9・魔物狩り
「魔物狩り……ね」
アリアは顎に手を当てて、一頻り思案する。
「はい。これなら彼の強さを確認することが出来ます。好都合なのでは?」
「んー……」
だが、アリアはなかなか首を縦に振ろうとしなかった。
「魔物狩り……その名の通り、魔物を倒してくればいいんですよね?」
と俺はセバスに問いかける。
魔物狩りは冒険者が好んでやることが多い。
魔物から採集出来るアイテムは高価なものも多い。
自分の腕っ節だけで金を稼ぐ冒険者にとって、おあつらえむきの仕事なのだ。
「その通りだ。実は街外れに丁度良い森があってな。そこには魔物が棲息している。ジスランにはアリアお嬢様と連れて、そこで魔物狩りをしてもらおう……と」
「なるほど」
「なに、心配するな。その森には四等級の魔物しかいない。貴殿の実力なら十分対処することが出来るだろう。四等級相手なら、危なくなったら逃げればいいだけの話だしな。それくらいは出来るだろう?」
四等級というと、ランクの中でも最も低い魔物だ。これなら危険も少ないだろう。
しかし。
「そ、それでも全く危険じゃないって話でもない! もしジスランが怪我なんかしたら……」
アリアはまだ納得しきれていないみたいだ。
「ジスランだけでも十分だと思いますが……無論、保険も付けます」
ジスランは話を続ける。
「エミーリアも同伴させましょう。これでしたら、万が一にでもアリアお嬢様に危険は及びません。これならどうですか?」
「そうね……エミーリアも来るなら大丈夫かしら」
渋々といった感じで、アリアも納得しそうになっている。
「そのエミーリアとは誰ですか?」
「ああ、すまない。ジスランにまだ紹介は済んでいなかったな。エミーリアはこの屋敷で働くメイドの一人だ」
「メイド……? お言葉ですが、どうしてそこまでエミーリアという方を信頼しているんですか?」
セバスに答えを求めると、
「エミーリアは二等級の冒険者に匹敵する強さなの。街外れの森で手こずるだなんて、絶対に有り得ないんだから」
と代わりにアリアが教えてくれた。
なんで一介のメイドがそんなに強いのか気になったが、まあ事情があるんだろう。
それにアーサーズ公爵家では執事がお嬢様の護衛も兼ねるという。
メイドにも適用されるだけの話だ。多分。
「そういうことですか。なら私としても心強いです」
別にそんなもの必要ないが……。
まあアリアも俺だけより、その子も一緒の方が安心できるだろう。
「ではアリアお嬢様。それでよろしいですか?」
「あたしはそれでいいわ。ジスランは?」
「私も問題ありませんよ。魔物を狩り、お嬢様を驚かせてみせましょう」
それに……こんなにすぐアリアの信頼を得られる好機がやってきたのだ。この好機、逃すことは出来ない。
そう考え、俺は気を引き締めるのだった。
◆ ◆
そして俺たちは早速、街外れの森に到着した。
「ここには久しぶりに来るわね。全然変わっていないわ」
魔物がいる森に来ているというのに、アリアは全く臆した様子はなかった。
元々強気な性格なんだろうな。
まあ臆病風に吹かれて、変な行動を取られるよりはマシなので別にいいが。
そして俺とアリア、もう一人の女の子……。
「今日は、よろしくお願い。します」
片言で喋る女の子。
このメイド服を見に付けた可愛らしい女の子が、先ほど言っていたエミーリアのようだ。
エミーリアはメイド服に身を包み、片手で本を開いている。
どうやらこの国の公用語の辞書らしい。
それとと俺たちに視線を交互しながら、彼女は喋っていた。
「はい。私こそよろしくお願いします」
にこっと笑顔を顔に貼りつけ、エミーリアと握手を交わす。
それにしても驚いたな……。
強いって聞いていたから、もっと女の子らしからぬ容姿を思い浮かべていたが……エミーリアはどちらかというと小柄で、とても魔物と戦えそうには見えない。
「ジスラン。エミーリアを侮っちゃいけないわよ」
そんな俺の考えを読んだのか、アリアがそう声をかけてきた。
「エミーリアは元々、戦争が多い国で生まれた子なの。だからエミーリアにとって、戦いは身近な存在」
「そこで戦いの技術を学びました、です」
「実戦経験も豊富ということですか」
まあ外見で侮るつもりは毛頭なかったけどな。
それは二流のやることだ。
そして無用意に力を誇示し、自分を大きく見せようとするのは三流だ。必要になる時は別だがな。
それにこうして何気なく喋っているエミーリアであるが、常に周囲に視線を配り、警戒を怠っていなかった。
ただのメイドではない。
「戦争が多い国……ということは、この国とはまた別のところですよね?」
つまりエミーリアは外国から来たということか。
「片言なのはそういうことですか」
「うん。この国の言葉、頑張って覚えてます、です。迷惑かけたら、ごめんなさい」
「いえいえ。ちゃんと意味は通じますから。それに……母国語じゃないことを考えたら、十分流暢だと思います」
異国の者が流れてくるのは、この国では珍しいことではない。
この国は地理上、四つの外国と陸続きに接しているのだ。
そのせいで亡命者が多く、そしてこの国も積極的に彼ら・彼女らを受け入れている事情があった。
「さて……早速、魔物狩りをやっていきましょうか。あまりゆっくりしていては日が暮れてしまいますからね。アリアお嬢様、エミーリアさん、準備はいいでしょうか?」
「いつでも大丈夫よ」
「エミーリアも、同じく」
アリアとエミーリアが頷く。
さっさと終わらせるとするか。
俺は森の奥に向かって、足を踏み出した。
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