ざっかや<れいにあ> 1
ふわりと漂うその町ごとの香りとどんな風景が撮影できるのかというワクワク感。そして1歩、そっと踏み出す。私はこのときが旅の中で一番贅沢だと思う。
「ふわぁ。ここが<天空の街>フィー・ルマですか。……本当にこんな高いところに石造りの家が並ぶ街が有るなんて……驚きです。」
私は今、マーウットの国・フィー・ルマの街に来ている。山の尾根にある珍しい街で、しかも石造りの街並みと段々畑が広がると聞いて是非写真に納めないといけないのではと思い飛んできた。空気も綺麗だし、街並みも話に聞いていたよりも素晴らしい。来た甲斐も有るものだ。
「あら?貴女、見掛けない顔ね。旅行かしら?」
門を潜って直ぐの場所で辺りを見回していると、薄い金の髪に虹を宿した女性が声を掛けてきた。
「こんにちは。旅人のアンと申します。こちらの街の方ですか?」
「ご丁寧にどうも。ええ、そうよ。1本入ったところで<レイニア>って名前の雑貨屋をしているのよ。良ければ来てちょうだい?特産の石細工があるの。紐付きの小さいものならベルトに付けられるんじゃないかしら。」
「そうなんですね。宿をとったら是非、伺わせていただきます。」
挨拶を交わして私は歩き出す。今の女性もそうだがこの街には比較的"魔女の子孫"が多いようだ。道端で遊んでいる子供達にもちらほらと魔女の虹が見受けられる。大体の虹持ちは黄系統や赤系統の髪色に灰色の瞳をしているようだ。
閑話休題。宿をとらなくては安心して写真も撮れない。さて、通りの左右に一つずつ。どっちにしよう。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。よし、右ですね。」
異国の"お呪い"を唱えて宿屋を選ぶ。
看板には「春鳥亭」と書かれている。看板と扉のレリーフがお揃いになっているのがお洒落だ。
「いらっしゃいませ~。宿泊ですか?」
カウンターには私より少し大人びたけれどまだ少女の域を出ないであろう女の子が居た。彼女は"魔女の子孫"ではないようだ。
「はい。お部屋、空いてますか?」
「空いてますよ。えっと……今日は南側の段々畑を見渡せて一泊小銀貨一枚と大銅貨五枚の部屋と北側の街を見渡せて一泊小銀貨一枚の部屋が空いてますがどちらにしますか?」
「では……北側の部屋を三泊お願いします。」
ほんの少し悩んだが、流石に一つの街で小銀貨一枚半も贅沢はしていられない。それに街並みも綺麗だろう。ここまではとても綺麗だったのだから。
「分かりました。まず、保証金の大銅貨5枚を預からせていただきます。」
支払いまでの預り金というやつだ。場所によっては宿賃の半額とられるところも在るから「少なめだな」と思いつつ大銅貨を渡す。
「食事はお客様から見て左手に併設されている食堂で販売しております。また、街のお店でもこの街の素材で作った料理が販売されているのでそちらもご利用になれます。そして、こちらが部屋の鍵です。無くされますと保証金から差し引かせていただきますので御注意くださいませ。」
どこに行っても宿では同じようなことを言われる。毎度のことながらの長い説明も所々違うので聞き流すわけにはいかない。
「また、何か御座いましたらこちらまでお越しくださいませ。」
「分かりました。」
さて、どうしよう。鍵を受け取ったとは言え別に部屋に荷物を置く必要はない。どうせベルトポーチになんでもかんでも突っ込んである。物凄く便利だ。正直な話この魔法が使えなければ私は旅とはあまり縁の無い生活を送っていただろう。
「さっきのお姉さんの雑貨屋さんに行ってみましょうか。」
暫く考えて結局、約束を優先させることにした。一応受付の少女に場所を聞いてから雑貨屋<レイニア>に向かう。
「ここですね。」
煉瓦造りで漆喰が塗ってある。所々、煉瓦が覗いているのを見るとある程度古い建物なのだろうと思った。しかし、廃れた風に見えないのはきちんと手入れされているからだろう。
こればかりは木製のーーそして軽やかな見た目のーー扉を引いた。
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