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墓場と白。  作者: 劣
23/40

19.菓子


黒埜コクヤく〜ん!なんか荷物が届いてるよ〜!」


「荷物?」


たまには本でも読んで勉強しようと思い立って、

外で横になりながら読書をしていた。

まぁ内容は半分くらいしか理解出来てないが。

シスターの声がして振り向くと、その手には小さめの箱。


「え、本当に俺?」


「うん、黒埜コクヤ様って書いてあるよ。

何か身に覚えない?」


考えてみたけれど、もちろんある訳ない。

でも一瞬浮かんだのは、あの般若。

箱を受け取って名前を見てみると、

教会の名前で送られていた。……やっぱり。

自分の住所を使う訳にはいかず、教会の名前を使ったのか。


シスターにお礼を言って受け取る。

持った感じは、そんなに重くない。

中身はまるで検討つかない。

わざわざ送ってくるくらいだし、訳がありそう。

ひとまず周りに誰もいない事を確認する。

この前の手紙みたいな事があると面倒だし。

ゆっくりとガムテープを剥がした。


「…え、何これ。」


箱を開けると黒い袋が入っていた。

触ってみると、中に入っているのは布か?

袋を取り出すと、底の方には手紙も入っていた。

…とりあえず袋の中を確認するか。

袋を開けて中の“それ”を取り出す。


「…っっ!?」


思わず驚いて袋ごとその中身も落としてしまった。

…これって、もしかして。

自分の手に付いていない事を確認する。

…乾いているのか。手には付いてない。

恐る恐る袋を持ち上げ、もう一度中身を取り出す。


「…これは。」


中から出てきたのは、黒いパーカー。

それはただのパーカーじゃない。

…べったりと、血で汚れている。

元々パーカーが黒いから分かりづらくはあるけど…。

手袋と、ズボンも入っている。

血はすっかり乾いていて、黒ずんでいた。

袋の中にそれを戻して、手紙を開いた。


>>驚いたかな。

>>これが、何だか分かる?

>>きっと俺が嘘をついていると、思わなくなるはず。

>>これは、証拠。


とたったそれだけが書かれていた。

それを読んで全身に鳥肌がたつ。

同時に吐き気がして、とっさに口を押さえる。

必死に飲み込んで、吐くのを我慢した。

冷や汗が出て、身体が震える。


殺人時に使われたのだろうと、思う他ない。

でもなんでそれを俺に送ってくる?

あの般若野郎の服なのか?

あいつは誰を殺したんだ?

袋の中身は全てに血が付いていて、パーカーとズボンと手袋。

よく見るとネックウォーマーも入っていた。

気分が悪くなるが、覚悟を決めてそれらを全部取り出した。


「…あれ、このパーカー。」


パーカーをよく見ると、

右腕のところが大きく破れていた。

綺麗な切り口で、まるで刃物の様なもので切った様な。

…刃物?


「は、…え?確か先生が言ってた…。」


そこで先生の話を思い出した。

両親を殺した、黒ずくめの2人組。

俺を抱えて逃げる時、厚底野郎は蹴り飛ばして。

もう1人の腕を、刺したって…。

もしかしてこれ。

般若野郎は、犯人を知っている。

“きっと俺が嘘をついていると、思わなくなるはず”という手紙の1文。

そこまでの考えに行き着いた途端、何かが切れた。


「うっっ…!」


一気に襲ってきた吐き気。

慌てて茂みに逃げ込んだ。

そのまましばらく吐き続けた。

吐くものがないから、出るのは胃液だけ。

それでも吐き気は収まらなかった。


「…はぁ、は、はぁ。」


ようやく落ち着いて、座り込んだ。

額からはあぶら汗が流れる。

あいつは、やばい。イかれてる。

自分の言葉に信憑性を持たせるために、ここまでするか?


というかこれ、どうすればいいんだ。

他の人に見つかれば、誤解されるに違いない。

説明するにもややこしい。

…何処か隠せる場所を探さないと。

でも施設内に隠せそうな場所はない。

隠すなら外ぐらいか。


「…あ、あの場所なら。」


箱に袋と手紙を入れて閉める。

そして人目を避けてあのリュウがいつもいる、

あの木まで来た。

ここならいつもリュウが寝てるからみんな来ない。

リュウなら触るなって言っとけば、触らないし。

箱を持ったまま登るのは苦労したが、頑張って上まで登った。


リュウは小さな寝息をたてて、気持ち良さげだ。

起こすのも悪いし、触るなって張り紙しとくか。

適当な紙に触るなの文字と、自分の名前を書く。

どうせここに登るのなんて、俺とリュウくらい。

ここが1番隠しやすいだろう。


「さて、あとは…」


これから、どうする?

般若野郎は簡単に会える相手ではない。

でも般若野郎に接触すれば、確実に犯人に近付ける。

このチャンスを無駄には出来ない。

ようやく見えてきた犯人の影。

当時の警察が犯人に全く近付けず、手がかりもまるでなかった。


どうしてこのタイミングで般若野郎は接触してきた?

しかも、俺に。

それまで犯人に関する証言を警察にしなかった。

般若野郎は絶対何かを知っていて、企んでいる。

手のひらで踊らされている…。

そう感じているが、今の俺に打つ手はない。

般若野郎の姿が頭をよぎる。

…絶対、絶対に。

あのむかつく仮面を、化けの皮を剥がしてやる。


「…黒埜コクヤ?」


突然後ろから名前を呼ばれて、肩が跳ねた。

振り向くと寝ていたはずのリュウが身体を起こしていた。

まだ眠そうに目をこすっている。


「ごめん、うるさかった?」


「いや喉が渇いて…。ふぁぁ」


「あ、そう…。俺も一緒に降りるわ。」


一度施設に水分補給しに行くらしいリュウに続いて木から降りた。

興味ない様らしく、なんで俺が居たのか聞いて来なかった。

施設に入ると、何やら真剣な顔で話をしている2人。

白燈ハクヒカエデだ。


「あ、黒埜コクヤどこに居たの?

でも丁度良かった!!」


「何?」


先に気付いたのはカエデ

俺とリュウに気付いた途端、いつもの表情に戻った。

白燈ハクヒも振り向くと、にっこり笑った。


「実は今日のおやつを話しててさ…」


「…え?おやつ?」


ズコッとコケそうになった。

珍しいメンバーで真剣に話してると思ったら…。

どうやら今日は手作りする様で、どれにするか決めかねてるらしい。

…いや知らないし。何でもいいわ。

なんて言うとうるさいので、知らぬふりをした。


「ねぇリュウ〜!

水なんて飲んでないで意見ちょうだいってば〜!」


1人呑気にキッチンんで水を飲んでいるリュウ

俺が何も答えないからカエデの標的がリュウに向いた。

俺だって興味ないけど、リュウなんてもっと興味ないだろうに。


「何でもい…」


「何でもいいなんて許さないからね。」


リュウの声を遮って被せ気味に話すカエデ

リュウは正直過ぎるんだよなぁ。

もっと違う言い方すればいいのに、

思った事をそのまま言うからいつもカエデと衝突する。

まぁ衝突と言っても、カエデが一方的に騒ぐだけだけど。

正直なのが悪いとは言わないが、もっと上手くやればいいのにと思う。

まぁそれがリュウだし、俺は口出しするつもりない。


「離せ〜、寝かせろ〜」


「さっきまで寝てたでしょ?!逃がさん!!」


また外の木に戻ろうとするリュウにしがみつくカエデ

でも2人とも少し表情が笑ってしまっている。

何かあるとこうしてじゃれあってるカエデリュウ

見慣れた日常だ。よくある茶番。

すぐカエデが喧嘩腰になるが、

リュウが反応しないので喧嘩にならない。

何だかんだ仲が良い2人。


「ちょっと羨ましいから僕らもあの茶番する?」


「いや、絶対しない。」


羨ましそうに見てるなと思った。

俺の即答が気に入らなかったのか、

えぇ〜と言いながら俺の両肩に手を置いてがっくりしている。


「あ。せっかくだし、4人でおやつ作ろうよ。」


突然面倒な事を言い出したカエデ

冗談じゃないそんないかにも面倒そうな事。

料理なんてやった事ないし。

リュウも露骨に嫌そうな顔をしている。

笑ってるのはカエデ白燈ハクヒだけ。


「いいね!カップケーキとかだったら

そんなに難しくないし!楽しそう!」


「でしょでしょ〜?」


「あ〜、俺ちょっとする事あるから…」


「俺は寝るので忙し…」


「「逃がさないよ?」」


…だからリュウ、そういうとこだってば。

結局強制的にキッチンに連行された。

…くっそう。


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