5・勇者パーティー崩壊の序章
一方、その頃勇者パーティーは……。
「ジスランがいなくなって、せいせいしたな」
勇者ヴィクトルが、仲間の女二人にそう言った。
「全くだぜ。最後の台詞は傑作だったよな? なーにが、後悔するなだよ。後悔するのはあっちの方だっていうのによ」
「まさか彼があそこまで愚かだと思っていませんでした。反省の態度が見れたら、少しくらいは猶予してあげてもよかったのに……」
女武闘家カリスタと、女賢者クラリッサも口々にジスランの文句を口にする。
それを聞いて、ヴィクトルは自分が間違っていないことを再確認するのであった。
(ほんと……権力者ってのは、なにを考えてんだ? あんな無能を俺たちのパーティーに入れるだなんて……)
元々ヴィクトルたちは三人で旅をしていた。
そんなある日、王子殿下がジスランをパーティーに入れることを提案してきたのだ。
当然、抵抗はあった。
しかしこの旅を続けていくにあたって、ヴィクトルたちは国から多額の援助を受けている。
ましてや王子殿下たっての願い。
さすがのヴィクトルとて、これは受け入れざるを得なかった。
しかし。
(まあ最終的には、あいつが無能ってことが分かって追放になったけどな。最後まで王族どもがなにを考えていたのか分からずじまいだ)
とヴィクトルは嘆息する。
(なんにせよ、これで快適に旅を続けられる)
あいつがいなければ、パーティーの女二人とももっといちゃいちゃ出来る。
今夜、ベッドの上での二人を想像すると、ヴィクトルも自然と顔がにやけてしまった。
「さっさとこんなダンジョン、攻略しちまおうぜ」
「その通りです。早く宿屋に戻りましょう」
それは女武闘家カリスタと女賢者クラリッサも同じだったらしい。
「そうだな。しかし……やけにこのダンジョン、魔物が多くないか?」
そんな二人に対して、ヴィクトルはそう疑問を投げる。
現在、彼らはとあるダンジョンに来ている。
ここのダンジョンの奥にいるボスモンスターを倒すよう、国から要請を受けたからだ。
勇者パーティーは魔王を倒す使命を帯びているとはいえ、だからといって人々が魔物に襲われることを無視出来ない。
こういった道中の人助けも、ヴィクトルたちの仕事であったが……。
「オレもそれは思っていた。以前来た時はこうじゃなかったんだけどな……」
女武闘家カリスタも不思議顔である。
彼女の言う通り、以前訪れた時はここまで魔物の姿を目にしなかった。
それなのに今回はどういうことであろうか。
倒しても倒しても、次から次へと湧いてくる魔物。
そのせいでダンジョン攻略もろくに進まなかった。
(そういや、あの時もジスランは迷子になっていやがったな。ほんと、子どもじゃないんだから、ちゃんとして欲しいものだぜ)
昔のことを思い出し、ヴィクトルは不快な気持ちになった。
──無論、以前来た時は裏でジスランが彼らに気付かれないよう、裏で魔物の数を減らしていたのだ。
そのこともつゆ知らず、勇者パーティーたちは首をひねっていた。
「はあっ、はあっ……ようやく辿り着いた」
それでもヴィクトルたちはなんとかダンジョンの最奥に到着。
三人ともボスモンスターと戦う前から、息を切らしている。
いつ倒れてもおかしくないほどである。
「ヴィクトル……少し休みましょう。この状態でボスモンスターと戦うことは、危険……」
「クラリッサ。ちょっと待ってくれ。あれだ。依頼になったゴブリンメイジだ」
ヴィクトルの指を指す方には、両手に杖を持ったゴブリンメイジの姿があった。
まだゴブリンメイジはこちらに気付いた様子はない。
ゆえに、ここから一旦離脱することも容易であったが……。
「せっかく見つけたんだ。取り逃したくない。それに……相手はゴブリンメイジだ。せいぜい二等級の魔物だ。ここで一気に片付けてしまおう」
「ヴィクトル様の言う通りだな。おい、クラリッサ! 臆病風に吹かれてんなら、お前はそこで休んでな」
「……っ! なんて言い草! 怖気付いていませんっ! あなたこそ、そこで指を咥えて見ておきなさい!」
女武闘家カリスタと女賢者クラリッサが、お互いに闘士を滾らせる。
「行くぞ!」
「「はいっ!」」
ヴィクトルの号令で三人が一斉にかかる。
大きな声を出したものだから、ゴブリンメイジも三人に気が付く。
三人がゴブリンメイジに攻撃を仕掛けるよりも早く、炎魔術を放ってきた。
(確か……前はあっという間に倒してしまったな。いくら疲労を感じているとはいえ、今回もすぐに片付くだろう)
この状況になってなお、ヴィクトルは楽観視していた。
しかし。
「ど、どういうことだ!? どうしてゴブリンメイジにこんなに手間取らなければならない!?」
「お、おい! クラリッサ! さっさと治癒魔術をかけろ。このままじゃ、やられちまうぞ!」
「そんなこと、分かっています! ですが、何故か上手くいかず……」
三人はゴブリンメイジを前に、大苦戦を強いられていた。
(何故だ? 前戦った時は、俺が一度剣を振るったらすぐに死んでくれたというのに……いくら疲れているからとはいえ、ここまで苦戦するか?)
最早、ヴィクトルはパニックである。
いくら攻撃しても、ゴブリンメイジの体にすら届かない。
ゴブリンメイジからの攻撃も激しい。
ゆえに三人はゴブリンメイジにろくなダメージを与えられずにいた。
そんな中でも戦っていると……。
「ぐはあああああ!」
ゴブリンメイジの炎魔術がヴィクトルに直撃する。
彼は悲鳴を上げて、後方に吹っ飛んだ。
「ヴィクトル様!」
「ご無事ですか!?」
仲間の女二人もすぐに彼に駆け寄った。
それを見て、ゴブリンメイジはニヤリと口角を吊り上げる。
大した魔物ではないと思っていたゴブリンメイジが、今は悪魔のように見えた。
──これも無論、ジスランが抜けたせいである。
これもヴィクトルたちに気付かれぬよう、彼はゴブリンメイジの結界魔術を壊し、攻撃も完璧にいなしていた。
その時のゴブリンメイジとは別個体ではあるものの……そのおかげで、以前は勝利することが出来たのだ。
「た、退却だ! 一旦街に戻って、態勢を整えるぞ!」
「「はいっ!」」
ゴブリンメイジに勝てないと見て、三人は一斉に逃げ出す。
惨めな敗走であった。
しかしゴブリンメイジがそれを見逃すわけもない。
逃げるヴィクトルの背中に炎魔術を放つ。
「ぐああああああああああああ!」
見事、命中。
先ほどよりも大きな悲鳴。
意識を手放してしまいそうになったが、寸前のところで踏みとどまった。
そして……なんとか命辛々、この場から逃げ出すことが出来た。
(く、屈辱だ! 俺がゴブリンメイジに傷を負わされるとは!)
この時の火傷は、ヴィクトルの体に深く刻まれ、生涯彼を苦しめることになる。
だが、当然今のヴィクトルには知る由もなかった。
これが勇者パーティー崩壊の序章となった。
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