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本当のお姿

 艶のある輝くバターブロンドの髪を後ろにしっかりと撫でつけて、真っ直ぐと前を向く透き通るようなブルーグレーの瞳の持ち主は、まるで当然のように両陛下がおわす玉座へと歩き出しました。

 いえ、違いますね。まるで、ではなく本当に当然のことなのです。


(今、あそこから出てくるのは)


 紛れもなく、この国の第三王子殿下。ホーエスト様で間違いないのです。

 だから、扉は開かれた。騎士たちが守るべき主を見間違えるはずがないのですから。


(けれど……)


 ざわめく周囲の様子など意にも介さないご様子で、ただ真っ直ぐ目的の場所へと歩く美しいお方が、本当にホーエスト様なのかどうかは。正直なところ、(わたくし)ですら疑いたくなるほど。

 だって私の知っているホーエスト様は、こんなにも自信に溢れたお方ではなかったから。

 それに少しだけ、ホーエスト様よりも背が高い気がするのです。


『本当に……?』

『それなら、今まで(わたくし)たちが見ていたのは……』

『影武者?』

『それにしては、あまりにも似ていないのでは?』


 好き勝手に聞こえてくるその声を、いったんは無視して。私はあのお方がホーエスト様だと信じて、言祝(ことほ)ぎの代わりに最大級の敬意を込めたカーテシーを、お母様と共に。お父様とお兄様はお二人とも胸に手をあてながら、小さくお辞儀をするように(こうべ)を垂れておりました。

 ホーエスト様であろうお方が目の前を通り過ぎる前に、我が家のようにご挨拶してお迎えできたのは、ほんの一握りのお家柄の方々のみでした。その他の方々はといえば、ある方はすでに通り過ぎてしまわれた後に急いで、ある方は通り過ぎる直前に慌ててご挨拶をしており、またあるお方はその存在すら完全にお忘れになっているかのように立ち尽くしておりました。


(これは……)


 もしかしなくても、私たちは試されているのでは?

 そう私ですら邪推してしまうほど、あまりにも大きくこの場での対応が分かれてしまっていたのです。

 特に以前からホーエスト様へ不満を抱き、時と場所を選ばず悪し様に言っていた方々ほど、咄嗟の対応がまったくできていなかったように見受けられました。

 突然のことに驚かれているのは理解できますが、それでもこの場には両陛下もいらっしゃる状態なのですから、臣下としてのあるべき姿くらいはお見せするべきだと思うのですが……。

 やはり、難しいのでしょうか?



 けれど、もし。


 今目の前にいるこの美しいお方が、ホーエスト様の本当のお姿だったのだとすれば。



(今まで私がこの目で見て触れてきたホーエスト様は、偽物……? いえ、そんなはずは……)


 ないとはもちろん言い切れませんが、それでもあのブルーグレーの瞳だけは偽ることができないはずなのです。

 それ以前にこんなにも美しい男性だったのならば、今までどうしてそのお姿をお見せにならなかったのか。


(見せられない訳が、おありだった?)


 その可能性はかなり高いのかもしれません。

 いずれにせよ、このあと詳細をお聞かせ願えるのだと信じるしか、私たちにできることはないのですけれど。


 ただ、そうだとすれば。

 どうして私にも、今までその事実を教えていただけなかったのか。



 その、答えは――。



(きっと、私が……)


 ホーエスト様が本当のお姿をお見せできるようになるその日までの、仮の婚約者でしかなかったから。

 そうとしか、考えられないのです。


(もしくは)


 フラッザ家の特殊体質を、この日まで利用したかったから。


(そちらのほうが、より納得できますね)


 もしかしたら本当の目的は私ではなく、お父様やお兄様だったのかもしれません。王族の婚約者の家族ともなれば、頻繁に王家の方にお会いするのも不自然ではなかったでしょうし。

 そしてだからこそ、私には最後の最後まで。そう、ここに至ってもまだ、本当のことを教えてはいただけなかった。


(あぁ、なんて)


 (みじ)めで、滑稽なのかしら。そうとも知らずに、いつの間にかホーエスト様に恋をして。

 分不相応とはきっと、このことを言うのね。

 最初から、仮初の婚約者でしかなかったのに。


(きっと今日の最初のダンスのパートナーを務めるのが、私の最後のお役目)


 それまでの短い間に、覚悟を決める準備をしなければという思考とは別に。

 心のどこかが、軋むような音を立てたような気がしたのです。



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