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醜い王子と地味令嬢  作者: 朝姫 夢
本編

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29/75

ずるいお方②

「安心して。僕とリィスの婚約は、王家の総意だから」


 覗き込んでくるその表情は、言葉や声と同じくとても優しくて、柔らかくて。

 薄暗い中でも透き通って見えるブルーグレーの瞳が、ゆっくりと瞼で隠されると。今度は髪色と同じバターブロンドの長い睫毛が目元を縁取り、光を反射して輝きます。


(そんなところまで、お美しいのですね)


 私とは違って、なんて。少し後ろ向きな思考に陥って気が逸れていたせいでしょうか。

 いつの間にか、口元を覆ったはずの私の、その手の甲に。


「…………っ!?」


 あたたかく柔らかい何か(・・)が触れていたのです。

 それはちょうど私の手を挟んでこちら側、ホーエスト様のパートナーを務めるために口紅を塗った、私の唇がある位置で。


「これは、誓いだよ」

「!?」


 誓い!? 何の誓いですか!?

 確かに手の甲への口づけは、誓いの意味もありますが!!

 そして私の手は今、口元と耳元にありますが!!


「大丈夫。僕の隣に立っていいのは、リィスだけだから」


 嬉しいお言葉ですけれど!!

 今はそれどころではないのですよ!!


「あぁ、でも。どうせなら唇にしたかったなぁ」


 爽やかな笑顔でなんてことを……!!


「次はそうするね」


 次!? 次があるのですか!?


 もはや驚きすぎて言葉を発するどころか、動くことすら忘れてしまった私に。

 ホーエスト様は耳元を覆っていた私の手をそっとどけて、もう一度耳元で囁くのです。


「リィスの隣も、僕だけの場所だから。特等席なんだから、誰にも渡しちゃダメだよ。いいね?」


 もちろんそんな風に言われてしまえば、全力で首を縦に振る以外、私にできることはありませんでした。


「でも急な用事ができたから、ちょっとだけ待っててね? すぐ戻るから、帰っちゃダメだよ?」


 いい笑顔でそう念押しするホーエスト様に一つ頷くと、本当に急いでどこかに向かわれてしまいましたが。


(あぁ、私……)


 このままで今後、色々とやっていけるのでしょうか。

 違う意味で少々不安を覚えながらも、あまりの羞恥に顔を覆って項垂れる以外、今の私にできることはありません。


「刺激がっ……強すぎますっ……!」


 ホーエスト様が戻られるまでの間、本当にそのまま、まったく動けなかったのですから。



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