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19・勇者死す


【SIDE 勇者パーティー】



 追放したジスランをもう一度、パーティーに加入させるため。

 勇者パーティーは王城に足を踏み入れることになった。


 たかが一介の冒険者では、簡単にここを訪れることは出来ない。

 しかしヴィクトルは神託を受け、勇者となった男である。

 少し強引に言って、エヴラールとの対面を実現させていた。



「ヴィクトル、久しぶりだな。は貴様の顔など見たくなかったぞ」



 玉座に鎮座する第二王子──エヴラール。

 彼は肘掛に右腕を置き、頬杖をついてヴィクトルたちをつまらなそうに眺めていた。


(相変わらず偉そうなヤツだ)


 ヴィクトルは思う。


 エヴラール。

 この国の第二王子で、神童と謳われる男だ。


 武芸、学問の全てが高水準。齢六歳にて近衛騎士と対等に戦い、学問でも彼が発表した論文で国中の学者が舌を巻いた。


 そんな伝説を残してなお、エヴラールは王位を継承出来ない。

 理由は二番目に生まれたからだ。


 第一王子もエヴラールほどではないとはいえ優秀であり、なにごともなければ彼が王位を継ぐことになっている。

 エヴラールがそのことについてなにを思っているかは、ヴィクトルも分からなかった。


「殿下。急な訪問に対応してくれて礼を申し上げます。今日は殿下に頼み事があり、こうして参りました」

「ふんっ、前置きはいい。さっさと本題を話せ。余は忙しい」


 片膝を突くヴィクトルたちを見下ろし、エヴラールが口にした。


 そのことにじゃっかんヴィクトルはイラッとしたが、気にしない振りをして話を始めた。


「実は……ジスランの行方をお聞きしたいのです」

「ジスラン? 貴様らが先日、追放した冒険者の名ではないか。どうして今更そんなことを聞く」

「ジスランを再度、パーティーに加入させたいと思っています」

「…………」


 エヴラールはヴィクトルに値踏みするような視線を向ける。


「理由を聞こう」

「はっ。先日申し上げました通り、ジスランは勇者パーティーにふさわしくなかったので、私たちは彼を追放したのです。苦渋の決断でした。しかし追放してから、我々勇者パーティーには不運なことが続いています。そこで私たちは考えたのです。ジスランは幸運の置物だったのではと」

「…………」

「なので再度ジスランをパーティーに加入させれば、私たちの運も上向きになるでしょう。しかし彼は今どこにいるか分からない。そこで殿下ならなにか知っていると思い、こうしてお聞きしているわけです」

「……バカな話だ」


 エヴラールは深い溜め息を吐く。

 それには呆れの感情も含まれているように見えた。


「幸運の置物などという世迷言はともかく、そもそもジスランを追放したのは貴様らの方だ。今更言ったところで、ヤツが戻ってくるとでも思っているのか?」

「ヤツは金に汚い男でした。なので大金を積めば、尻尾を振って帰ってくるでしょう。ですが、私たちの手元にはあまり資金がないので、殿下の支援を重ねてお願いしたい。これもいつか現れるという魔王級のためです。悪い話ではないと思うのですが?」

「…………」


 ヴィクトルの話に黙って耳を傾けるエヴラール。

 その様子を後ろから女武闘家カリスタ、女賢者クラリッサも緊張しながら見守っていた。


(本当はこんな偉そうなヤツに頭なんて下げたくねえ。しかし曲がりなりとも相手はこの国の第二王子。さらにジスランを俺たちのパーティーに加入させた張本人だ。下手な真似は出来ない)


 ヴィクトルは思考する。


 エヴラールは「きっと役に立つ」と言い、ヴィクトルにジスランを押しつけた張本人なのである。


(当時はなにをバカなことをと思ったが、よくよく考えてみればエヴラールはジスランが幸運の置物であることを見抜いていたかもしれない。さすがは神童。人を見る目もあったということか)


 ならば今はエヴラールの目を信じよう。

 しばらく部屋には静寂が流れていたが、それを破ったのはエヴラールの言葉であった。



「笑えん話だ」



 と一言短く、エヴラールが吐き捨てるように言った。


「そもそも余が苦労してジスランを連れてきたのは、暗殺者組織シャドウの戦力を削ぐためだった。そして貴様らの動向を確認させるための意味も込めていた。だというのに……まさか貴様らからジスランを追放してしまうとは思っていなかった。そのせいでシャドウから押しつけられた解約条件が発動し、ジスランをみすみす余の手の内から手放すことになってしまった」

「あ、あの、殿下? 一体なにを言っているんですか? 暗殺者組織? それって一体……」

「もう貴様らは用済みだ。ナガン、ワヒュルナ、殺せ」

「はい」「承知」


 どこからともなく声が聞こえた。


 その瞬間。



「きゃーーーーーーー!」



 後ろからクラリッサの声が聞こえた。

 ヴィクトルはすぐに振り返る。


 するとそこには首から上が消失し、絶命しているカリスタの姿。

 そしてそれを見て、隣で腰を抜かしているクラリッサの姿があった。


 血飛沫がヴィクトルの顔にかかる。

 一瞬の出来事に彼は頭が追いつかない。


「な、な、なっ……!」


 胴体だけになったカリスタがゆっくりと床に倒れていく。


 その前には全身鎧を身につけた異形の化物がいた。三メートルは優に越す巨体だ。

 そして体と同じくらいの大きさを誇る大剣を右手で握っている。刀身にはべったりと返り血が付いていた。


「カ、カリスタ……お前、どうして……」


 とヴィクトルが手を伸ばそうとした時だった。


「ああああああああ!」


 再度、クラリッサから獣のような叫び声が発せられる。


 彼女は青い炎に全身を焼かれていた。

 治癒魔術を使おうとしているが、何故か発動出来ない。


 結局クラリッサもなにも出来ぬまま、カリスタと同じように事切れた。


「つまらない女ね。鳴くなら鳴くで、もっと妖艶に鳴きなさい。それじゃあベッドの上でもたかが知れているわね。ねえ、ナガン」

「…………」

「相変わらず無口な男ね。無口な男は嫌われるわよ? 主にあたしに」


 気付けばクラリッサの前にも、もう一体の異形の化物がいた。


 彼女(?)はナガンと呼ばれた化物よりかは小柄だ。なんならヴィクトルよりも一回りくらい小さい。

 しかしその小さな体に込められている魔力は、ヴィクトルから見ても膨大で異質なものであった。


「ヴィクトル、どうだ? 愚かな貴様でも分かるだろう。ワヒュルナ、ナガンの二体は余が抱える特級魔物だ。貴様らごときでは抗えることは出来ぬ」


 ヴィクトルがエヴラールに顔を向けると、変わらず退屈そうに頬杖を突いている第二王子かれの姿があった。


「で、殿下? これはどういうことだ? それに特級魔物だと? どうして特級が二体もこんなところにいやがる」


 動揺のせいで、すっかりエヴラールに対する敬語もやめてしまっているヴィクトル。


「もう貴様は知る必要がない。毒にも薬にもならんから生かしてやっただけのもの、まさかここまで愚かだとは思わなかった。さすがに笑えんから、貴様もここで死ね」

「ふ、ふざけるなあああああ!」


 逆上するヴィクトル。


 仲間二人が目の前で殺されてしまった怒りもあったかもしれない。

 彼は即座に剣を抜き、エヴラールに襲いかかった。


 しかし。



「貴様ごときが余に勝てるとでも?」



 果たして──ヴィクトルの剣はエヴラールに届くことがなかった。


 いつのまにか目の前からエヴラールの姿が消えてしまっている。

 嫌な予感がして恐る恐る後ろを振り返ると、そこには妖しげな剣を握るエヴラールの後ろ姿があった。


 そしてそれは遅れてやってきた。



 血。



 ヴィクトルの胸元から血が噴出する。

 彼にはなにが起こったか分からない。しかし斬られたことは確かなようだ。


「ち、く、しょう……」


 痛みもなかった。


 ヴィクトルも前のめりに床に倒れ、なにも出来ないまま死んだ。

 遅れて彼を中心に血溜まりが出来て、玉座の床を汚した。


「弱すぎる。これで勇者パーティーとはとんだ笑い草だ」


 エヴラールは手元から剣を消失させた。


 まるで街中を散歩するかのような気軽さで、エヴラールは()()ついででヴィクトルを殺害したのだ。


「いいの、殿下? こんなことをしたら、さすがに王宮の無能どもに気付かれるのでは?」

「いい。もう()()()()と思っているからな。いや……終わりの間違いか」

「まあ! とうとうね! あたし、人間がいっぱい死ぬのを想像しただけで身震いするわ。ねえ、ナガン?」

「…………」


 ナガンは一切言葉を返さない。

 その表情は甲冑で阻まれているため、分からなかった。


「実験的にボイヴァンをあの()()にけしかけてみたが、とんだ収穫があった。どうやら彼女の力が目覚めたらしい」


 エヴラールはマントを翻し、こう続ける。


「さあ、全人類よ。地獄に帰還するのだ」

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