プロローグ
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彼らは、人生を楽しみたいだけだった。
その方法なんて、どうでもよかった。
この灰色の世界に、彩りを与えてくれるのであればー。
桜の満開から三週間経ち、赤見内学園中学高等学校の周りに咲いている桜も次々と散っていった。その様子は、3階にある中学1年6組の教室から見えるものだった。六時限目終了のチャイムが鳴ると、窓側の一番後ろという絶好の席に座っている吉田昊は、毎日その様子を窓から眺めている。誰も話す人がいないからだ。ぼっちなわけではない。周りに女子しかいないだけだ。というのも、入学当初は出席番号順で席が決まっていたため男子に囲まれていたが、つい先週席替えがあり、見事女子に囲まれたのだ。もちろん女子は女子同士で盛り上がってしまい、もっさりメガネで将棋と数学が趣味の昊が入る隙はなかった。でも、そんなことは気にしていない。自分が置かれた状況を冷静に分析し、桜を見ることによって自分の席をそれなりに楽しめる方法を生み出した…、というわけではない。ただ単に、興味がないだけである。女子よりも、桜吹雪の方が興味深かった。だからモテないのだ。
「はーい、席に着いてー。携帯しまって、机の中を空っぽにして、床に落ちてるゴミを拾って。ワールドカップの日本人サポーターみたいになりたいだろ?あ、こらこら、まだカバンを背負うんじゃないよ。あと、今日遅れた人がいたよねえ、ねえ安樂?残って掃除だぞー。あと…」いつものように桜を眺めていると、担任の美志江戸正義がどしどしと入ってきた。身長2m、体重160kgの巨体だ。美志江戸が走るとドスドスという足音が下の階にまで響くし、叫ぶと100m以上ある廊下の端から端まで丸聞こえだ。こうして、いつも通りの終礼が始まった。
「くそー、あとちょっとでハイスコアだったのに…。美志江戸が喋り出すから…。氏ねよ。」同じく中学1年6組の筒香悠真がスマホをポケットにしまいながら暴言を吐いた。彼は入学当初、クラスで1番可愛い仁保柚月の隣の席だったことをいいことに、カッコよく見られようと青酸カリを持っているだとかゴキブリが好きだとか(ゴキブリと呼ばれることもあり、気に入っている)サバゲーにハマっているだとか、次々と厨二病っぽいことを言っていた。しかし、本人は引かれていることに気付いていないため、今でもそのキャラを保ち続けている。だからモテないのだ。
「あー、うるさいなー。ゲームくらい終礼終わってからやればいいじゃん。」悠真の隣に座っている八百坂純希が、大きな瞳を悠真に向けながら文句を言った。
「黙れ、文句言うな。きのこのくせに。」悠真が返した。いつものことで慣れているが、相変わらず口が悪い。しかし、「きのこ」という指摘は何回言われても純希の気に障るものだった。純希はきのこ頭なのだ。前髪も失敗してちびまる子ちゃんみたいになっているため、さらにきのこと呼ばれるようになった。それに加え、クラスにはあと2人のきのこ頭、合わせて3人のきのこ頭がいるのだが、その中でも一番価値が低いということで、単に「きのこ」ではなく「えのき」という新しいニックネームも一部では広まっている。
「あーいじめだー。」これは彼の口癖だ。純希がいじられキャラになってしまった背景には、きのこ頭に加えてこの口癖があった。本気で思っているわけではない。単に出ちゃうだけだ。この口癖が、えのきに降格した一番の理由だと考えられる。
もう一つ言えることは、女子力が高いということだ。いつもハンカチを持ち歩いており、髪も結べるほどの毛量はある。筆箱も女子が使うような可愛い熊のスタンドペンケースを使っており、中に入っている色ペンの種類は10。字も大きくて丸っこいし、目も大きくて丸っこい。どこからどう見ても女子なのだ。それもあって、きのことえのきに加えたあだ名は純子ちゃんだ。むしろ、これが一番使われているあだ名だ。いじりがいがあるということで男子からの人気は獲得しているが、見て分かる通り無意識にウザいことが多い。だからモテないのだ。
あだ名といえば、言い忘れていたことがある。昊はたまに原始人と呼ばれることがある。最初の世界史の授業で原始人の絵を描かせられた際に、クラスの女子が描いた原始人の絵が原始人にも昊にも似ていたからだ。実際、世の中の知識がなさ過ぎて原始人と言われても仕方がないこともある。というのも、どこか抜けているところがある。だからモテないのだ。
「あー、こいつのDABくっそおもしれー。こいつラップうめえな…。あ、やべ、美志ちゃんに睨まれてる。」こいつが、いつもイヤホンを持ち歩いてラップを聞いたり変なダンスを踊ったりしているクラスの問題児・嘉弥真圭吾だ。帰国子女ということもあって、オランウータンみたいな顔をしたアメリカ人だとみんなに思われている。明るさと元気だけはある。でも、かまちょな上にうるさく、身長も低い。だからモテないのだ。
この4人には、共通点がある。モテないのと、今日、男子バスケットボール部に入部するということだ。
彼らは人生に退屈していた。中学受験を見事突破して全国でもトップレベルとされる進学校の赤見内学園に入学し、楽しい中学生活を期待していた。屋上でご飯を食べ、友達と放課後ゲームセンターに行き、可愛い彼女を作り、青春する。しかし、現実は違った。屋上は解放されていないし、放課後は寄り道禁止だし、彼女どころかまともな女子と喋れないし、青春の「せ」の字もない。毎朝ぎゅうぎゅうの満員電車に乗り、全力疾走し、チャイムと同時に教室に入る。学校では女子にパンチされ、ネクタイを奪われ、クソうるさい甲高い笑い声に耳を塞ぎ、どうでもいい授業を聞き、昼食を陽キャ男子の横でひっそりと集まって食べ、放課後に食堂で4人で集まってそれぞれ違うゲームをする。昨日も今日も明日も、やっていることが何一つ変わらなかった。そんな毎日がつまらなかった。終わりのない渦のようで、時間だけが進んでいった。
ある日、いつものように放課後4人で食堂に集まっていると、悠真が変なことを言い出した。
「バスケやろっさ!」
は?と言いたそうな顔をする3人に、悠真は丁寧に説明をした。担任の美志江戸が日に日に安西先生に見えてきた、ということを。それに納得した3人は、バスケを始めることを決意した。
「やろう!」
「うんうん!」
食堂で盛り上がる4人の横を、ちょうど食パンの塊が入った袋を持った美志江戸が通った。4人はスマホを机に置き、揃って先生を拝んだ。
「お、おう。」戸惑いながら、美志江戸は近くの席に腰を下ろしてパンを頬張った。
これが、彼らの青春の始まりだった。
後書きでは、小ネタについて解説しようと思います。
ワールドカップの日本人サポーターについて:2018年のワールドカップで、日本人サポーターがゴミ拾いをして世界中で褒められた。
DABについて:アメリカで流行っているポーズ。
安西先生について:漫画「SLAM DUNK」の登場人物。一番有名なのが「諦めたらそこで試合終了ですよ…?」というセリフ。丸メガネでポッチャリしている。