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『ウチがやる!』

作者: yu@

 

  友達に連れられてやって来たのはTOKYOセントラルスクエアという大きなイベント会場のある施設だった。そして今日は、そこで一部の若者に最も人気の高いオタクイベント『コミケ』が開催されているのだという。


  オレ、雫石彰人は、いわゆるオタク文化なんかに全く興味が無いのだが、いきがかりというか成り行きというか、隠れオタクの友人、桐谷凛の強引な誘いを断れず、ノコノコやって来てしまったのだ。早朝から並んだ為、何度も欠伸が出る。


「なあ、凛。お前一人で来た方が自由に廻れたんじゃ無いのか?」


「何言ってるんだよ。並んでる時にトイレに行きたくなったらまた後ろに回らないといけないだろ。彰人がいるから安心してこの順番を確保できるんだよ」


  どうやらオレは、席取りの為に呼び出されたらしい。


「そういうもんかね。しかし絵に描いた女の子がいいなんてオレには、わかんねー」


「確かに2次元のイラスト集や創作本、それもあるが、早まるな、ここにはお前の求める3次元も設置されているのだぞ」


「はっ? なんだ設置って? フィギュアも興味ないんだけどオレ。いいから、お前一人で見てこいよ。オレは、ジュースでも買って休んでるからさ」


 凛は、えへへと言う顔をして


「そうか、悪りぃな。事が済めば連絡するから」


「変な言い方すんじゃねえよ。いいよ、単なる付き合いだから、何か期待して来たわけじゃ無いし」



  オレは凛と別れた後、自動販売機を探しにブラブラと歩き始めた。


「しかし、どんだけ多いんだよオタク人口」


  会場は、隙間のない程の人で埋め尽くされている。入場制限してますなんて嘘じゃねえのか。


  オレは、人の少ない屋外スペースに出ると、ようやくお目当ての自動販売機に辿り着いた。


  かなり人混みを避けた為、その自動販売機の周りには、ほとんど人の気配は無かった。ほとんどと言うのは約1名がその自動販売機でちょうどジュースを買おうとしているのが目についたからだ。


  まあ、一人くらいなら気にすることもないだろう。


  なるほど、凛が言ってた3次元ってこれも入るんだな。そのジュースを買っていた人物はなんとか戦隊だろうかピンクのコスチュームに身を包んでいた。いわゆるコスプレってやつだ。


  この暑い時期によくあんな暑苦しい格好ができるもんだな……

 いや暑いから水分補給も当然か、しかし中身はどうせおっさんなんだからピンクってどうなんだろう。


  そのピンク戦隊は、出てきたジュースを手に取ると被っていたヘルメットを脱ぎ捨てた。



  その瞬間オレの眼は釘付けになった……



  脱いだヘルメットから流れ出すように溢れるピンクがかった艶めいた長い髪。ほっそりとした輪郭と綺麗なまつ毛をたたえた瞳は、少し憂鬱そうにも見えた。


  その様子にオレの心は奪われたのだった。



「お、女!?」



  思わず呟いたオレに気が付いたのかそのピンクの女がにらむような顔で近付いてきた。



「ちょっとアンタ! いまウチの正体見たよね!」



  彼女は、そう言って顔をオレの間近まで寄せた。おでこが触れそうな距離にドギマギする。



「え、ええっと正体って? 人間じゃないの」



  慌てて返答するオレの襟元をグイとつかむ彼女

 そんなに近づかれるといろんな意味で呼吸が苦しい……


「いい、ウチはこの業界で誰にも顔を見られた事がないんだよ。他言するならアンタを粛清することになるから。わかったわね。たったい今からアンタはウチの監視対象に置かれるわ」



  どんな正義の味方だよ! 結局彼女はオレの学校やら電話番号などの個人情報を聞き出し、その場を離れ去っていった。



  教えない事もできただろうが、どこか彼女との繋がりを持ちたかったんだと思う。ただひとりの彼女の正体を知る存在として……



「おおーい、彰人。野外でイベント始まるらしいから一旦合流しようぜ、って今のサイレントピンクじゃねえの!?」


  凛は、オレの出ていった方向へ追いかけて来たらしい。そして偶然オレを見つけて声を掛けてきたのだ。携帯で連絡しろよな。


「サイレントピンク?」


「ああ、コスプレ業界じゃ有名な人らしい。古い戦隊の格好をよくしてる人でかなりのオッさんじゃないかという噂なんだけど、喋らないから正体は謎に包まれているそうなんだよ。お前いまあの人と何か話をしていたみたいだけど」



「あ、いや、何も話してないよ……」


 すっとぼけるオレ。


「ふうん、まあいいけど、コスプレと言えばオレの知り合いの人がいるんだけどせっかくだから、ちょっと紹介しておくよ。その為にお前を迎えに来たんだった」


  いいよと言うオレを無理矢理引っ張り、コスプレ会場へと連れて行く、凛。辺りには、ステッキを構えた魔法少女らしいのやゾンビらしい化け物もいた。凛はお目当ての人物を見付けると早速声をかける。


「三佐伍さ~ん、こんにちは! 今日は友達を連れてきたんで挨拶に来ました」



「おおっ、桐谷氏かっ! 友達とな、それは3Dのほうなのかな?」


「いや、普通に学校の友達ですから」



  三佐伍さんは、気さくな人のようで多くのコスプレーヤーにも慕われているそうだ。凛に紹介されたオレは、挨拶をして小一時間ほど話を聞かされた。ジャンルは主に戦隊やなんとかライダーがメインでチームを組んでイベント参加することもあるそうだ。

  これならまだオレにも理解できる、そう思ったオレは自分でも信じられないような事を口走った。きっと……彼女の顔がオレの頭に焼き付いて離れなくなったからだ。



「三佐伍さん、オレにコスプレの事を教えてくれませんか……」



  それがすべての始まりだったんだ。



 ◆◇◆◇



  彼女との二度目の出会いは、偶然にも学校の職員室だった。先生に聞いてわかったのだが彼女は、滝村愛梨という名で同じ高校に通っていたのだ。しかも同じ学年なのに今までサッパリ気付かなかった。

 マジかよ、そんな独り言が思わず口を突く。



  どうやら今の彼女は、担任の先生から説教をくらっているように思えた。端々に『出席日数』という言葉が耳に入ってくる。


「滝村、このままだったらタブるからな……」


  日直でプリントを取りに来ていたオレに気付いた彼女はこちらを見て一瞬顔をしかめたが、すぐに視線を元に戻した。



  職員室を後にしたオレを追いかけて来る足音がした。そんな予感はしてたんだ。


「彰人っ! 待って!」


  振り返った眼に飛び込んで来たのはやはり滝村愛梨だった。また何か文句を言うつもりなのだろうか?


「廊下を走ると怒られるよ、愛梨さん」


「な、なんでウチの名前を? しかも下の名前っ」


「それはお互い様だろ」


「くっ!」


  彼女は、オレに悔しそうな顔を近付けた。

  しれっと下の名で呼んだもののオレの心臓はバクバクしていた。近付いた彼女の良い香りにめまいがしそうだ。


「同じ学校だったんだね。あまり学校に来ていないようだから気が付かなかったよ」


 平静を装い何とか言葉を押し出す、オレ


「彰人、まさかあの事は喋ってないよね」


「ああ、今のところはね」


「い、今のところってどういう……」


「嘘だよ! 喋らないよ」


「そ、そう、だったら良いんだけど……」


  困った表情の彼女には、あの時の威圧感は感じられなかった。素顔どころかリアル割れしているのだから完全にオレに弱みを握られた形だ。



  だけどそんな彼女が可愛らしく思えた。

 もっと親しくなりたい……想いが頭の中でひとつの形になった。


 彼女が教室に向かうために姿を消した後、心の中で叫んだ!


  オレは、コスプレーヤーになる!


  それがオレが出した答えだった……



  早速先日、出会った三佐伍さんに連絡を取り、新しい世界へとオレは旅立ったのだ……



  コスプレなんて知識さえ入れてしまえば誰でも出来るさ、そんな認識は初日から砕け散った。


  各種筋トレとストレッチを終えると様々なキメポーズの習得を課せられたのだ。三佐伍さんは過去にヒーロー物のスーツアクターというアクションスタントの仕事をしており、全くの妥協が無かった。


  その間もヒーローの知識は、ビデオなどで取り込み、徐々にオタク脳へと改造されていく。



「よし! これで基礎は固まったようだ!」



  グッジョブをする三佐伍さんからお墨付きをもらうオレ。

  わずか1ヶ月で新しいコスプレ野郎が誕生したのだ。謎の仮面ライダー・アキトなんちゃって



  ともかくこれで少しは愛梨に近付けたはずだ……


  次の朝、高校へと向かったオレは、愛梨のいるクラスへと足を運んだ。もちろんオレの成長を見せ付ける為である。足取りは軽く、舞い上がる。出席日数の足りない彼女はきっと学校に来てるはずだから。


「何か用でもあるの? ウチ忙しいんだけど」


  それが彼女の第一声だった。


  気を取り直してコスプレを始めた事を報告するオレに更なる追い討ちがかかった。



「ウチ、オタクとかコスプレには興味ないよ。キモいし! ただクオリティを上げる為にイベントにも参加してただけだよ」



「じゃあヒーローの格好をしてどうしたいんだよ」



「ウチは世界を救いたいんだ!」



  真顔で語る彼女の瞳に1ミリの迷いも浮かんでいなかった。その言葉で理解した、愛梨は痛い子だったのだ……マジかよ!


  以前から学校を休みがちだった愛梨に親しい友人は、いなかった。特に嫌われているわけでもないのだが友人と談笑している所など見たことが無かった。


  だがオレにとっては絶好のチャンスでしかない。


  昼休みになると弁当を持って彼女のクラスを訪れた。怪訝な顔をする愛梨だったが弱みを握っているオレを突っ返す事も出来ず、渋々弁当を食べ始めた。

  最初の数日は会話すらなかったのだがいつしか談笑が出来るほどに距離が縮まった。


  オレの妹とのケンカ話がキッカケで、その話題になると彼女は嬉しそうに笑った。


「彰人は、キモ兄って言われてるんだね」


「いや、妹なんてそんなもんなんじゃないの?」


「ウチもキモ兄って呼ぼうかな」


「それ、マジ勘弁して下さい」


  他愛もない会話が幸せに感じた。この時間がずっと続けばいいなと思った。



  少しばかり仲良くなったオレだが放課後になるといつも彼女の姿が見当たらない事に気が付いた。不思議に思いフライング気味に教室を飛び出すオレ。


  驚いた事に既に校門を出ようとしている愛梨の姿を見掛けた。


「これじゃあ、放課後見当たらないわけだよ」


  息を切らしながら追いかけるとようやく帰りを急ぐ愛梨の後ろ姿に追いついた。


  不審な行動の理由を知りたくて気付かれないように跡をつけてみると愛梨は大きな病院へと入っていった。


  どこか身体に悪い所でもあるんだろうか?

  心配して更に追いかけるオレ、そして辿り着いたのは、とある病室だった。


  病室のネームプレートに眼を走らせると『滝川直斗」という名前があった。


 これってもしかすると……


  オレの疑問をよそに病室を出た愛梨は、ナースステーションへと入って行った。看護師さん達は、その行動に慣れているようで驚く様子もなく愛梨と挨拶を交わしていた。


  しばらくしてサイレントピンクのコスプレに着替えて出てきた彼女。一体どうして?

 行動の意味が分からず呆気に取られるオレ


  ともかく跡を追いかけるのだ! 心より先に身体が動いた。


  病院の駐車場で立ち止まったサイレントピンクは、上の階にある病室に向かって声を張り上げた。


「直斗くん、聞こえてるか! ヒーローの強さは力じゃないんだ。心の強い者がヒーローなんだ!」


「何回来てもダメだよ。手術は絶対受けないから!」


 病室の窓からそんな直斗の返答が聞こえた。


「私は諦めない! ヒーローは決して諦めないんだ! 君が勇気を出せるように私がいるのだから」


  愛梨は、ずっとこんな事を繰り返してきたのだろう。しかし弟の気持ちを奮い立たせる事は今回も出来なかった。



  愛梨はヒーローになってどうしたいのか?

  答えはあまりにも単純でそして純粋だった。



  彼女はただ弟の世界を救いたかったんだ……



  肩を落としながら歩き出した彼女にオレは声を掛けた。


「なあ、別の方法を探した方がいいんじゃないのか?」


 傷付く彼女を見ていられなかったのだ。

 驚いてオレを見る彼女の視線は動揺に震える。



「うるさい! ウチがやる! ウチしか出来ないんだ! 邪魔するならもうウチに近付かないで!」



 そう言って病院の中に走り去る愛梨の姿は余りにも弱々しく見えた。


 同じ学校ということで何とか聞き出した看護師さんの話では、弟さんの病気は先天性の心臓疾患で愛梨と遊んでいる最中に悪化して倒れたらしいのだ。その時の記憶が彼女の脳裏に焼き付いて離れないのだろう。


 きっと今でもその時の自分を責め続けているに違いないんだと思う。

 たとえそれが彼女のせいではないとしても……



 次の日から愛梨は、オレを避けるようになった。

 近くに行こうとすると何も言わず何処かに行ってしまうようになったのだ。



「もうウチに関わらないで迷惑だから」



 そんな、言葉が愛梨の背中から聞こえた。

 彼女を追い詰めていたのはオレかもしれない、しばらく会わない方がいいんだろうか?


 オレはあの時の無神経なセリフを後悔した。

 考えてみれば彼女が一番言われたくない言葉に違いなかったのだから。


 しばらく彼女に会わない日々が続いて薄れるだろうと思っていた感情は、逆に降り積もる雪のように高さを増した。


 なにやってるんだオレ……


 最初から答えは出ていた筈だ。あの場所で初めて愛梨を見た時からわかっていたんだ。


 オレは彼女が好きだってさ



 だったら何をするべきかわかるよな?

 オレは自分に問いかけた。


 何か方法は無いかと考えた。無理矢理手術を受けさせればいいなんて乱暴な考えも浮かんだ。

 それでも彼女は救われたと言えるのだろうか?


 生きようとする本人の意志は、やはり手術に影響するだろうし、無理に手術を進めて万が一の場合は愛梨に更に自責の念が積み重なる事になるはずだ。


 手詰まり状態でしかない。


  家に帰り悔しさを噛み締めた。彼女の為に何もしてやれない自分が情けなかった。


  ベッドに横になり枕に顔を埋めると突然携帯が鳴った。知らない番号からの着信。


  間違い電話なら出て終わらせた方がいい。

 そう思って携帯のボタンを押した。


「もしもし、番号間違ってますよ」


「はああっ!? ふざけてんの彰人! ウチの電話が気に入らないの!」


「えっ、ええっ、も、もしかして愛梨っ……?」


  キョどりすぎて思わず携帯を落としそうになる。


「もしかしなくてもウチだよ」


「ど、どうしたんだよ突然! 正体は喋ってないからな」


「そんなんじゃないよ、そんな事じゃ」


「だったら何の用件なんだよ」


「うん、まあ、何でもない……」


「はあっ!? 何でもないってイタ電かよ!」


「とにかく、いいから……間違えて掛けただけ」


 そう言って電話を切った愛梨。


「何でもないわけ無いよな……」


 避けてた相手に連絡してくるなんてさ……


  愛梨は誰かに助けを求めたかったんだと思う。だけど今のオレに何が出来るだろうか?


  ぼんやり携帯を見つめるオレにある考えが浮かんだ。


「そうだ! まだ、やれる事がある」



 ◆◇◆◇



  何度も繰り返してきたこのやり取りにも終わりがある。病院側で手術の日程を延ばすのも限度があった。もし今日返事をしなければ見送りになるわねと看護師さんに聞いていた。


 祈るような気持ちで説得を続けるサイレントピンク。


 だが直斗の心は動かなかった。



「本物のヒーローなんていないんだ!」



「違うよ直斗! 君の好きなヒーローは、助けを求める人の所に必ず現れるんだ……」



「ほ、本当の正体は姉ちゃんだろう。ヒーローなんて言ってもたったひとり来るだけで誰も僕の事なんて気にしてないんだ」



 その言葉は、愛梨の心を折るのに充分だった。

 


「やっぱり、ウチなんかじゃ駄目なんだ……」



  膝を折るようにして崩れ落ちる彼女。


  震える仮面の中身は絶望と涙で埋め尽くされているのだろう。

  弟の好きなヒーローならばもしかしたら、そんな考えも結局は無駄に終わり、何も救えないのかもしれない。

  愛梨はすべてを諦めてしまったように見えた。






「ヒーローは諦めたりしない!」






 背後からの声に驚く愛梨


「遅くなってすまない! サイレントピンク!」


  驚いて振り返る彼女の眼にはファイヤーレンジャーのコスチュームに身を包んだ三佐伍さんの姿があった。そしてその横に並ぶライダー姿のオレ


  それだけではない、続々と詰め掛けるヒーロー達の姿……

  みな普段は、コスプレーヤーとして世間から少々距離を置かれている人達ばかりだ。



  そんな自称ヒーロー達が事情を話した三佐伍さんの呼びかけに集まってくれたのだった。

  確かサラリーマンの方もいたはずだ、恐らく仕事を放り出してきてくれたんだと思う。



  病院の駐車場は、そんな何百人ものヒーロー達で埋め尽くされた。



  病室から顔を出した直斗は驚きの表情に変わり、やがて涙に腫らしたはずの眼を輝かせた。



  駐車場から直斗に声援を送るコスプレーヤー達は、その瞬間本当のヒーローだった……



  三佐伍さんに頼んでヒーロー達を集める。

 オレに出来る事は、ただそれだけだったのだ。



  呆気に取られていた彼女は、気が付いたように立ち上がり弟のいる病室の窓に拳を突き上げた。


  他のヒーロー達も同じように拳を突き上げる。



「ナオト! ヒーローはいつも君を見守っている!」



  愛梨の言葉は感涙にかすれていた。しかしその声は確かに直斗の心に届いた。



「うん! 僕、頑張る! 頑張るから!」



  直斗は、自分も力強く拳を突き返した。






  その数日後……


  直斗は、生存率の低い手術を受ける為に手術室に運ばれていった。生まれつきの心臓疾患は何もしなければ長くは生きられないそうだ。そんな直斗が強いヒーローに憧れたのも当然だった。



  しかし今度は、ひとりじゃない沢山のヒーロー達が直斗を見守ってくれているのだ。

  だから生きて、その気持ちに恩返ししたいと直斗はそう愛梨に言った。

 

  だって手術が成功すればまたあのヒーロー達は、来てくれると約束したのだから……




 ◆◇◆◇




  手術の日から一週間が過ぎオレと愛梨は、公園通りを歩いていた。


「聞いたよ彰人、ウチの弟の為に方々で頭を下げてくれたって」


「いや、オレじゃなくて三佐伍さんのおかげだよね」


「だけど彰人が、頼んでくれなかったら……」


  公園沿いの通りを抜けると愛梨が何度も通った病院が見えてくる。



  そこにはあの時と同じように沢山のヒーロー達の姿があった。彼らは小さな少年との約束を果たす為に再び集まったのだ。



「ウチはもうヒーロー引退する」


「突然どうしたんだよ。弟さんが助かったからか?」


「違うよ! もう必要ないんだ」


  いたずらに笑う彼女は、オレの手を引きそのまま抱きついてきたのだ。




  ギュッと背中に回した彼女の手から伝わる想い


  オレの胸元で小さく呟いた彼女の声





 ………ありがとう、ウチのヒーロー………

















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― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ、駐車場のところ泣いちゃいましたよ。 なんか感情をぐっちゃぐちゃにかきまわされました。 この展開は思いつかなかった。 序盤からかんじていたのは、日常→非日常→日常。 そして、「えっ」…
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