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二人はどこまでヤッたの?

 日曜日にデートする約束をしたはいいものの、正直女子と二人だけで遊びに行くのは初めてで、俺はどうすれば良いか全くわからなかった。

 誰だって最初の内はそうだと言われたら反論出来ないのだけれど、なるべく失敗しないようにしたかった。

 というかまだ正式な恋人になっていないのにデートするのも、何だか違和感がある。


 約束した日「サヤより大事なものなんて無い」とまで言ったにもかかわらずだ。

 今考えると、あの時に告白すれば良かったのかもしれない。

 サヤを慰めようと一心不乱で、そこまで頭が回らなかったのだ。

 まあ過ぎてしまった事は置いといて、目下の問題は日曜日にどうするかという事だ。


『――んで? 私に相談しようと思ったワケ?』

「まあ有り体に言うとそーゆー事になるな」


 スマホのスピーカーから愛美の呆れた声が聞こえてくる。


『正直に認めるその潔さはあっぱれと褒めてやりたいけど、自分で何とかせずに他力にどうにかして貰おうとするのは……お主それでも武士の端くれか?』

「ウチのご先祖様はお坊さんですんで」

『第一この私が他人にアドバイス出来る程、経験豊富に見える?』

「いや、でも他にこんな相談が出来る相手は居なかったんだよ」


 俺の知る限りでは、愛美が異性と付き合ったのを見た事はない。

 それに愛美以外にも女子の知り合いが居ない訳でもない。

 だがこう言った話題になると普通の女子達は「誰と付き合っているのか?」などと興味津々に詮索してくるだろう。

 それを考えるとやはり事情を知っている人の方が、相談しやすいと思ったのだ。

 博之には何一つ期待出来ないし、そうなると愛美しか居ないのである。


『まあサヤちゃんの為でもあるし協力してやらなくもないけど、でも報酬はきっちり払って貰うからね?』

「ああ、電話をかける前からその覚悟はしてたよ」


 愛美は対価を渡さないと、無償で何かをしてくれる事は絶対に無いので、そう言われるのはちゃんと予想していた。

 これもデートの必要経費だと思えば惜しくはない。


『じゃあまず単刀直入に訊くけど、二人はどこまでヤッたの?』

「単刀直入過ぎないか!?」

『だって現在の状況がわからないのにアドバイスのしようが無いでしょ。キスはしたのか、手しか繋いでないのか、とか。まあ初デートの相談するくらいだから、そんなに関係は発展してないとは思うけどね』

「……相変わらず勘が鋭いな。おかげで説明する手間が省けるよ」


 症状がわからないのなら、医者も処方箋を出せないか。

 やむを得ず俺は、愛美にこれまでサヤとの間に起こった出来事を、話しても構わない範囲で説明した。


『フーム、だいたいの話はわかったけど……水輝、アンタまだサヤちゃんに好きって言ってなかったの?』

「ええはい、まあ……」


 俺は恐る恐る答えた。


『チキン野郎』

「何とでも言ってくれ。今の俺は批判されても仕方のない男だからな。どんな罵倒も甘んじて受け入れる」

『アホ、バカ、ボケ、ゲス、クズ、カス、トンマ、タワケ、サノバ○ッチ、イホデ○ータ』

「ちょっと待て。さすがにそこまで言われる筋合いは無い」


 しかも最後の二つは日本語じゃないし。


『冗談よ。どんな罵倒も――って言うから、どこまで耐えられるかなー? って思って言ってみただけ』

「ホントいい性格してるよなお前」


 この辺は博之と良い勝負である。


『とにかくそうとわかれば、水輝がまずデートでしなきゃいけないのは、サヤちゃんにしっかりと自分の気持ちを伝える事ね』

「やっぱそうなりますか?」

『さよう。もし出来なかったら今度は本当にさっきの罵倒でも文句言えなくなるくらい堕ちる事になるでござるよ』


 それは自分でもわかっていた。

 思い返せば俺はサヤからのアプローチに戸惑うだけで、一度も自分の気持ちを口に出して伝えた事は無かった。

 一般的なカップルは、相手が「好き」だと言ってくれないと不安になると言われるが、サヤも少なからずそうなのだろう。

 これ以上サヤを不安にさせない為にも、そろそろ覚悟を決めねばな。


「でもどうすれば……」

『案ずるな。全て我に任せよ』


 それから愛美は、告白する時の段取りを色々と教えてくれた。

 対価を渡しさえすれば愛美は非常に頼りになる。

 友達としてどうかと思う事もあるが、変なしがらみが無い分、このような冷めた関係も悪くはない。

 ――と、少なくともこの時点ではそう思っていた……。




 事件は俺がある日、リビングのソファーで昼寝している時に起こった。

 ふと何かの気配を感じ取って目を覚ますと、風呂場の方で何やら物音が聞こえてくる。

 恐らく寝ている間に、サヤが仕事から帰って来てシャワーを浴びているのだろう。

 まだ夕食には時間があるので、俺はもうひと眠りしようかと目を閉じかけた次の瞬間――


「ふーう、サッパリしたぁ!」


 ――ッ!?

 間の悪い事にサヤが風呂場から出てきた。

 しかも身体にバスタオルを巻いただけの、あられもない姿で。

 俺は咄嗟に目を閉じて寝たふりをした。


「あ、良かった。みーくんまだ寝てるっ。着替え忘れたからどうしようかと思ったけど、大丈夫みたいだね」


 なるほど、いくらサヤでも、こんな大胆な行動をするのはおかしいと思ったら、そういう事だったのか。

 しかしそれなら一刻も早く自室に戻って欲しい。

 この状況で寝たふりをするのは、色々と妄想してしまいそうで辛いのだ。

 心なしかこちらに近づいてくるような気配を感じる。

 ま、まずい……このままでは……。


「そうだ。みーくんは寝てるんだし、このバスタオルも取っちゃっていいよね」

「わーやめろ! それだけは取るんじゃない!」


 あまりにも突然の出来事に、寝たふりがバレるのも構わず飛び起きて叫んでいた。

 もちろん目は閉じたまま。

 サヤはしかし驚くと思いきや――


「あっ、おはよーみーくん」

「……はい、おはよう」


 意外にも極めて冷静に言われて、我知らず素で返事してしまった。


「ずいぶん気持ち良さそうに眠ってたねぇ。実は今日、番組のロケで学校の近くに行ったんだよー」

「と、とにかく先に服を着て来いよ」

「はーい」


 スタスタと足音が遠ざかっていく。

 もしやサヤは俺が起きている事に気づいていた? ……いやまさかな。

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