ざっかや<れいにあ> 3
「それで私の家はそのよほどの酔狂なんですよ。まぁ、色々あって許可を貰えたんです。」
「多分、その色々は突っ込まない方がいい感じよね。」
「できればそうしていただけると有り難いです。」
どうしても知りたいなら話しても良いけど、なるべく話したくはない。
「ま、人は誰しも知られたくない話の一つや二つは有るものだよね。特にボクらは初対面だし。」
「そうよね。私にもあるわ。誰にも言ったことのない秘密。」
うふふとジェシーさんが笑うとそこはかとない色気がある。正直羨ましい。
「ありがとうございます。あ、そうでした。私、<フィー・ルマの石細工>を買いに来たんです。ジェシーさんのお勧めのものは有りますか?」
その土地に行ったらその土地の人にお勧めされるものを見るようにしている。
「そうね……これなんてどうかしら。琥珀の交易品にならない屑石を使っているわ。屑石って言っても傷がついただけだから他のところを使えばこんなに綺麗なのを作れるのよ。」
「素敵ですね。こういうものなら何個かあってもいいかもしれません。」
あまり装飾品は集めていなかったけど、こんなに美しい物なら話は別だ。私だって一人の乙女として美麗な物に興味が無いわけではないのだ。
「でしょう?これは、アンさんの瞳の色にぴったりだと思って。今なら飾り紐もついて大青鉄貨8枚よ。」
「うーん…………大青鉄貨5枚になりませんか?」
商会が高値で取引するような細工品が飾り紐もついてその値段なら安いのではないかとも思う。思うが……なるべく節約したい。
「流石に5枚は厳しいわよ。7枚なら考えさせて貰うわ。」
「そうですよね……6枚でどうですか?今回の旅は低予算なんです。あまりひとつの町にお金をかけられなくて……。」
「しょうがないわね……大青鉄貨6枚と小青鉄貨5枚で良いわよ。」
これ以上値切るのは大変そうだ。
「わかりました。それでお願いします。」
「わーお。アンさん、凄いね。ボクそんなに値切れないよ。」
「本当に今回低予算なんですよ。いつもの金額にひとつの街分しか足してないのにいつもより長い距離旅しようとしてるので。」
「必要だから覚えた処世術ってことだね。」
「そうともいいますね。ニーナさんも旅を続けていればそのうち出来るようになりますよ。」
私もはじめから出来たわけではない。何度も旅を繰り返して覚えた技なのだ。
「続けられれば、ね。」
「はい?」
「あ、いや、なんでもないよ。」
ニーナさんがぼそりと呟いた言葉は聞き取れなかったから聞き直したけど、教えて貰えなかった。まあ、旅人同士で余計な詮索をしないのは暗黙の了解というやつだ。
「そうだ!ボクも<フィー・ルマの石細工>買おうかな……。ジェシーさんにボクもお勧めして欲しいなぁ……。」
「そうねぇ…………裏もみてくるわね。裏に旦那の工房があるのよ。ちょっと待っててね。」
「はーい!」
ジェシーさんは奥に入っていった。
それにしてもニーナさんも何か訳ありなのかもしれない。巻き込まれないようにしないと…………。