19.菓子
「黒埜く〜ん!なんか荷物が届いてるよ〜!」
「荷物?」
たまには本でも読んで勉強しようと思い立って、
外で横になりながら読書をしていた。
まぁ内容は半分くらいしか理解出来てないが。
シスターの声がして振り向くと、その手には小さめの箱。
「え、本当に俺?」
「うん、黒埜様って書いてあるよ。
何か身に覚えない?」
考えてみたけれど、もちろんある訳ない。
でも一瞬浮かんだのは、あの般若。
箱を受け取って名前を見てみると、
教会の名前で送られていた。……やっぱり。
自分の住所を使う訳にはいかず、教会の名前を使ったのか。
シスターにお礼を言って受け取る。
持った感じは、そんなに重くない。
中身はまるで検討つかない。
わざわざ送ってくるくらいだし、訳がありそう。
ひとまず周りに誰もいない事を確認する。
この前の手紙みたいな事があると面倒だし。
ゆっくりとガムテープを剥がした。
「…え、何これ。」
箱を開けると黒い袋が入っていた。
触ってみると、中に入っているのは布か?
袋を取り出すと、底の方には手紙も入っていた。
…とりあえず袋の中を確認するか。
袋を開けて中の“それ”を取り出す。
「…っっ!?」
思わず驚いて袋ごとその中身も落としてしまった。
…これって、もしかして。
自分の手に付いていない事を確認する。
…乾いているのか。手には付いてない。
恐る恐る袋を持ち上げ、もう一度中身を取り出す。
「…これは。」
中から出てきたのは、黒いパーカー。
それはただのパーカーじゃない。
…べったりと、血で汚れている。
元々パーカーが黒いから分かりづらくはあるけど…。
手袋と、ズボンも入っている。
血はすっかり乾いていて、黒ずんでいた。
袋の中にそれを戻して、手紙を開いた。
>>驚いたかな。
>>これが、何だか分かる?
>>きっと俺が嘘をついていると、思わなくなるはず。
>>これは、証拠。
とたったそれだけが書かれていた。
それを読んで全身に鳥肌がたつ。
同時に吐き気がして、とっさに口を押さえる。
必死に飲み込んで、吐くのを我慢した。
冷や汗が出て、身体が震える。
殺人時に使われたのだろうと、思う他ない。
でもなんでそれを俺に送ってくる?
あの般若野郎の服なのか?
あいつは誰を殺したんだ?
袋の中身は全てに血が付いていて、パーカーとズボンと手袋。
よく見るとネックウォーマーも入っていた。
気分が悪くなるが、覚悟を決めてそれらを全部取り出した。
「…あれ、このパーカー。」
パーカーをよく見ると、
右腕のところが大きく破れていた。
綺麗な切り口で、まるで刃物の様なもので切った様な。
…刃物?
「は、…え?確か先生が言ってた…。」
そこで先生の話を思い出した。
両親を殺した、黒ずくめの2人組。
俺を抱えて逃げる時、厚底野郎は蹴り飛ばして。
もう1人の腕を、刺したって…。
もしかしてこれ。
般若野郎は、犯人を知っている。
“きっと俺が嘘をついていると、思わなくなるはず”という手紙の1文。
そこまでの考えに行き着いた途端、何かが切れた。
「うっっ…!」
一気に襲ってきた吐き気。
慌てて茂みに逃げ込んだ。
そのまましばらく吐き続けた。
吐くものがないから、出るのは胃液だけ。
それでも吐き気は収まらなかった。
「…はぁ、は、はぁ。」
ようやく落ち着いて、座り込んだ。
額からはあぶら汗が流れる。
あいつは、やばい。イかれてる。
自分の言葉に信憑性を持たせるために、ここまでするか?
というかこれ、どうすればいいんだ。
他の人に見つかれば、誤解されるに違いない。
説明するにもややこしい。
…何処か隠せる場所を探さないと。
でも施設内に隠せそうな場所はない。
隠すなら外ぐらいか。
「…あ、あの場所なら。」
箱に袋と手紙を入れて閉める。
そして人目を避けてあの龍がいつもいる、
あの木まで来た。
ここならいつも龍が寝てるからみんな来ない。
龍なら触るなって言っとけば、触らないし。
箱を持ったまま登るのは苦労したが、頑張って上まで登った。
龍は小さな寝息をたてて、気持ち良さげだ。
起こすのも悪いし、触るなって張り紙しとくか。
適当な紙に触るなの文字と、自分の名前を書く。
どうせここに登るのなんて、俺と龍くらい。
ここが1番隠しやすいだろう。
「さて、あとは…」
これから、どうする?
般若野郎は簡単に会える相手ではない。
でも般若野郎に接触すれば、確実に犯人に近付ける。
このチャンスを無駄には出来ない。
ようやく見えてきた犯人の影。
当時の警察が犯人に全く近付けず、手がかりもまるでなかった。
どうしてこのタイミングで般若野郎は接触してきた?
しかも、俺に。
それまで犯人に関する証言を警察にしなかった。
般若野郎は絶対何かを知っていて、企んでいる。
手のひらで踊らされている…。
そう感じているが、今の俺に打つ手はない。
般若野郎の姿が頭をよぎる。
…絶対、絶対に。
あのむかつく仮面を、化けの皮を剥がしてやる。
「…黒埜?」
突然後ろから名前を呼ばれて、肩が跳ねた。
振り向くと寝ていたはずの龍が身体を起こしていた。
まだ眠そうに目をこすっている。
「ごめん、うるさかった?」
「いや喉が渇いて…。ふぁぁ」
「あ、そう…。俺も一緒に降りるわ。」
一度施設に水分補給しに行くらしい龍に続いて木から降りた。
興味ない様らしく、なんで俺が居たのか聞いて来なかった。
施設に入ると、何やら真剣な顔で話をしている2人。
…白燈と楓だ。
「あ、黒埜どこに居たの?
でも丁度良かった!!」
「何?」
先に気付いたのは楓。
俺と龍に気付いた途端、いつもの表情に戻った。
白燈も振り向くと、にっこり笑った。
「実は今日のおやつを話しててさ…」
「…え?おやつ?」
ズコッとコケそうになった。
珍しいメンバーで真剣に話してると思ったら…。
どうやら今日は手作りする様で、どれにするか決めかねてるらしい。
…いや知らないし。何でもいいわ。
なんて言うとうるさいので、知らぬふりをした。
「ねぇ龍〜!
水なんて飲んでないで意見ちょうだいってば〜!」
1人呑気にキッチンんで水を飲んでいる龍。
俺が何も答えないから楓の標的が龍に向いた。
俺だって興味ないけど、龍なんてもっと興味ないだろうに。
「何でもい…」
「何でもいいなんて許さないからね。」
龍の声を遮って被せ気味に話す楓。
龍は正直過ぎるんだよなぁ。
もっと違う言い方すればいいのに、
思った事をそのまま言うからいつも楓と衝突する。
まぁ衝突と言っても、楓が一方的に騒ぐだけだけど。
正直なのが悪いとは言わないが、もっと上手くやればいいのにと思う。
まぁそれが龍だし、俺は口出しするつもりない。
「離せ〜、寝かせろ〜」
「さっきまで寝てたでしょ?!逃がさん!!」
また外の木に戻ろうとする龍にしがみつく楓。
でも2人とも少し表情が笑ってしまっている。
何かあるとこうしてじゃれあってる楓と龍。
見慣れた日常だ。よくある茶番。
すぐ楓が喧嘩腰になるが、
龍が反応しないので喧嘩にならない。
何だかんだ仲が良い2人。
「ちょっと羨ましいから僕らもあの茶番する?」
「いや、絶対しない。」
羨ましそうに見てるなと思った。
俺の即答が気に入らなかったのか、
えぇ〜と言いながら俺の両肩に手を置いてがっくりしている。
「あ。せっかくだし、4人でおやつ作ろうよ。」
突然面倒な事を言い出した楓。
冗談じゃないそんないかにも面倒そうな事。
料理なんてやった事ないし。
龍も露骨に嫌そうな顔をしている。
笑ってるのは楓と白燈だけ。
「いいね!カップケーキとかだったら
そんなに難しくないし!楽しそう!」
「でしょでしょ〜?」
「あ〜、俺ちょっとする事あるから…」
「俺は寝るので忙し…」
「「逃がさないよ?」」
…だから龍、そういうとこだってば。
結局強制的にキッチンに連行された。
…くっそう。




