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12・お喋りな口は嫌いだ

「ジスラン!」「ジスラン様!」


 特級魔物がとうとう微動だにしなくなったのを見届け、アリアとエミーリアが俺に駆け寄って来た。


「あなた、大丈夫なの!?」

「なにがですか? あんな雑魚、私にとったらなんら問題がございません」


 パンパンと服を払う。


 む……砂埃で燕尾服が少し汚れてしまったな。やはりこの服では動きにくい。

 アリアたちが心配するのを一方、俺はそんなことを気にしていた。


「それにアリアお嬢様に私の強さを認めてもらう必要がありましたからね。もっと速く倒すことも出来ましたが、それではお嬢様が分からないと思って……」

「もうっ! バカね。そんなことしなくても、あなたが強いってことは分かったわよ。だって──」


 とアリアが言葉を続けようとした時であった。



『屈辱! 屈辱! 屈辱だ!』



 その声の方に、俺とアリア、エミーリアが一斉に向く。


 視線の先には首がなくなり、胴体だけになった特級魔物がいた。

 そいつが地面に横たわったままで、激しく痙攣し始めたのだ。


「ほお……」


 感心して、思わず声を漏らしてしまう。


「さすがは特級ですね。首の上がなくなったくらいでは死にませんか」

『舐めるなっっっっっ!』


 そして特級魔物の胴体はゆっくりと立ち上がり、再び俺たちに殺意を向けた。


「ジ、ジスラン!? どういうこと? なんで頭がなくなってるのに、こいつはまだ生きてるのよ! それにこの声って……」

「当たり前のことですが、魔物というのは人間と違う。人間で言う脳や心臓……つまり『核』が頭になかったということでしょう。お嬢様、エミーリア。もう一度下がっていてください」


 俺は彼女たちの前に立ち、特級魔物を見据えた。


 頭がなくなったので喋ることは出来ていないが、声だけは聞こえる。頭に直接響いてくるような声だ。

 俺たちに頭に直接語りかけているのだろう。


 そして問題は……核。


 特級だけに限らず、この核を壊さなければ魔物は完全に死んだことにはならないのだ。

 だが。


「……少し核の場所が分かりにくいですね。どこにあるんですか?」

『答えるわけがないだろうが!』

「残念」


 肩をすくめる。


 特級の割にバカそうだから、うっかり答えてくれると思ったんだがな。さすがにそこまでバカではないか。


『さあ、続きを始めようぜ、人間! オレを侮辱した罪をここで償わせてやる!』


 前口上もそこそこにして、再び特級魔物が襲いかかってきたのだ。


「すみません。アリアお嬢様。あなたに強さを見せるといいましたが、ここからの戦いは少し見にくいかもしれません」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないわよ! 頭がなくなっても死なないなんて不死身じゃない! いくらジスランでも敵わないわ!」

「言ったでしょう? 問題ないと。少し行ってきますね」

「行ってくる……?」


 アリアが首を傾げたのを見届け、俺は跳躍した。特級魔物もそのまま追いかけてくる。

 そして同時に浮遊魔術を発動。


 雲の上で、あらためて特級魔物と対峙する。


『ふんっ、ここが戦場か。なかなか洒落てるじゃねえか』

「いえいえ。このまま地上で戦っていたら、被害が大きくなると思いましたね。ここでしたら気兼ねなく戦えることが出来るでしょう?」

『被害が大きく? お前はこの期に及んで、なにを言ってやがんだ』


 特級魔物が肩を大きく回す。


『どちらにせよ、オレが今からお前を殺して、この地一帯を壊してやる。そんな気遣いなんていらねえよ』

「では、やってみせなさい」


 俺がクイックイッと手招きすると、激昂した特級魔物はそのまま闇魔術を発動してきた。


 死の波動が俺に襲いくる。

 雲が避け、あまりに衝撃に空が歪んだように見えた。

 直撃すれば即死だろう。


 それを俺は……人差し指一本で止めた。


「これで終わりか?」

『無論、ただの小手調べだ』


 特級魔物は満足そうに震え、剣の形状になった両手で俺を斬り裂こうと突進してくる。

 俺は空を飛び回りながら、特級魔物の攻撃をいなし、相手の実力を見極めていた。


『ガハハ! やっぱりお前は面白い! おい、お前。名前を聞いてやる。オレはボイヴァンだ。お前を殺すオレの名をよく覚えておきな』

「死ぬのにどうやって覚えるんだか。それにお前に名乗る名など持ち合わせていない。お前が俺と対等でいるつもりは、とんだ笑い草だ」

『ん……? お前さっきから口調が違うな。ああ、そうか。そっちの方がお前本来の喋り方というわけか』


 ここは空の上。

 アリアたちもいないんだし、執事らしく振る舞う必要はないからな。

 最初は取り繕っていたが、やはりこっちの方が喋りやすい。


「そして……お前の力は分かった。さっさと終わらせよう」


 俺は空の上で静止する。

 手をかざし、魔術式を展開。


『な、なんだ!? この魔力は?』


 その異常な量の魔力を今更感知し、特級魔物がその場から逃げようとする。

 だが、もう遅い。



「シャドウプレデイション」



 その魔法名を告げる。


 特級魔物が俺から離れようとするが、その行手を阻むようにして闇の牢獄が出現。

 魔術で作られた牢獄に閉じ込められ、それ以上特級魔物は逃げられなくなった。


『な、なんだこの魔術は!? それにこの膨大な魔力は……? お前、どこにそんな魔力を閉じこめていたんだ? さっきまではこんなに多くなかったのに、どんどん増幅していきやがる!』

「俺の内にある魔力が多すぎるものでな。平常時では十分の一にまで抑えているだけだ」


 そしてその十分の一の魔力量だけを見て、特級魔物は俺のことを舐めていたわけだ。

 全く。舐めているのはどっちだという話である。


「喰らえ」


 パチンッと指を鳴らす。


 すると牢獄の中に無数の黒色の蛍火が出現。

 しかしただの蛍ではない。冥府から呼び寄せた、相手に死を運ぶ蟲である。


「ぐおおおおおおお!」


 なんとか逃れようとするが、ボイヴァンだとか名乗った特級魔物ごときで抗えるはずもない。

 蟲は特級魔物の体に纏わり付き、一気に捕食を始めた。


「そいつらはお前の体内を隈なく這い、全てを明るみにする。どこに核があろうと関係ない。体の隅々まで調べ尽くし、そして喰らえばいいだけの話だけだからな」

『オ、オレが、こんなところ……で……』


 それで特級魔物の声は途絶えた。

 冥府の蟲がご馳走(まもの)を美味しく召し上がったからだ。


「お前ごときが俺に楯突こうとは百年早い。せめてそのお喋りな口を閉じてからにしな」

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