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墓場と白。  作者: 劣
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6.人影


海で散々遊び、ようやく帰ってきた。

ちび達は疲れた様で昼寝をする事になった。

あっという間に施設内は静かになる。


カエデは眠くないのか本を読んでいて、

そのすぐ隣でリュウがすやすやと寝ていた。

白燈ハクヒはシスターに混ざって、洗い物を手伝っていた。

俺は特にする事もないし、横になった。

ぼーっとしていると眠くなってきた。視界が少しずつぼやけていく。

すると洗い物を済ませた白燈ハクヒがこちらに向かって歩いてくるのに気づいた。


「あれ黒埜コクヤ。寝ちゃうの?」


俺の隣に座って、頭を撫でてくる。

いつもならその手を払うのだが、そんな気すら起きなかった。

少しずつ何も聞こえなくなって、手の温もりだけを感じながら眠りについた。




ぼんやりとした夢を見た。

真っ白な世界で1人、ただ立っていた。

後ろから声がして振り返ると人影が見えた。

どうやらこちらに向かって何かを言っている様だ。

何故そう思ったのか分からないが、“名前”を呼んでいる気がした。

けれどそれは“黒埜コクヤ”じゃない。

俺に向かって誰の名前を呼んでいるんだろう。

その人影はぼんやりしていて、はっきりとした姿は分からない。


『…何?誰を呼んでるんだ?』


大きな声で聞き返してみるが、ずっと叫んでいるばかりで

俺の声は届いてない様だ。

必死にこちらに向かって叫んでいる。

何を言っているのか、その人影は誰なのか。

1歩、人影へ近付こうと歩き出した。その瞬間。


『えっ……』


その1歩踏み出した足元から一気に地面が黒くなっていく。

ハッとして人影の方を見ると、その姿は歪んでいた。

焦って手を伸ばしてみるが届く気がしない。

人影もこちらに手を伸ばしている様だった。

次第に足元の空間が歪んで、身体もその真っ黒な世界へ飲み込まれてしまう。

少しずつ落ちていく身体。焦りと恐怖が心を支配していく。


『待って!!お前は誰なんだよっ!?誰を呼んでるんだ!!』


『〜〜っ!!〜〜っ!!』


『聞こえない、聞こえないんだって!!なぁ!!』




必死に叫んだがそれも虚しく、世界は真っ黒になる。

苦しい、悲しい。そんな気持ちでいっぱいになった。

どうしてだろう。名前も顔も分からないあんな人影に困惑されている。

すると今度は俺を呼ぶ声が聞こえた。

何度も、黒埜コクヤと。聞き慣れた声で。


「っ!!」


「うわっ!!びっくりしたぁ。というかやっと起きた。」


焦って起き上がると、うっすら汗をかいていた。

…夢を見ていた。心臓が大きな音をたてて暴れている。

見慣れた施設と隣にいた白燈ハクヒを見て、

さっきまでの出来事が夢であったと自覚した。

しかしとても鮮明に覚えていて、実際にあった事なのかと錯覚してしまいそうになる。


「…黒埜コクヤ?大丈夫?寝苦しそうだったから起こした方がいいかと

思って声かけたんだけど…。」


心配そうに顔をのぞかれた。

綺麗な顔が近くて思わずドキッとして、すぐ顔をそらした。

すると周りに誰もいない事に気付いた。

寝る前はみんな、ここで集まって昼寝をしていたはず。

外から聞こえてくるきらきらした笑い声。


「あ、みんなはもう起きて外で遊んでるよ。寝て体力回復したんだね。」


窓から見えるみんなの遊ぶ姿に、にこにことしている。

カエデも外にいるのか。リュウは…多分いつもの場所で寝てるだろう。


「お前は行かねぇの、外。」


「あー、うん。今日はいいかな。」


珍しい。いつもなら率先してちび達とわいわい遊んでるのに。

どちらかと言えば、カエデがこっちに居て白燈ハクヒが外にいるのに。

見た感じはそうでもないが、疲れてるのかな。


俺はそのまま身体を起こした。

静かな施設内。特に話す事もないから、ただ外を見ていた。

すると小さなノック音がした。

振り返るとシスターが少しだけドアから顔を出していた。


「あ、起きてる!黒埜コクヤくん宛てにお手紙届いてたよ。」


シスターはみんな例外なく、俺の事をくん付けで呼ぶ。

そう言って渡されたのは、白い封筒だった。

礼を言って受け取ったが、俺宛てに手紙なんて初めてだ。

一体誰から……?名前を見ると確かに俺の名前が書かれていた。

すごく丁寧で綺麗な字。


「誰から?」


「…送り主の名前が書かれてない。」


俺なんかに手紙を書く奴なんて、誰も思いつかない。

この施設の外で俺を知っていて、尚且つ手紙を書く奴なんて。

誰1人としていない、はず。恐る恐る封筒を開く。

中には何枚か便箋が入っていて、書かれている時はやはり丁寧で綺麗だった。

俺は勉強が苦手で、手紙の内容の所々が難しくてよく分からなかった。

……勉強サボったツケが回ってきた。


横から覗き込んできた白燈ハクヒは、うんうん頷きながら読んでいた。

白燈ハクヒは内容を理解出来たのだろうか。

どうにか理解出来る所はないか、声に出して読み進めてみる。

するととある一文に目が止まった。


>>時に黒埜コクヤ様。ご自身の出生についてご存知でしょうか。

>>今回こちらを書かせて頂く事になった1番の理由で御座います。

>>黒埜コクヤ様、貴方はご自身の幼少期を正確に覚えていますでしょうか。

>>例えば、の話では御座いますがもし。

>>その記憶に間違いがあったとしたら。

>>貴方様はどうなさいますか。


意味深な事がつらつらと書かれていた。

俺の出生…?記憶が間違っている…?

一番古い記憶と言えば、ここに来た時の記憶だ。

…あれ、俺ここに来るまでどこに居たんだっけ。

どうやってここに連れて来られたんだ?


「なぁ白燈ハクヒ。お前古い記憶は所々覚えてないって言ってたよな。

ここに来る前の記憶はあるか?」


「え?まぁ…完璧とは言えないけど多少は。」


俺がここに来たのは5歳の時。

白燈ハクヒが来る2年前の事だった。

その前は…何をして、何処に居た?


黒埜コクヤ?大丈夫?」


「え?あぁ…大丈夫。」


封筒に便箋をしまう。

胸に少し、もやもやとしたものが漂っていた。


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