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墓場と白。  作者: 劣
9/40

?.集落


数年前。車内にて。

ヨウは長い足と手を組んで女を見る。

女はそっぽを向いていた。


「さて、説明してもらおうか。」


「……。」


ヨウの問いかけに答える様子のない女。

派手な服に、髪。それらに目がいってしまいがちだが、

普通にしていればそれなりの上級なの顔立ち。

本人はそれを言われる事が嫌いな様だが。


「どうして白燈ハクヒに手を出した。」


「煩いなぁ。ヨウには関係ないでしょ。」


そっぽを向いたまま、冷たく言い放つ。

ヨウはため息をついた。

この女は元から理解出来ない奴ではあったが、最近は度を超えすぎている。

野放しにし過ぎたか。


この女、迅李ジンリは人間とは思えない怪力の持ち主。

この怪力や異常な運動神経は、生まれつきである。

出身地はとある集落なのだが、その集落は現在幻と呼ばれている。


その集落に住む者は皆、この女の様な怪力の持ち主ばかり。

昔から人々に恐れられていたその集落は、

外の世界との繋がりを遮断しひっそりと生活していた。

その集落の者は怪力ではあったが、誰もが優しい心を持った人間だった。

人々はその集落のある山には絶対に近寄らず、いつしか“幻の集落”と呼ばれた。

…あの事件があるまでは。


「予定以外の行動をされては困る。

お前にとっても、こんな事をしたところでメリットはない。」


何を言っても反応せず、ただそっぽを向いて外を見ている。

こいつの生まれ、そして育った集落は文字通りある事件をきっかけに幻となった。

近くの村で暮らしていた子供が1人、山へ入ってしまった事がきっかけだった。


その母親は息子がいない事に気付き、慌てて村中を探した。

しかし、息子は見つからなかった。

その頃息子はあの集落のある山に迷い込んでいた。

歩き疲れた息子は、川のそばで座って休んでいた。

だがそれが、運の尽きだった。

山には野生の動物が腐る程いる。人間が入ってこないとなれば、尚更。


…熊が出たのだ。その山にいる熊の中でも上位のサイズだ。

そしてその熊は子熊を連れていた。不運の連鎖だった。

そこからは早かった。気の立っている熊に息子は襲われ、還らぬ人となった。

母親は無残な息子を見つけ、泣き崩れた。

そして何処の誰が言い出したのかは、分からない。


『あの、幻の集落だ。そいつらが熊に襲わせたんだ。』


元々そう大きくない村だった。

その話は瞬く間に広まり、例の集落を“殺人者集落”と呼んだ。

その頃そこで暮らしていた幼き迅李ジンリは、隣町まで遣いを頼まれた。

迅李ジンリは幼いながらも、集落の中で相当の怪力の持ち主だった。

もし迅李ジンリが居れば、集落は幻にならずに済んだのかもしれない。

その日は息を呑むほど、綺麗な夕暮れの日だった。


俺はその時遠出をしていて、休憩がてらに父と村を訪れていた。

すでに母とは別れ、親戚とも縁遠かった父。

本当に色々な所に連れて行ってくれた。

幼かった俺はその父の仕事にもよく付いていった。


警察関係者だった父親に現場にすぐ駆けつけるよう連絡が来た。

俺は車で待っている様に言われたが、こっそりと後をつけた。

…今でも、鮮明に覚えている。


真っ赤に染まった地面に、倒れている人々。

怖い、などとは思わなかった。むしろ、背筋がゾクゾクして…。

呆然とその景色を見ていた俺は、そこで迅李ジンリと出会った。


あの、何もかもに絶望した目。

結局その集落の人々を殺めた村人たちはまとめてお縄となった。

身寄りのなくなった迅李ジンリは、うちに引き取られる事になった。


迅李ジンリ。俺は今まで特にお前に何かを聞かせてきたわけじゃない。

人の道を外しそうにならない限り、特別お前に構わずやってきた。」


「……。」


ゆっくりと俺の方を向く迅李ジンリ

俺も真っ直ぐ目を見つめた。俺も迅李ジンリも、逸らす事はない。


「だが。俺が“やりたい事”を、お前も知らない訳じゃないだろう。

それを邪魔する様な事があれば…。」


立ち上がり迅李ジンリに近付いた。

迅李ジンリはピクリとも動かない。

そして静かに胸ぐらをつかんだ。抵抗はない。


「誰であろうと、容赦しない。」


微かに迅李ジンリの目元が動いた。

それでも何も言わず、抵抗もしない。

普段あれほど煩い迅李ジンリが、この様に静かになる時がある。


1つは“親父”がいる時。2つ目は“偉い大人たち”がいる時。

そして最近、俺の前でも話す回数が減ってきていた。

俺もその迅李ジンリの異変には気付いていた。

手を離すと座り直す迅李ジンリ。俺も先程座っていた位置に戻った。


黒埜コクヤ”。俺にとって凄く重要な人物。

迅李ジンリがどうだろうと関係ない。

俺は俺のやるべき事を成し遂げるだけ。

車内には冷たい空気が流れていた。


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