1・暗殺者、追放される
「お前をこのパーティーから追放する!」
宿屋の一室。
朝っぱらから呼び出されて、なにごとかと思っていたら……俺は勇者ヴィクトルに追放を言い渡されていた。
「……理由を聞かせてくれるか?」
「理由だと? ふんっ、そんなことも分かっていないのか。それはお前がなにもしない、役立たずだからに決まっている!」
吐き捨てる勇者。
彼のそんな愚かな発言に、俺は頭が痛くなってきた。
「それは誤解だ。俺は……」
弁解しようとすると、
「お前はまた言い訳をするつもりか? 勇者様の手をこれ以上煩わせるんじゃねえ!」
勇者に代わって、今度は女武闘家カリスタが口を挟んできた。
彼女は同じパーティーの一員だ。
「お前はいつもいつもそうだな。私たちが戦っている間も、後ろでぼけーっと眺めているだけ。ダンジョン攻略の時も、ちょっと目を離したらすぐに迷子になっちまう。お前がそんなんだから、ダンジョン攻略も捗らねえ。言い訳の仕様がないと思うが?」
今までの鬱憤を吐き出すように、女武闘家が捲し立てるように言った。
さて……状況を整理しよう。
俺はとある任務のため、この勇者パーティーに加わった。
勇者パーティーとは神託を授かった勇者ヴィクトルをリーダーとして、構成されるパーティーである。
俺はそんな勇者パーティーの裏で暗躍し、彼らがスムーズに旅を続けられるよう支援していた。
後ろでなにもしていないように見えたのは、俺が支援魔術を使い、時には彼らの目では捉えきれない速度で攻撃を繰り出していたからだ。
迷子になるっていうのも誤解で、旅の先に強力な魔物がいれば、彼らに気付かれないよう殺していたから。
無論、俺がしたことはそれだけではない。
街での情報収集。悪どい商人との金銭交渉。勇者パーティーに盾つく人間の処理……。
ありとあらゆる手段を使い、勇者パーティーを導いていたのだ。
どうして彼らに分からないように、俺が暗躍する必要があったのか?
それは俺がとある組織に所属している、『暗殺者』だからだ。
俺たち、暗殺者は表舞台に決して顔を出せない。
誰にも気付かれないよう、裏で動き任務を遂行する必要があるからだ。
なので勇者たちには、この真実を伝えていない。
いや……正確には伝えることが出来ないのだ。
あくまで勇者の手柄にしなければならない。
それが今回の契約内容だったからだ。
「クラリッサはどう思っているんだ?」
次に俺は女賢者クラリッサに声をかけた。
彼女は目を閉じて、じっと俺たちに話に耳を傾けている。
やがて女賢者が目を開けると……瞳には哀れみの感情が滲んでいた。
「……わたくしは最後まで、あなたを擁護していました。彼も一生懸命頑張っているのだから、もう少し我慢出来ないか? ……と。しかしあなたはわたくしの慈悲を、ことごとく裏切ってくれましたね。もう限界です」
聖人と名高い彼女。
その美貌から『女神の再臨』とも呼ばれ、民からの人気も高い女賢者だ。
そんな彼女も、結局こいつらと同類だったわけだ。
こいつなら、なんとなくそんなことを言い出しそうだったので、俺は不思議に思わなかった。
「これで分かったか? お前の追放はみんなの総意なんだ。さっさと出ていけ」
虫を払い除けるように、手をしっしっと動かす勇者。
「そうだそうだ。お前が目障りすぎて、勇者様とも落ち着いて喋ることが出来なかった」
「そうです。彼は世界を救う勇者様。わたくしたちのパーティーにあなたがいたこと自体が、そもそもの間違いだったのです」
そう言って、女武闘家と女賢者は彼の体に寄り添った。
かなり体を密着させているが、自然な動作だった。
勇者も慣れた様子である。
「なるほどな……そういうことか」
こいつらがこういう関係にあることは、薄々感づいていた。
彼女らは勇者と楽しく旅をしたかったのだろう。
ゆえに俺という存在は邪魔で、すぐにでも追い出したかったに違いない。
「分かった。お前がそう言うなら、仕方ない。今日でこのパーティーから出ていってやる」
と俺が言うと、女二人の表情がじゃっかん明るくなった。
「しかし……契約を守れよ。俺がそっちの都合で追放になった場合、一筆書いてもらうはずだった。それを貰おうか」
「ちっ……また面倒臭いことを言い出す。まあ散々言われたからな。名前を書くだけで、お前を追い出せるとならいくらでも書いてやるよ」
勇者は忌々しげに顔を歪ませて、俺の方に紙を投げ捨てた。
ヒラヒラと宙を舞う一枚の紙切れ。
俺はそれが地面に落ちる前に掴んだ。
『追放通知書
ジスランを不要とみなしたため、このパーティーから追放する。なおこの追放処分はジスランから言い出したものではなく、勇者サイドからのものである。……ヴィクトル』
ジスランというのは俺の名前だ。
一見、大したことのない紙切れ。
しかし俺にとっては大きな理由を持つ。
重要なのはこいつらの都合で、俺が一方的にパーティーから追放されたという事実。
この証拠があれば、俺は元の組織に戻ることが出来る。
「よし。これで解約完了だな」
「解約?」
「いや、気にするな。こっちの話だ」
俺は紙切れを胸元にしまい、彼らに背を向けて歩き出した。
そして最後に。
「一応忠告してやるが……後悔するんじゃないぞ?」
「はっ! 後悔だと? 最後の捨て台詞としては陳腐すぎて、笑いも出てこねえな」
勇者の俺をバカにするような声。
まあすぐに気が付くだろう。
いかにお前らが無能で、俺がいなければなにも出来ないポンコツだということがな。
──こうして俺は勇者パーティーを追放されることになった。
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