ざっかや<れいにあ> 2
一応活動報告でお知らせしたのですが、しばらくお休みしてすいませんでした。学校の部活関係でお休みを頂いておりました。
来週からは、午前11時の投稿に戻します。
これからも星降と、「シューガル旅行記」を宜しくお願いします。
カランコロンと扉の鈴が鳴った。
「こんにちはー。先程お話を伺って参りました。」
「あ、アンさん。どうぞ、入って入って。」
「お邪魔します。」
先程、門のところで会った女性が店に立っていた。
「いらっしゃいませ、ようこそ雑貨屋<レイニア>へ。そういえば名乗ってなかったわね?私はジェシー・トトルトよ。見ての通り"灰の血族"よ。」
「改めまして"橙の血族"のアン・シューガルです。」
「あら、門のところでも挨拶してくれたのに偉いわね。」
これが普通だと思っていたから偉いと言われても反応に困る。取り敢えず愛想笑いをしておいた。ついでに、そういえばと気になっていたことを訊いてみた。
「この街にはずいぶん"灰"の方々がお住まいなんですね。隠れ里だったのですか?」
「ええ、そうらしいわ。詳しい話は長老達に訊いてもらえばわかるわよ。正直な話、隠れ里だったのもずいぶん昔のことだからほとんどの人はは詳しく知らないの。……"虹の民"じゃない人の方が詳しいくらいよ。」
「"虹の民"、ですか?」
聞きなれない言葉だ。
「あら、外では言わないのかしら?"魔女の子孫"のことよ。」
「ああ、これのことですね。」
光の角度に依って七色に煌めくロングヘアの毛先を摘まむ。
「そう。"赤"も"橙"も"黄"も"緑"も"青"も"紫"も"白"も"灰"も"黒"も。皆、虹色を持ってるでしょう?だから、"虹の民"なのよ。」
「"橙"の直系は"虹持ち"と言っていました。こちらでは"虹の民"と言うのですね。とても、素敵です。」
「そうでしょう。ここの人は詩的なのよ。ずっと昔は娯楽が少なかったらしいからかしらね。」
確かに山の上だとあまり外の文化は入って来ないだろうし、天然の要塞に囲まれているこの街では軍略的なボードゲームも発展しないだろう。文学が発展していてもおかしくはない。
「そうなんですね。」
カランコロン。
ジェシーと話していると再び扉が開いた。
「こんにちは……えっと……お取り込み中?」
同い年位の金髪で虹の煌めきを持つ少女がこちらを覗いている。
「いえいえ、どうぞ。いらっしゃいませ。ようこそ雑貨屋<レイニア>へ。」
「へぇ……これが<フィー・ルマの石細工>かぁ。初めて本物を見たよ。」
「そんなに有名なんですか?」
思わず質問してしまった。
「うん。ボクの家のりょ……方では殆ど手に入らないんだけど、商会の人達が高値で取引してるって聞いて……1度本物を見ておこうと思ってこの街に来たんだ。」
「そうなんですね。ということは、貴女も旅人ですか?」
もしも、そうならとても珍しいことだ。基本的に"魔女の子孫"は街から出ない。私は例外中の例外で、諸事情により親戚が許可をくれたから旅に出られたのだ。
「んー。まぁ、そんな感じ?」
「…………。」
「というより、ボク"子孫"の旅人さん初めて見たよ。珍しいね?」
お互い様だと思うのだが。
「そうですね。私も、"青"の旅人の方には初めて会いました。」
「ってことは他の人には会ったことがあるの?」
「"緑"の方には会ったことが有ります。男性でしたけど。」
虹の煌めきは母から子へと継がれるものだから男性も一定数居るのだ。
「男性かぁ……。それにしても珍しいよね。割りと自分の"血族"で他の家に婿入りするとか別の"血族"に婿入りすることが多いし。」
「兄弟が多いと旅に出る人もいるみたいですね。会ったことがある方は男兄弟が3人いるかなり珍しい家の方でしたし。」
「それは……本当に珍しいわね。"虹の民"の家だと、女の子が産まれたらあまり子を成さない家の方が多いもの。」
確かに私も一人っ子だ。父方の従兄妹は二人兄妹だが、2人目が女だった時点で叔母夫妻はもう子は成さないのだと言っていた。
希に姉妹がいる家もあるが、"血族"で男しかいない家があるなどの事情がない限りそんなことは殆ど無い。
そんななか、男ばかり3人いるのはとても珍しい。大抵の家ならば息子が2人と並ぶと娘は諦め嫁を探すからだ。
「ボクもお兄ちゃんがいるけど……3人いたらめんどくさそう。」
「そうなんですか?私は、一人っ子なのであまり実感を持てないのですが……。」
少し想像してみたが、全く想像力が働かない。ただ、楽しそうと思うだけだ。するとジェシーさんが声を上げた。
「えっ、アンさんって一人っ子なのに旅に出てるの?」
「え、ええ。はい、そうです。」
「それはそれで珍しいね。」
初対面の人に話しすぎたかもしれない。でも、別に隠しているわけでもないから良いか。
「一応、"血族"から許可は貰ってますよ。」
「よく許可がとれたわね。」
「少し訳ありでして。先に親戚の許可を得られたことが大きいですね。」
誰もいないあの家に帰るのが苦しいから。そう言って許可を取った。
家の管理は家に掛かっている大昔の"管理魔法"がしてくれるから安心できるし、掃除には専用の"木人形"がいる。
それに、定期的に連絡することも条件に入れられたから完全な自由っていう訳でもない。
「それにしてもすごいね!」
「すごいって言っても……えっと……名前なんだったけ?」
「あ、ボクは"青の血族"のニーナ・ケールスです。」
自らのことをボクと呼ぶ少女はニーナと名乗った。
「私はジェシー。で、こっちが……。」
「アン・シューガルです。」
「それで、話を戻すけどニーナさんも許可を取れてるみたいだし凄いって言う程の事でもないんじゃないの?」
ジェシーさんは、旅に出たことがないから知らないのかもしれない。
「ジェシーさん、ボクみたいな兄がいる家より、一人っ子の家の方が許可を取るのが大変なんだよ。何か起きたとき、兄がいる家なら兄が嫁を貰って家を継げばいいから。」
そこでニーナさんは一度、ため息を吐いて言葉を続けた。
「けど、一人っ子だとそうもいかないんだ。だって後継ぎは1人しかいない。その家唯一の後継者を危険に放り出すなんてよほど酔狂な家でしかしないよ。」