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みーくんの本当の気持ちを聞かせて?

 俺達四人は昼飯も兼ねてカラオケに寄った。

 何だかデートをしていた筈が、いつの間にかただ皆でワイワイ遊ぶだけになっている。

 これでは告白どころではない。

 やっぱり愛美に相談したのは諸刃の剣だったか。

 恋愛経験が皆無なせいで愛美のアドバイスはどこかズレている。

 現在も、好きな相手に気持ちを伝える時の定番曲を歌っているようだが、悲しい事に音痴なせいで全然雰囲気が出せていない。


 歌詞は告白ソングにありがちな感じで「自分の気持ちを正直に言おう」とか「君に傍に居て欲しい」などと謳っている。

 俺の場合、余計な二人まで傍に居るのだが、これも正直に言った方が良いだろうか。

 ただサヤが楽しそうにしているのに、強引に追い返すのも角が立つ。

 それに昼になって人が増えてきた今、四人でいる方が、万が一サヤの正体がバレても、デートではなく単純に友達と遊んでいるだけだと思われて都合が良いかもしれない。




 カラオケの次はゲームセンターで遊ぶ事になった。

 レースゲームやシューティングゲームを皆でプレイしたりして、サヤも大いに楽しんでいる。


「ねえねえみーくん、次はアレやろっ」


 そう言ってサヤに手を引かれてやって来たのはクレーンゲームだった。


「みーくん昔から得意だったよね? また腕前見せて欲しいな」

「んーいいぜー。何か取って欲しい物はあるか?」


 サヤが「んっとね……これ!」と言ってクマのぬいぐるみを指差す。


「よし任せろ」


 真剣な表情で、俺は小銭を入れてアームを操作する。


「そう言えば水輝ってクレーンゲームだけは上手かったわよね」

「彼女に良い所を見せるチャンスだぞ。失敗するなよ」

「オイそこ、集中出来ないから静かにしろ」


 奇妙な緊張感が漂う中、慎重に狙いを定めてアームでぬいぐるみを掴む。

 途端に「おー」という歓声が湧く。


「ほらサヤ。これが欲しかったんだろ」

「わあ、ありがとうみーくん!」


 サヤは心底嬉しそうに、受け取ったクマのぬいぐるみを抱き締めた。

 子供の頃にもこうやって手に入れた景品をプレゼントしていた事がある。

 サヤの笑顔を見ると当時を思い出して、何だか照れくさくなった。


「えへへ。お礼に何かしてあげたいなー。そうだ、キスしてあげよっか?」

「い、いいって、こんな人前で!」


 やんわりと拒否しながら、俺は愛美達の方を見た。


「私達に構わずにして貰えばいいじゃない」

「むしろこっちは大歓迎だぞ」

「お前ら人の気も知らないで!」


 誰のせいで出来ないと思っているんだ。

 今日、告白が失敗に終わったらコイツらのせいにしてやる。


「じゃあ今度は私がみーくんにプレゼントしてあげるー」


 サヤはそう意気込んで、クレーンゲームの隣にあるプライズゲームに俺達を連れて行く。

 いわゆるスイート○ンドと呼ばれるゲームだ。

 恐らく誰もが一度は遊んだ経験があるのではないだろうか。

 ショベルを操作してお菓子をすくい上げ、景品獲得口に落とすゲームである。

 サヤはこのゲームが大の得意で、早速、一回目の操作で三つもお菓子を取って見せる。


「おお凄い!」


 珍しく博之が素直に賛辞の言葉を送る。


「はいみーくん。これがクマさんのお礼だよっ」

「ん、いいのか。サンキュー」


 嬉々とした表情でサヤが差し出したお菓子を、俺は有り難く受け取る。


「でも三個だけじゃあちょっと釣り合わないよね……。あと百個くらい取ってあげる!」

「いやさすがにそこまでしてくれる必要は無いと思うんだが……」


 いくらサヤでもそんなに取っていては日が暮れてしまう。


「それに百個もプレゼントされたら、今度は俺の方がお返ししなきゃいけなくなるだろ」

「んじゃあこうしたらどう?」


 その時、突然それまで黙っていた愛美がこんな提案をした。


「もしサヤちゃんが百個取れたら、水輝はお礼として一つだけサヤちゃんの命令を何でも聞かなきゃいけないってのは」

「はあお前ふざけん……」


 と、そこまで言いかけて、俺は愛美の真意に気がついた。


「ほら、例えば……水輝がサヤちゃんの事をどう思っているのか質問したり――」

「え?」

「どう思っているか……」


 サヤが小声で愛美の台詞を復唱する。

 やはり愛美はここで俺に告白させるつもりだ。

 こんな人気の多い場所ではリスクが高いのではないか、と俺が言おうとしたら、目の色を変えたサヤが先に口を開いた。


「わかった、やる!」


 予想通りと言うか何と言うか、サヤはやっぱり俺の気持ちを聞きたくてしょうがなかったようだ。

 あれだけ俺の事を好きだと言っているのに、俺の方からは何も言わないのだから、不安になるのは当然だろう。

 今の俺には、彼女を止める資格など無い。


「水輝も良いよね?」


 愛美の問いかけに対しても「ああ」と答えるだけだった。

 サヤの執念は本当に凄まじかった。

 一回の操作で必ず一個はお菓子をゲットして、わずか数十分程で、目標の半分の五十個を超えた。

 よく考えたらお菓子はキャンディ一個でも数にカウントされるので、思った程難しくないのかもしれない。

 ゲームを始めて一時間くらい経った頃、ついに九十個を上回り、サヤの持っているトートバッグはお菓子でパンパンに膨れ上がっていた。

 ところがこのタイミングで、本日のサヤの持ち金も尽き始めた。


「あと一回……」


 最後の百円玉を握り締め、サヤが重々しく呟く。

 この一回で四つ以上取らなければ失敗である。

 緊張感がこちらにまで伝わってきて、俺や愛美、普段はいい加減な博之までもが固唾を飲んで見守る。

 サヤは瞬き一つせずショベルを操作し、お菓子をすくい上げる。まるで精密機械のような正確だった。

 ショベルは見事に四つのお菓子をすくい上げ、獲得口に持って行く。


「よし!」


 サヤの顔に歓喜の光が灯る。

 ――その直後、予期せぬ事態が起こった。

 獲得口に落とす瞬間、お菓子の箱についている紐がショベルに引っかかってしまい、一つだけ落ちなかったのだ。


「ああっ!?」


 悲痛な悲鳴をあげるサヤ。

 落胆する彼女に、慰めの言葉を言える者はおらず、気まずい沈黙が流れる。

 これで大勢の人の前で告白する事は無くなった、などと到底喜べない状況だ。


「ううぅ……みーくん……」


 泣き顔のサヤがこちらを見つめた瞬間、俺は何かに突き動かされたように覚悟を決めた。


「いや、良く見ろよサヤ。ちゃんと四つ入ってるぞ」

「え?」


 俺は獲得口から四つのお菓子を取り出してサヤに見せた。

 正確には最初にサヤから貰った三つのうちの一つを、こっそり加えて四つにしたのだが。


「ほら、これで勝負はサヤの勝ちだな」

「でも……」


 怪訝そうな顔をするサヤ。

 そりゃそうだ。我ながらバレバレなやり方だったと思う。

 横で見ている愛美と博之も、俺の演技を見抜いているようだ。

 だがそんな事はこの際どうでもいい。


「俺の気持ちが聞きたかったんだろう?」

「う、うん……でもみーくん……」

「だったら聞いてくれないか。俺もずっとサヤに言いたかった事があるんだ」


 サヤのあんな顔を見せられては、もうこれ以上先送りにはしておく事は出来なかった。


「……わかった。みーくんの本当の気持ちを聞かせて?」


 空気を読んでくれたのか、サヤがそう言うや愛美は「さ、行くわよ」と言って博之を強引に引っ張って離れて行った。

 博之が「おいちょっと待ってくれ」と抗議するのにも耳を貸さず、遠ざかる愛美。

 ここまでお膳立てしてくれたなら、対価は高くつきそうだな。

 俺は深呼吸して心を落ち着けると、一言一句ハッキリと聞き取れるようにこう言った。


「もう誰が何と言おうと関係無い。俺も子供の頃からずっとサヤの事が大好きだった。今はまだ自信が無いけど、いつかきっと幸せにするから、ずっと一緒に居て欲しい!」


 ――数秒間の沈黙。

 サヤは俺の言葉を嚙み締めるように無言で何度も頷き、やがて涙を堪えながら小さく頷いた。


「……うん。私も、いつかみーくんのお嫁さんになりたい」


 俺達はどちらがともなくお互いの手を握り合った。




 ついに言った。

 チキン野郎な俺にしてはまあまあ頑張った方だと思う。

 終わってみればサヤのリアクションが意外にあっさりしていたのが、拍子抜けな感じがした。

 ……と思ったのも束の間、サヤは家の外では極めて慎重な性格なのを忘れている事に気がついた。


「これでようやく正式に恋人同士になれたんだから、家に帰ったら今まで我慢してた分、思い切りキスするんだからねっ!」


 それを聞いて慄然とした俺は、やはりまだまだチキン野郎なのだと悟った。

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