間違いだった sideホーエスト
醜いと言われ続けてきた容姿が一変したあの日、鏡を見た瞬間に僕が思ったことはただ一つ。
(リィスはどんな反応をしてくれるかな)
きっと喜んでくれるに違いないと、家族の中の誰よりも美しい見た目になっていることに驚きつつも確信していた僕は。
今、それが間違いだったことにようやく気付いて、打ちのめされそうになっている。
「リィス」
今までと同じように差し出した手に、彼女の柔らかい手が重ねられる瞬間。向けられた笑顔はどこかぎこちなくて。
きっと周りの誰一人として気付いていない。僕だからこそ分かる、その変化。
最初は、大きく見た目が変わってしまったことによる戸惑いだと思ってた。
事実、リィスは戸惑ってたんだと思う。僕だということは認識しているけれど、目で見ている部分にも手で触れている部分にも、以前の面影があまりにもなさすぎて。
変わってないのは、髪と瞳の色だけだったから。
それすら前よりもずっと輝いてるんだから、もはや別人だよね。
(でも僕であることに変わりはないから)
なんて、思ってた。
きっとすぐ慣れてくれるだろう、って。
けど、どうしてだろうね? 今もまだ、リィスの笑顔はどこかぎこちなくて。
そして何より。
(あぁ、まただ)
彼女は、僕の目を見てくれなくなった。
正確に言えばちょっと違うかな。見てはくれるんだけど、前みたいに見つめ続けてくれなくなった。
今もまた、そっと目線を逸らされる。
(どうして?)
醜いと言われていた以前ならまだ分かる。けどそんなこと、前は一度もなかったのに。
今はこうしてダンスをしていても、二人でお茶をしていても、目が合わない時間が増えた。笑いかけても、リィスは以前のように笑ってくれなくなった。
どうしてもどこか、ぎこちなさが抜けない。
一度気になって、侍従に聞いてみたことがある。どうして彼女の態度が今までと違うんだろうって。
その時は「当然ですよ」と返された。「これまでホーエスト様はお顔を隠されてきたのですから」と。
(ようするに今までは僕側からは目が合ってたけど、リィスからしたら目が合ってるっていう自覚はあんまりなかったってことだよね)
実際口元まで髪で隠してたせいで、時折目じゃない部分を見ている人はいたけど。
それでもリィスの大きなブラウンの瞳は、いつも僕の目を正確に真っ直ぐ見つめてくれていたのに。
(ねぇ、リィス。僕のこの見た目、もしかして君は好きじゃない?)
聞きたいのに、聞けない。
もしそれで、リィスに頷かれたら?
そんなことになったら、僕はきっともう一生立ち直れない。
「すみません、少しだけ……」
「うん、いいよ。行ってらっしゃい」
「すぐに戻ります」
女性はお化粧や衣装を直したりするために、時折こうして会場を出ることがあるから。僕は何でもないことのように、リィスを送り出す。
でも足早に去っていくその後ろ姿は、まるで僕から離れていこうとしているようにも見えて。
「はぁ……」
最近はもうずっと、彼女に名前すら呼んでもらえていない。あの柔らかくて優しい響きで紡がれる呼びかけが、昔からずっと特別で大好きなのに。
綺麗になったはずの手を見つめながら、僕は小さくため息をつくんだ。
こんなことならいっそ、醜い見た目のままでよかったのにと思いながら。




