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墓場と白。  作者: 劣
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21.一歩


その日から、数日後。

“悪魔”の意味は分からないまま。

それでも俺にはする事がある。悩んでいる場合じゃない。

いつも通りの朝。

今日は雲ひとつない、いい天気だ。


「え?一緒に遊ぶの?」


「あぁ、カエデも付き合えよ。」


驚いて目を真ん丸にして俺を見る。

しばらくフリーズしていたが

俺がちび達と遊ぶのを見て本気と分かったらしく、

しつこくは聞いて来なかった。

まぁ聞いても答えるつもりはないし、

それがカエデには分かっていたのかもしれない。


結構な時間遊んで、ちび達は疲れたからと昼寝。

カエデも一緒に寝てしまった。

みんなが昼寝をし出したタイミングで、洗濯物を干し始める白燈ハクヒ

そっと背後から近づいて、かごに手を伸ばす。


「うわっ!びっくりした…。え、何してるの?」


「何って、洗濯物を干してる。」


こんなことした事ないから、

白燈ハクヒの動きを見よう見まねだけど。

次々と洗濯物を干していく。

白燈ハクヒはいつもこんな大変な事をやってたのか。

こうしてくれるおかげで、俺たちは綺麗な服を着て居られる。


「急にどうしたの…?」


「別に。気が向いただけ。」


納得いかないという顔をしていたが、

再び手を動かして洗濯物を干す白燈ハクヒ

気持ちいい風が吹いていて、優しく服たちを揺らす。

深く息を吸うと、柔軟剤の匂いがした。

自分まで綺麗に洗われた様な気分。


「…。ねぇ、本当にどうしたの。」


不安げに俺を見る。

俺は白燈ハクヒに背を向けたまま、

無言で空を見続けた。

いつになく落ち着いている心。

いつも心の中にある、“負”の感情がいない。

今まであったか分からないほど、穏やかな気持ち。

俺にもこんな感情が、あったのか。


そんな俺に白燈ハクヒは何も言わなかった。

そして交わす言葉はないまま、静かに時間が流れた。

日は沈み、夕飯の時間になる。

いつもはしない、夕飯の支度を手伝う。

と言っても料理は手伝えないから、

皿を出したり、野菜を洗ったりするだけ。


「今日1日変だね、黒埜コクヤ。」


何故かむすっとした顔をしているカエデ

まぁ確かに、今日は慣れない事ばかりしたからな。

おかげですごい疲労感がある。

そう考えるといつもちび達を見ているカエデや、

家事をしている白燈ハクヒは凄いのだと改めて感じた。

俺にはこんな事、毎日なんて御免だ。


「まぁやる気があるのはいい事なんだけどね。」


白燈ハクヒ〜!でもびっくりしたでしょ??」


「ちょっと、言葉を失うくらいには…。」


「それちょっとじゃないしっ!!」


賑やかに笑うカエデ白燈ハクヒ

そんな2人をそっちのけで、ただ食べてるリュウ

俺が普段と違う行動をしても、特に興味はない様だ。

いつもの、何気ない光景。

俺はその光景をいつも、黙って見るのが好きで。


「……ご馳走さま。」


「あれ、もう食べないの?」


「あぁ。」


白燈ハクヒに聞かれ、頷く。

さっさと自分の皿を流しに運ぶ。

ちび達はまだ食べていたが、一足先に風呂に向かった。

いつもより少し長めに湯船に浸かった。


「あれ、自分で乾かしてるの?!」


洗面台に来た白燈ハクヒが驚いた声を上げる。

ドライヤーなんて面倒で、自分でやった事なんてほとんどない。

いつも白燈ハクヒに『少しくらい身だしなみに気を遣って!』と、

怒鳴られながらドライヤーをしてもらう。


「たまには、な。」


「えぇ、明日雨でも降るのかな…。」


頭を抱え出した白燈ハクヒをスルーして、

さっさと髪を乾かす。…にしても、面倒だな。

別に自然乾燥で乾くなら、ドライヤーなんていらないだろ。

そう言うとまた白燈ハクヒに怒られてしまう。

順番待ちしていたちびにドライヤーを代わって、

洗面台を後にした。


洗いたての自分の髪は少しふわふわしている感じがする。

最近また一段と伸びて、セミロングと言える長さになった。

自分じゃ手入れとか出来ないし、いっそ切ってしまおうか。

そうした方が楽だしなぁ。


白燈ハクヒには『せっかく綺麗な髪なのに勿体無い』と

いつも言われる。

白燈ハクヒは見える訳じゃないのに、

いつも俺の髪を綺麗だと言う。

触り心地とかで分かるのかな。


「ほら〜、そろそろ寝る準備して〜。」


白燈ハクヒの掛け声で、みんな布団を敷き出す。

俺もいつも通り、布団を敷いた。

消灯時間になり、部屋の明かりが消える。

はじめは少し小声で話している声が聞こえていたが、

それも少しずつなくなって静かになる。

じっと、みんなが眠るのを待った。


結構な時間が過ぎて、ゆっくり身体を起こした。

全員が寝ている事を確認して、立ち上がった。

自分の寝ていた布団を綺麗に畳む。

畳むのも普段言われてする時はあっても、自分からはしない。

…どれだけ他人任せにしてきたのか実感した。


ふと隣で寝ている白燈ハクヒを見る。

静かに寝息をたてて寝ている白燈ハクヒ

頰にそっと手を伸ばし、優しく添える。

その手に頰をすり合わせて、幸せそうに笑った。

ゆっくり、手を離す。


……。

…行かなきゃ。行くんだ。

上着を着て、廊下に出る。

もちろん人の気配はなく、静まり返った廊下。

夏の夜、今日は少し風が冷たいらしい。


「…行ってきます。」


柄にもない言葉、少し照れくさい。

音で気付かれない様に、慎重に慎重に外に出る。

今日はいつもしない事を沢山した。

ちび達の相手、家事の手伝い。

髪を乾かしたり、身の回りを整理したり。

…そして深夜に施設を抜け出した。


ごめん先生。白燈ハクヒカエデリュウ

きっと朝になって俺が居ない事に気付いて、

みんな騒ぐだろうな。…探すかな。

それでも俺は行かなきゃいけない。

…知らなければいけない事があるから。


俺が、やるべき事。

これは義務じゃなく、本能。

正解なんて知らないけど、

これは“俺が ”やるべき事なんだと頭の中で誰かが言ってるんだ。


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