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11・VS特級魔物

「……立ち止まってください」

「むぎゅっ!」


 俺が急に立ち止まったせいだろうか、後ろから付いてきていたアリアが変な声を上げた。


「きゅ、急に止まらないでよ! あなたの背中にぶつかったじゃない!」

「…………」

「……? ジスラン?」


 俺のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、アリアが不思議そうな声を出す。


 ……やはり俺の予想通りだったか。


「二人とも、私の前には決して出ないでください」

「一体なに──っ!」


 ピカッ!


 辺りを覆い尽くさんばかりの、()()の輝き。

 膨大な魔力によって風が発生。


 踏ん張っても吹き飛ばされてしまいそうな暴風だったが、俺は即座に結界魔術を張って、二人を守った。


 そして風がやんだ頃には……。



「ガハハ! 久しぶりの現世だぜ!」



 先ほどの黒色の輝きの爆心地。

 その中央に一体の魔物がいた。


「やはり特級魔物でしたか」

「と、特級!?」


 特級魔物という意味を理解しているエミーリアが、そう驚愕する。


「特級……」


 一方、アリアはすぐに理解が追いつかない。


「お嬢様。上から二番目のランクの魔物ですよ。一体で大都市を崩壊させるとまで言われている」

「えっ、それって!?」


 ようやくアリアは驚き、その場で身構えた。


 対して特級魔物は余裕綽綽よゆうしゃくしゃくである。


「いきなり人間しょくりょうと会うだなんて、オレも運がいいぜ。しかもそっちの男は魔力を保持してやがんな? オレからしたら大したことのない量だが……丁度良い。目覚めの食事といこうじゃねえか」


 と特級魔物は拳をポキポキと鳴らしながら、俺たちに一歩ずつ近寄る。


 人と同じ形をしている魔物。

 しかし体格は俺より一回り大きく、背中に翼を生やしている。さらに顔には鼻も口がなく、大きな目が一つだけ陣取っていた。

 人型とはいえ、その異形からこいつが人間だと見間違えることはないだろう。


 そしてなにより。


「人語を操りますか。なかなか流暢に喋るじゃないですか。エミーリアさんよりペラペラなくらいです」

「エミ、ディスられている……ですか?」


 エミーリアが自分を指差す。


 まあ彼女よりペラペラうんぬんはただの軽口だが……普通、魔物というのは人間と同じ言葉を喋ったりしない。


 しかし特級以上の魔物になると別だ。

 高度な知能を持ち人語を理解するのはもちろん、彼らは時に酷く狡猾である。

 ゆえに人語を操ることの意味をよく分かっている。

 大臣として王宮に紛れ込み、内部から国を崩壊させた特級魔物ってのも昔いたことがあったな。

 それくらいのこと、特級魔物にとって朝飯前だ。


「……ジスラン様。先ほどと同じことを言います、です。今すぐ、お嬢様を連れて、街まで戻ってください、です」


 エミーリアが短剣を取り出し、特級魔物を見据える。


「あなたで特級魔物に勝てるとでも?」

「……いえ、()()()勝てない、でしょう。ですが、今は少しでも希望を繋ぐべき、なのです。お嬢様だけは死んでも守らねば、です。エミが時間を稼ぎます、です」


 そう敵意を特級魔物に飛ばすが、エミーリアの両足は恐怖で震えていた。


 エミーリアも強者だ。

 この目の前の特級魔物がどれほど強いのか理解しているのだろう。


 ()()、特級魔物を倒すとなったら騎士団をぶつける必要がある……いや、それでも多大な被害が出るだけで、傷一つ付けられないだろう。

 特級魔物とはそういう次元にいる魔物なのだ。


「がはは、なかなか面白いことを言ってくれるじゃねえか」


 大口を開けて笑う特級魔物。

 すぐに襲いかかってこないのは、いつでも俺たちを殺せると余裕ぶっこいているからか。


「しかしここでお前ら一人、逃すつもりはねえ。オレは魔力がある人間を食うのは好きだが、美人を食うのはもっと好きだ。絶望で歪んだ人間の顔が大好物だ。なにも出来ないまま、オレの体で眠りな」

「ははは、なかなか怖いことを言ってくれますね」


 あまりにもこいつの口数が多いものだから、つい笑ってしまった。


「ジ、ジスラン! なに言ってんのよ。そんなこと言っても、あいつを怒らせるだけ……」

「人間の真似をした動物が頑張って喋っているのを見たら、微笑ましくなるのは仕方ないでしょう?」

「……お前、なにが言いたい?」


 怒りを滾らせる特級魔物。

 その眼球が不気味に俺を向いた。


「いや、なに。こういう言葉を知っていますか? 強い言葉というのは自分に返ってくる。弱い者ほどそのことを知らず、口数が多くなるというものです」

「ああ、ムカついた。ちょっとは遊んでやろうと思ったが、こうなったら我慢出来ねえ」


 特級魔物の両手が剣状に変化する。

 どんな名剣にも勝る切れ味が、それには秘められているだろう。


「まずはお前から殺してやる」

「ふうん、そうですか。でもいいんですか? 首の上が()()のに、どうやってそのご立派な剣を振るうつもりですか?」

「お前はさっきからなにを……っ!?」



 しかし特級魔物の言葉はそれ以上続かなかった。



「おっ?」


 ズサッ。

 切断された特級魔物の首の上が、ポトリと地面に落ちたからだ。


「あなたは自分が切られたことも分からないのですか?」

「お前、なにをした……!?」

「簡単なことですよ。私がしたことは、あなたの首を切断しただけのことです。速すぎて分かりませんでしたか?」

「そんな、バカ、な……そこらへんの、弱い魔物だったらともかく、オレは特級……」

「はいはい。だから喋れば喋るほど、弱く見えますって」


 首を切られても喋り続ける特級魔物が不快だったので、俺は彼の頭を踏んづけた。


「特級魔物というのも大したことがないですね。これではすぐに暗殺とかされちゃいますよ?」

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