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墓場と白。  作者: 劣
18/40

15.本音


少し俯いたがすぐに顔を上げる。

そして真っ直ぐ俺を見る様に向き合った。


「何を聞いたのか、知らないけど。

僕は養子をやめるつもりないよ。大体、黒埜コクヤに関係…」


「分かってるよ。」


俺の言葉に驚いた表情をした。

きっと説得しに来たと思ったんだろう。

…いや、間違ってはいないけど。


白燈ハクヒは目が見えない。

今こそ普通に生活しているものの、今後ずっとそうとは限らない。

この施設から1歩出れば、冷たい言葉や視線を受ける可能性がある。

もちろん、そんな奴ばかりだと言いたい訳じゃない。


それでも白燈ハクヒの昔の話を聞いて。

同情した訳じゃなく。純粋に、幸せになって欲しいと思った。

わざわざ厳しい道に進まなくたっていい。

いい加減、安定した幸せを手にして欲しい。


「俺の、為だって聞いた。理由を聞かせて欲しい。」


「……先生か、言わないでって言ったのに。」


むすっとした顔をする。

答える気はない様で、背中を向けられた。

こんな喧嘩をしに来たんじゃない。

どうすれば白燈ハクヒは俺の話を聞いてくれる?


白燈ハクヒ、お願いだからちゃんと話をしよう。」


「ちゃんとこうして時間取ってるじゃないか。

…そもそも、話す事なんて何もないんだよ。」


「こっちを向い…」


「もう!!うるさいんだよ!!」


白燈ハクヒの肩へ手を伸ばした。

しかし俺は驚きのあまり、フリーズ。

白燈ハクヒにその手を強く振り払われてしまった。

強くはっきりと、拒まれた。

なんで話をしてくれない?何かしたのか。


「…あ、いや、」


「…俺が、嫌いなのか。」


「は?」


あぁ、それなら納得がいく。

今まで髪を結んだり、いちいち声をかけて来たり。

俺は嫌われてはいない、とばかり思っていた。

でもそれは、とんだ勘違いだった様だ。


「まぁ、こんな醜い人間。

好きな奴の方が少ないか。最近、どうも他人に慣れてしまって。

忘れてしまってたみたいだ。」


「ちょ、ちょっと待って?黒埜コクヤ?」


心臓らへんがずっしりと重い。

嫌われてるのに、こんなにしつこくては余計に嫌われる。

前までは他人にどう思われるかなんて。

全然気にした事なかったのに。

もう何を言う気にもなれなくて、そのまま白燈ハクヒに背を向けた。


黒埜コクヤ?ねぇ、ちょっと!」


後ろで呼び声が聞こえたが、振り返らなかった。

…振り返れなかった。


「あれ、黒埜コクヤ。どうしたの?元気ない?」


外でちび達が遊んでるのを見ていたカエデ

その隣に座ると、顔を覗き込まれた。

何も言えなくて、俯く。

すると不意に頭を撫でられた。

顔を上げると、優しく微笑んだ。


「何があったのか知らないけど、話くらいは聞くよ?」


「…カエデは、俺をどう思う。」


「どうって何さ。」


ついさっきの話をする。

白燈ハクヒの養子については伏せておいた。

ただ白燈ハクヒに嫌われているとだけ。


「えぇ?白燈ハクヒに限ってそんな事はないでしょ。

だってあの白燈ハクヒだよ?

全身で“黒埜コクヤ大好きっ!”って言ってる白燈ハクヒが?」


“有り得ない”と首を振った。

けれど俺は嫌われているとしか思えない。


「あ、もしかして喧嘩?

嫌われてるなんて絶対有り得ないんだから、早く仲直りしなよ?」


俺は何も言い返せなかった。

そのまま日が沈み、あっという間に就寝時間になった。

俺と白燈ハクヒはその後、一言も会話を交わす事はなかった。

そんな俺たちを見て、言いたげなカエデだったが

結局は何も言わず普通に接してくれた。

…気を遣わせている。

分かっていても、どうすればいいのか。


布団に入ったが眠れる訳もなく。

すると暗闇の部屋の中で足音がした。

その足音は少しずつ遠ざかっていく。

ゆっくりと扉が、開く音。

閉じた音がしてから、俺も起き上がった。

辺りを見渡すと誰もいない布団が1つ。


「…やっぱり。」


前にもこんな事あったな。

みんなを起こさない様にそっと歩いて、部屋を出た。

それと同時に、玄関の扉の閉まる音。

…わざとか?

そう思っても追いかけない訳にはいかない。

例え、罠だとしても。


「…。」


その人影は案の定、海に向かっている。

おれはただ黙ってその後を追った。

浜辺に着くと、そのど真ん中で立ち尽くす人影。

俺は覚悟を決めた。


「…おい。」


「来てくれるって、思ってた。」


こちらを向いて笑う。少し固い表情の俺とは対照的な、

あの日と同じ笑顔。脳裏に浮かんだのは綺麗な朝焼け。

昼間と違って、少し柔らかな雰囲気の白燈ハクヒ

いつもの、白燈ハクヒ


「なんでわざわざここに?」


「それは、何となく。

2人で話がしたいと思って、浮かんだのがここだった。」


「…お前は、話す事なんかないって言ってなかったか。」


俺の問いに黙り込んでしまった。

白燈ハクヒに腕を払われた事を思い出して、

ついきつく言ってしまった。

俺も白燈ハクヒも。喧嘩がしたい訳じゃない。


すると白燈ハクヒが俺の目の前まで近寄って来た。

思わず息を止めたくなるほどの距離。

辺りは暗いのに、綺麗な白燈ハクヒの顔がよく見える。

そのまま、ゆっくりと抱き締められた。


「……。あんな事、するつもりなかった。

腕を、払うなんて。黒埜コクヤを拒絶したみたいな、

そんな事全然、思ってないのに。」


「……。」


「すぐに謝りたかったのに、声が、出なくて。

…最近ずっとこうなんだ。言いたい事があるはずなのに、

言葉が出てこない。したい事が、分からない。」


少しずつ、少しずつ。

俺を抱き締める腕が強くなっていく。

どうすればいいのか分からず、抱き締め返す事も出来ない。

白燈ハクヒは、震えてるのか?

泣いてる?白燈ハクヒに泣かれたら尚更、

どうすればいいのか分からない。俺まで泣きたくなった。


白燈ハクヒ、」


「…僕を、嫌いになった?」


震える両手が俺を強く抱き締める。

嫌い?俺が白燈ハクヒを?


「そんな訳ないだろ、そんな訳…。

…逆だろ、白燈ハクヒが俺の事嫌いなくせに。」


「違う!!!」


突然の大声。

引き剥がされたかと思うと、両肩を掴まれた。

月明かりが白燈ハクヒの長いまつげを照らす。

きらきらしていて、宝石みたいだ。


「僕は、黒埜コクヤの事を嫌いになんてならない。

一生、絶対に。言い切れる。」


「な、なんで、」


「僕にとって黒埜コクヤは太陽だよ。

黒埜コクヤの為なら何だってできる。」


あまりに真剣な表情で言うから、

少し引き気味の体勢になってしまった。

そんな俺とは真逆に、前のめりな白燈ハクヒ


「僕、黒埜コクヤの為なら。

……死ねるよ。」


「…っ!」


一瞬、すごいオーラを纏った白燈ハクヒ

怖くなって白燈ハクヒから一歩離れた。

すぐにいつもの柔らかな雰囲気に戻った。

あれも、白燈ハクヒなのか?

その一瞬、別人かと思った。


「ごめん、怖がらせたね。

でもそれくらい、好きなんだよ。分かってくれる?」


「な、なんで、こんな奴…」


黒埜コクヤはよく自分の事を“醜い”だとか、

“汚い”とか“こんな奴”とか言うけど。

僕はそんな事微塵も思わない。」


あまりの勢いに押されている。

急にスイッチが入ったかのように話し出す。

今まで溜まりに溜まっていたものが溢れた様に。


「僕の世界で黒埜コクヤ以上に美しい人を僕は知らない。

いや、人だけじゃない。植物、生き物、この世の全てで…」


「待った待った待った待った。」


これ以上喋らすと俺がもたない。

慌てて白燈ハクヒの口を両手で塞いだ。

まだ言い足りないと、不満げな白燈ハクヒ


「僕の気持ち、伝わった?」


「嫌なくらいな…。」


なんだか疲れた。ぐったりする。

てかなんでこんな話になったんだ?


「…養子の事だけど、今はまだそっとしておいて欲しい。

心配かけてるだろうし、黒埜コクヤの言いたい事が

分からない訳じゃない。けど、時が来たら。

すぐに1番に、話すから。」


…あぁ、もう。ずるいなぁ。

真っ直ぐな白燈ハクヒの表情に弱いんだよ。

そんな顔で言われたら、もう何も言えない。


「…1個だけ、お願い。」


「何?」


俯く俺の頰を両手で包む白燈ハクヒ

…ちょっと恥ずかしいからやめて欲しいんだけどな。

それを言うのもなんだか恥ずかしくて言えなかった。


「きつくなったり、無理だと思ったら。

相談、して欲しい。…1人にならないで。

俺だって居るんだから、無視しないで、頼ってよ。」


「うん、ごめん。ごめんね。」


我慢出来なくなって、目から温かいものが流れた。

それは白燈ハクヒの両手を伝っていく。

白燈ハクヒの両腕を掴むと、そっと額にキスされた。

それから俺が落ち着くまで、目から溢れるものを拭ってくれた。

あんなにすれ違っていたのに。

分かり合う事が出来て、安堵している自分がいる。


俺は仲間はずれにされて、寂しかったのかもしれない。

子供っぽいけど、それでも。

養子の事を話してくれない白燈ハクヒに、

それを唯一知っていた先生に。

怒ってたんだなと、ようやく自覚した。

我ながら面倒な性格してるな、ほんと。


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