牙を研ぎゴブリンを喰らう死なずの冒険者
「貴様、それでも冒険者か?」
呻く様に尋ねたのは、くすんだ栗色の髪を腰まで伸ばした男性だ。
右目を長い髪で隠している
「俺は、ただゴブリン討伐の依頼を受けたいだけだっ!!
もう4日もゴブリンの断末魔と命乞いをする声を聞いていないんだっ!!
お願いだよっ!! 『ギルドマスター」!!
このままだと気が狂いそうで壊れそうなんだっ!! 」
血を吐くような声で告げるのは、少年にも少女にも見える美しい中性的な貌の冒険者だ
肩に触れない程度の長さの銀髪だ
「何を寝ぼけた事を言っている?
ゴブリン以外の依頼を受ければ問題ないだろ」
右目を長い髪で隠している『ギルドマスター』が短く応える
その様子を大きな酒場と宿場を組み合わせた『冒険者ギルド』のロビーにいる幾多の冒険者達が
様子を見ていた。
――――重苦しい空気が漂うギルド内で、その様子を見ている冒険者達を良く観察すれば、三つの
反応をしていた
一つは、表情を失っている冒険者達
一つは、視線をわざとらしく反らして無視を決め込む冒険者達
そして最後の一つは、そそくさと『冒険者ギルド』から立ち去っていく冒険者達だ
「俺はゴブリン討伐以外の依頼には興味が無いんだっ!!
なんでわかってくれないんだっ!! お願いだっ!!
ゴブリンを殺させてくれ!!
ゴブリンを殺させてくれ!!
ゴブリンを殺させてくれ!!
ゴブリンを殺させてくれ!!
ゴブリンを殺させてくれ!!
ゴブリンを殺させてくれ!!」
少年にも少女にも見える美しい中性的な貌の冒険者は、魂を削る様な声で叫びながら、
受付カウンターのテーブルに額を繰り返し繰り返しぶつける。
テーブルにぶつけた額からは血が流れている
「お前は誰も受けたがらないゴブリン退治が命よりも大事なのか・・・?
もっとも、こっちだってそれに関しては助かっている部分はあるが・・・」
右目を長い髪で隠している「ギルドマスター」は唇を歪めながら応える
「これ以上ゴブリンを殺させてくれなかったら、精神が壊れちまうっ!!」
中性的な貌の冒険者が荒い息をつきながら、血だらけの貌を「ギルドマスター」に向けた。
凄絶な貌となっているが、ここで摩訶不思議な事が起こった。
血が流れている額の傷口がまるで時間を戻す様に塞がり、血が奇麗さっぱりと消えた。
僅か数十秒ぐらいだろうか
それだけの時間で、元の少年にも少女にも見える美しい中性的な貌に戻っている
―――その様子をすでに何回も目の当りしているのは、『冒険者ギルド』に集まっている
冒険者達だ。
こんな光景を見せられたら、幾ら修羅場を経験している冒険者達でもたまったものではない
「この『ゴブリン狂い』
他の冒険者の邪魔になるから、これを受けろ」
「ギルドマスター」は、そんな光景が毎度の事で慣れ切っているのか、何事もない様に一枚の
書類を差し出す
中性的な貌の冒険者は、その書類をひったくる様に掴むと、貪る様に書類に眼を通す
「 ゴブリン ゴブリン ゴブリン ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ゴブリン ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ゴブリン ゴブリン・・・」
中性的な貌の冒険者は、繰り返しそう呟きながらサディスティックな笑みを浮かべる
「 迷宮都市『ウィンルム』からだ。
迷宮内でゴブリンが大量発生し―――――話の途中なのに行くとはどういう了見だ?」
右目を長い髪で隠している「ギルドマスター」は、感情のない声で呟き、脱兎の如く
『冒険者ギルド』を出ていった中性的な貌の冒険者を見送る。
不機嫌な表情のまま、他の仕事があるためか執務室に戻っていく。
―――しばらくして、『冒険者ギルド』内は元の賑わいに戻った。
「なあ・・あれがここの辺りで噂になってる?」
そう尋ねたのは、食事が出来るテーブル席に座っている冒険者だ
「だろうなぁ。「んな奴はいるか」と思ったけどよ、まさかマジだったとは・・・」
そう応えたのは、話しかけられた冒険者だ。
分厚いステーキ肉を咀嚼しながら応える
「だなぁ・・・というか、こっちの飯も噂通り美味いな!」
話かけた冒険者が、焼魚を咀嚼しながら告げる
「本当だぜ 噂によればここの飯を食べたら身体の調子が良くなるらしいからなぁ!!」
分厚いステーキ肉を咀嚼をしていた冒険者が、上機嫌な声で応えた
その冒険者の様子を微妙とも生暖かいとも言える、何とも言えない表情を浮かべている
冒険者達がいた
その冒険者達は、主にこの街を中心に活動している冒険者達だ
「地元以外の冒険者が「真実」を知ったらどう思う事やら」
口髭を生やしている冒険者がぼそっと呟く
「知らない事は幸せな事だ。
事実、身体の調子は良くなる」
それに答えたのは、日焼けした冒険者だ
「・・・では、お前は「真実」を知ってもここで提供されている肉や魚料理は手をつける勇気は
あると?」
口髭を生やしている冒険者がぼそっと尋ねる
「・・・・食えると思うのか、お前は?」
日焼けした冒険者は、感情を押し殺した声で応えた。
――――ぐねぐねと曲がりくねった迷宮内通路で、甲高い金属音が響き渡っている。
狭い通路の中で、六人編成の冒険者パーティーがそれぞれの役割りを果たしていた。
盾の役割を果たしている3人の冒険者は、背後から脱出している仲間の様子を確認している
「取り合えず、魔力が尽きた方は大丈夫そうだな!!」
大盾で投擲物を弾いている冒険者が叫ぶ
「問題はゴブリンが多すぎる事だ!!」
レンガ色の肌に赤い眼の醜悪な風貌のゴブリンで、前方が埋まっている様子を確認している
冒険者が叫び返す
「しっかし、本当に来るのか!?
噂の『ゴブリン狂い』という綽名の冒険者は!! そいつが拠点としている場所からここまで
5日ぐらいは かかるぞ!!」
表情を歪ませている冒険者が応えた
大盾で投擲物を弾いている冒険者が何か言おうとした時、後方からバタバタと足音が響いて
きたのに気がついた。
怪訝な表情を浮かべつつ、ゆっくりと足音が聞こえてくる方向に視線を向けると、そこには―――――
肩に触れない程度の長さの銀髪で、軽装装備の少年にも少女にも見える美しい中性的な貌の
冒険者の姿があった。
活動拠点としている街から飛び出して、わずか二日で目的地に到着していた
中性的な貌の冒険者はゴブリンで埋まっている前方を視界に捉えると、発狂した者の様な絶叫を
あげ、解体用ナイフらしきものを握りしめて、死にもの狂いで突撃してくる
中性的な貌からは想像できない、壮絶な憎悪と怒気を放出していた。
2人の冒険者もその異様な空気を感じ取ったのか、ゆっくりと振り返ろうとした時、異様な空気を放出していた人影か疾風の様に通り過ぎていった
そして間髪入れずにゴブリンで埋まっている前方で、空気を震わす断末魔が響いてきた。
3人の冒険者は本能的に「見てはならない」と感じてはいたが、ほぼ同時に前方に視線を向けた。
前方では――――想像絶する光景が広がっていた。
中性的な貌の冒険者が憎悪と憤怒で貌を歪めさせながら、一匹のゴブリンの下腹部に
解体用ナイフを突き刺していた。
突き刺されて迷宮の床に倒れたゴブリンに馬乗りなり、何度も何度もナイフを突き刺し、
凄絶な笑みを浮かべながら、ゴブリンの肉を掻き分けて内臓を引き出す。
中性的な貌の冒険者は、引き出したゴブリンの内臓をむしゃぶりつくように食らいつき咀嚼する。
口の中で咀嚼しながら解体用ナイフでゴブリンの腕を切断し、咀嚼物を飲み込んで腕に齧りつこうとした時、急に中性的な貌の冒険者が動きを止めた。
そして、全身を震わせ肺から絞り出されるような絶叫を発しながら、のたうち廻る様に迷宮の
壁や床に身体や額をぶつける
特に何度も壁に額をぶつけたためか、そこからは血を流している。
また、床に両手を叩きつけているためか、血だらけになっていた。
その凄絶な光景に、ゴブリンも冒険者も動けなかった。
もとい、動けないというのが正しいかもしれない。
しかし、中性的な貌の冒険者のこの行為は、それだけでは済まなかった。
よろめきながら蹲るなり、突然嘔吐をはじめた。
中性的な貌の冒険者の口から吐き出されている嘔吐物は、普通ではなかった。
吐き出されるのは、息の良い魚類だ。
ぐぇ、ぐぇと中性的な貌の冒険者が呻きながら次々と吐き出されるのは、迷宮の床で飛び跳ねる
魚だ。
その魚の中に混じって、牛肉らしき塊も混じっている。
全て吐き終えたのか、中性的な貌の冒険者はゆらっと立ち上がった。
「ゴブリンども・・・お前らの断末魔を聴かせろ」
中性的な貌の冒険者の口から、真冬を彷彿とさせる様な声が出た
また、いつの間にか額の傷が塞がり、血だらけの貌から元の中性的な貌に戻っていた。
凄絶な光景に動けなかったゴブリンの群れはやっと我に返ったのか、奇声と憎悪を滾らせながら
群がる様に中性的な貌の冒険者に飛びかかった。
棍棒や棒きれで、中性的な貌の冒険者を滅多打ちにし、また錆びたナイフで切り刻む
「いったい何がどうなってるんだ!?」
最初に我に返った冒険者の1人が喚く様に告げる
「知るかよっ! それよりどうするんだっ
逃げるのか、助けるのかっ!?」
2人目の冒険者も我に返って、そう尋ねる
「おいっ、何か様子が変だぞ!?」
3人目の冒険者が戦く様に言いながら、前方に指を指す
中性的な貌の冒険者に飛びかかっていたゴブリンの群れが、喉を鳴らし、腐った息を吐きながら――――何か怯えていた。
ズタズタのぼろぼろで息絶えた思われた中性的な貌の冒険者は、一匹のゴブリンの首元に
食らいつき、 その肉を引きちぎり咀嚼しながら幽鬼の様に立っていた。
咀嚼物を飲み込むと再びのた打ち回るかのように転げまわり、そして吐瀉物――――魚類や牛肉を
ぐえぐぇと呻きながら吐き出す。
「さあ、もっと聴かせろ!!
お前らの断末魔を聴かないと、夜もぐっすりと眠れないんだ」
中性的な貌の冒険者は、そう叫ぶとゴブリンの群れに飛び込んでいく
――――――中性的な貌の冒険者が活動の拠点としている街では、身体に良いという評判の肉料理や
魚料理が「冒険者ギルド」内で提供されている。
その噂を聞きつけて他の地域から冒険者や商人がやってくる
その噂に間違いはなく、肉料理や魚料理を食べた他の地域の冒険者や商人は身体の疲れなどが
とれる
だが、どういうわけか提供される街で活動している全ての冒険者や住民達は一切その料理類を
食べようとしない。
中には露骨に嫌がる冒険者もいるのだが、その理由について他の地域からやってくる冒険者達には話そうとしない。
ただ、「食いたくはない」と
家の片づけなどをしている途中に、漠然と思いついて投稿しました
・・・とりあえず、漠然と思いついて勢いで投稿するもんじゃないなと思いました