15・失敗続きの勇者パーティー
【SIDE 勇者パーティー】
「一体どうなってやがんだ!」
勇者ヴィクトルは荒れに荒れていた。
ボロボロの姿である。
体の至るところから出血しており、息絶え絶えの状態。いつ倒れてもおかしくなかった。
神託を授かり、魔王を倒す使命を帯びた輝かしい勇者とは到底思えない容姿である。
「ヴィ、ヴィクトル。気にすんなよ。たまたまだ」
「そうです。きっと次こそは……」
「たまたま? 次こそは? なにを言ってやがる。これで一体何回目の失敗なんだ!」
女武闘家カリスタと女賢者クラリッサに宥められるが、ヴィクトルのイライラは止まらなかった。
今、彼らはとあるダンジョンの出口にいる。
今日も依頼を受け、このダンジョンの奥に巣を張るボスモンスターを倒しにきたのだ。
以前の彼らなら、簡単な依頼だった。
しかしヴィクトルたちはまたしても、ボスモンスターに手も足も出ずに、ここまで逃げ帰ってきたわけだ。
そしてこれは初めてのことではない。
ゴブリンウィッチを仕留め損なってから、彼らは幾度となく似たような依頼を受けてきた。
無論、それらは全て失敗。
時にはダンジョンの罠に引っかかり、そしてまたある時には大したことのない魔物にさえやられる始末。
そのせいでヴィクトルたちはフラストレーションを募らせていき、それがいつ爆発してもおかしくなかった。
「でもさすがにおかしいですね。どうして魔物が凶暴化しているんでしょうか? 今までこんなことはなかったのに……」
クラリッサは頬に手を当て、悩ましげな顔になる。
「そうだそうだ、やっぱりこれはおかしい。今日のボスモンスターだって、ちょっと前なら難なく倒してたヤツだぜ? それなのにヴィクトルの剣が擦りもしなかたって、明らかに異常だ」
カリスタにしては珍しく、クラリッサの意見に同調した。
「やはりこれは……魔王復活の兆し?」
「そうに決まっているっ! ヴィクトルもそう思うよな?」
クラリッサとカリスタはそうヴィクトルに詰め寄った。
もちろん──魔物は凶暴化なんかしていない。
パーティーからジスランが抜け、今まで倒せていた魔物に歯が立たなくなっているだけだ。
以前ならジスランがボスモンスターを弱らせたり、暗殺する等して勇者パーティーを導いていた。
それがなくなった現状では、せいぜい三等級の冒険者と同じくらいの力しか持たないヴィクトルたちでは、ダンジョンを攻略出来ないでいるのだ。
「分からない……だが、そういう報告は受けていない。魔物が凶暴化しているなら、冒険者の間でも騒ぎになっているはずだ」
「それはそうだが……」
ヴィクトルの冷静な分析に、カリスタが表情を曇らせる。
気まずい沈黙が流れた。
そしてやがて沈黙を破ったのは、クラリッサのこういう一言であった。
「……ジスランがいなくなってから、おかしくなりましたね」
彼女が何気なくぼそっと放った一言が、カリスタを激昂させた。
「て、てめえ! なに言いやがる! もしかしてお前、ジスランがいたから今までオレたちが活躍出来てたとでも言いたいのかよ?」
「そ、そんなこと言ってません! ジスランはなにもしない無能……それは間違いありません。でも彼がいなくなってから、こうも悪いことが続くと……」
「言っていいことと悪いことがあるだろうがっ! そもそもクラリッサ。お前が悪いんだろうが。お前が早く治癒魔術を使わないから……」
「はあ!? あなたこそ寝言は寝てから言ってください! あなたも今日の動きはなんでしたか? まるで子供のお遊びみたいでしたよ」
「そ、それは最近、何故だか体が重くて仕方ねえんだ! 調子が悪い日がちらほらあっても、仕方ねえだろうが!」
カリスタとクラリッサがお互いに口汚く罵り合う。
パーティー内の雰囲気は最悪だ。
(どうしてこうなった……)
二人が言い争っている様を見て、ヴィクトルは思う。
(ジスランを追放して、順風満帆だと思ったのに……こんなことになるとは……やはりクラリッサの言う通り、ジスランが──)
と言葉が出かかるが、ヴィクトルはすぐに首を横に振って、自分の考えを否定する。
(い、いや、そんなわけがない! 俺はなにバカなことを考えているんだ。あいつはなにもしない足手まといだったじゃないか。しかしあいつがいなくなってから、歯車が噛み合わなくなっているのも事実だし……)
『後悔するなよ』
最後、彼が言い残した言葉がふと頭に浮かんできた。
その時、ヴィクトルの肌に正体不明の鳥肌が立った。
(ちっ……仕方ない。本当はこんなことは言いたくなかったが、二人に聞いてみよう)
ヴィクトルは内心舌打ちし、
「ふ、二人とも。聞いてくれ」
二人にこう話を切り出した。
ヴィクトルの声に口喧嘩をやめ、彼の方を向き直すカリスタとクラリッサ。
「二人の言う通り、ジスランは役立たずだった。だが、あいつを追放してからおかしくなっているのも事実」
「な、なんだ、ヴィクトル。どうしたんだ? そんなことを言い出すなんて……」
「ヴィクトルもまさか……」
「いや、そんなことはない。あいつの無能さは今まで何度も見せつけられてきた。その考えを今更崩すつもりはない」
きっぱりと断定するヴィクトル。
だが。
「ジスランがいなくなってから今まで倒せていた魔物を倒せなくなっているのも事実。そこで俺は考えた。ジスランは幸運の置物だったんじゃないか……と」
「幸運の……置物?」
「そうだ。一流の冒険者ほど、そういう縁起物を大切にすると聞く。ジスラン自体は無能だが、もしかしたらあいつは運を呼び寄せる効果があったかもしれねえぞ」
苦しい言い分だった。
しかし上手くいかないヴィクトルたちは、なんでもいいからその理由を求めた。
それがいかに苦し紛れで愚かなものであっても、ヴィクトルたちはその理由に責任を押し付けなければならなかったのだ。
それほど、彼が限界にきていたとも言える。
そしてそれはカリスタとクラリッサも同じだったらしい。
「そ、そうだな。そうかもしれねえ。じゃないと辻褄が合わない」
「さすがヴィクトル様です。そのことに気付かれるとは……」
二人もヴィクトルに意見に賛同する。
それを聞いて、ヴィクトルはニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだろ? だから考えた。もう一度、ジスランをこのパーティーに呼び寄せよう。不本意だが、ヤツが幸運の置物である以上仕方がない」
「また、ジスランと一緒に旅をしねえといけないのか……」
「憂鬱ですね」
「なあに、ダメならまたジスランを追放すればいいだけの話だ。少し我慢してくれ」
とヴィクトルが説得すると、二人は渋々頷いた。
「だったら、さっさとヤツのところに行こう! どうせあいつのことだ。金をちらつかせれば、尻尾を振ってパーティーに再加入するに決まっている」
「その通りです。あの方は金に汚い男でしたからね。でも単純で扱いやすいとも言えます。でも彼は一体どこに……」
「それについては問題ない」
ジスランの居場所については、ヴィクトルも今は知らない。
しかし彼にはツテがあった。
「そもそもジスランがパーティーに加入したのも、あの王子に言われたからだ。王子ならジスランの居場所を知っているに違いない」
「おっ、さすがジスランだな。それはいい考えだ」
「また王城に行くんですね。あそこ、豪華絢爛って感じで好きですわ」
カリスタとクラリッサの表情もじゃっかん明るくなる。それはヴィクトルも同様であった。
今まで彼らは先の見えない暗闇の中を、手探りで進んでいる状態だった。
だが、一応の指針がもたらされ、ちっぽけな光が目の前に現れたかのような感覚になっているのだ。
「じゃあ早速向かおう。ここからだとちぃっと遠いが、馬車を使えばすぐだ」
ヴィクトルは歩き始めて、こう続けた。
「あの腹黒王子──第二王子のところにな」
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