「でも急な用事ができたから、ちょっとだけ待っててね? すぐ戻るから、帰っちゃダメだよ?」
いい笑顔でそう念押しするホーエスト様に一つ頷くと、本当に急いでどこかに向かわれてしまいましたが。
(あぁ、私……)
このままで今後、色々とやっていけるのでしょうか。
違う意味で少々不安を覚えながらも、あまりの羞恥に顔を覆って項垂れる以外、今の私にできることはありません。
「刺激がっ……強すぎますっ……!」
ホーエスト様が戻られるまでの間、本当にそのまま、まったく動けなかったのですから。




